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四話//彼を知り己を知る4



 「ああもベラベラしゃべっていたのは、俺たちに与えたい情報を会話の中に混ぜ込むため……ヴェルクはそう考えてるのか」

「ウム……」

「フムン。仮にそうだとして、目的は何なのニャ。表面上から読み取れる意図なぞ、愉快犯的な仕掛けくらいじゃニャいか」

「愉快犯、つまりこちらが深読みすることを狙って意味のない嘘をついてるってことね」

「んー……じゃあ、仮に意味があってあんな嫌味な物言いをしてる場合、あいつは俺たちにどういうことをさせたいんだと思う?」

「ムム……情報を隠す必要性、それは直接情報を伝えることができないという意味に他ならない」

「つまり────ヤツに監視の目が付いているミャン?」


 静けさを取り戻したカフェの一画では、契望者と技士が四つの頭を捻り会議を行っている。議題は払暁の征伐団幹部、橘ミエリの振る舞いの意図についてである。露悪的に振る舞いながら────何かしらの意図を以て情報を垂れ流しにしたと思われるミエリについて、その場の全員が頭を悩ませていた。


 「ところでさあ、俺たちってアイツらに見張られてるんじゃないの?ここで会議してる内容も筒抜けなんじゃない?」

「いいや、その可能性は低いニャ。ミエリが唯一動揺を見せた場面を覚えているかニャ?お前がレイジーフィーバーの名前を知らなかったことを、ヤツや引いてはその裏にいる者は知らなかったニャ。つまり詳細な会話についてヤツらに知る術は無い……恐らく映像のような形でしかこちらを盗み見ることは出来ないのだろうニャ……多分」

「おいおい、それじゃあミエリが執拗に警戒してたのは何で?ってならないか」

「ム……しかし、都合よく考えなければ、なにも立ち行かない。全て知られてしまうのであれば、作戦など意味を成さない」

「つまり、相手が思ってるよりも耳が遠くて、橘ミエリが間抜けであることを祈るしかないってワケね。はあ、腹が立つ」


 苛立たしげに爪を弄るアキラの前には、巨大なパフェが鎮座している。どう見てもやけ食いの構えであった。


 「ハムッ、んぐ、ったく、捨てたモノが追いかけてくる気持ち悪さったらありゃしない……あむ、ムグ」

「……普段どうなの、怒りが持続するタイプか?」

「ム……一通りストレス発散に努めればサッパリする…………ように思う」

「オッホン!とりあえず話を続けるニャ、手元の忙しい者は耳だけ傾けるよーに」

「パリムシャガツガツ!!」


 ウエハースを噛み砕きながら返事をするアキラに白い目を向けながら、カスパルは話の流れを引き戻した。


 「橘ミエリ個人の目的は不明、払暁の征伐団の目的はヒジリとアキラの取り込み、そう仮定して話を進める。次いでミエリのスタンスだが、消極的敵対ないし中立としておくニャ。味方と思い込んで背中を刺されたら馬鹿馬鹿しいしニャア」

「払暁の征伐団とミエリの関係は……監視付きと仮定すると、ミエリの方が立場が弱いのか。で、そのことにミエリは思うところがあるから、俺たちを味方に引き入れるか利用したいってトコか?」

「ム、隠した情報(サイン)をチラつかせる手法を鑑みるに、ミエリは監視を警戒している。我々の推測する監視能力であればミエリの行いは杞憂であり、彼女は臆病で慎重な性格となる。監視能力が我々の推測を超える精度であるならば……諦めるか全面戦争か、二つに一つ(オモテかウラか)

「モグ……コインなんて運じゃなく技術で操作出来るわよ、今回の件も同じ。私たちの会話が丸聞こえなら、ミエリが情報を漏らしたことも伝わるわけだから……アイツの生存で情報収集能力の強度を確かめられる。アイツが死んでたら全員で宛のない旅行へゴーよ」

「つまり、結局はミエリの様子を見に払暁の征伐団へ近づかざるをえないミャン」

「そう考えると、ミエリの警戒するような振る舞いすらブラフに感じるな。本当は情報が限定的にしか伝わらないことを知ってるけど、俺たちを動かすためにわざと思考の深読みを誘った、みたいな」

「で、それがどういう魂胆からくる仕掛けなのかを見破る必要があるってわけね」


 大人の前腕を超える高さのパフェを平らげ、やや満足げな顔のアキラが腹を擦る。調子を取り戻した様子の彼女に、ヴェルクとヒジリは顔を見合わせて密やかに安堵を共有するのであった。


 「俺たちと払暁の征伐団をぶつけるってのは、まあ違うよな」

「アォン、流石に負けるニャー。数は力だニャ」

「なら、魔法を利用する気なのかも。回復、もしくは光……」

「ム……バリエーション豊かな組織の人間を頼らずに、光や回復の魔法を頼る理由は」

「わかんない!」

「アキラさん、まだなんか投げやりじゃないか?ともかく、ミエリは戦力的な期待をしてないってことでいいのか?」

「まぁそうだニャ。というか寧ろこっちの思考力を試すような罠を張ったあたり、純粋に人手か考える頭を増やしたいんじゃニャかろーか」

「読めてきたわね!アイツ、予知能力者を探す探偵が欲しいんじゃないの?」

「ム……ヤツの発言にあった予知夢の契望者か。言葉のニュアンスをそのまま受け取るなら、碌な扱いを受けていなさそうだが」

「物のように扱われている、あるいは奥まった場所に軟禁されているかニャ」

「それを探すのにちょうど良いのが、まさに組織に取り込まれようとしていて、かつある程度思考能力のある俺たちってこと?」

「もしくは監視能力者を捕らえるか始末するための鉄砲玉ね」

「あるいは両取りを狙っているのかニャ。片方をミャーたちに任せ、もう片方を自分で……ニャんて」


 カスパルの言葉に全員が渋面を作った。いずれにせよ、ミエリの思惑に半ば乗る形でしか身動きがとれないことに気がついたからだ。


 「いいように動かされて癪なんだけど、怪しい組織の強力な契望者なんて、こっちに矛先が向いてちゃ安心できない連中だしなぁ……」

「目をつけられてしまっている以上、これをどうにかせんことには組織力で磨り潰されるニャ、忌々しい」

「ムム……衆に紛れて近づき、情報を集めるほかない」


 ヴェルクの肉球が、二枚の書類を叩く。広く契望者を募ると言っていたミエリの言葉を思い出しながら、ヒジリは苦々しげに書類を手に取った。


 「行くしかない、かぁ」


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