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三話//落花流水5



 周囲一帯の気温が跳ね上がるような、レイジーフィーバーの魔法────これを受けて戦場の状況は変化している。蒸発する端から消し飛ばされた水が減り、下がった水位の中で苦しそうに跳ねる怪魚の死駆罰孔を前に、グリッターシャインは樹上へカスパルを残して一人敵前へ向かった。再び水位を上げられる前に仕留める……そのような思考の元、彼女は手中の懐中電灯から光の刃を伸ばし、跳んだ。脛まで浸かる温水に着地し、魔法により強化された身体能力で無理矢理速度を出しながら接敵せんと迫る彼女の視界に、ふと何かの揺らぎがちらつく。


 「復帰が、早ェこって!」


 (いびつ)に魚を模したような水の弾丸が、数瞬前までグリッターシャインの居た場所を高速で通過していく。水を散らしながら加速した彼女の前で怪魚が大きく体をうねらせ、尾鰭による打撃を見舞わんと回転した。グリッターシャインは縦に跳躍し、眼下を通過する尾に目掛け刃を伸長させた光の剣を振った。火傷を伴う斬撃が尾鰭を根元から切り落とし、重量の変化でバランスを崩した巨体が滑るように倒れ込む。その隙に着地したグリッターシャインは、懐中電灯を砲身のように真っ直ぐ構え、魔力を集中させる。魔法の力は望みの力────カスパルの言葉と共に脳裏を過るのは、これまでに見た二人の契望者が行使する魔法である。グロウブルームの魔法は洗練された、結果に過不足無い魔力を込めた技量(テク)であった。一方でレイジーフィーバーの魔法は、結果の為に万力を込めて行使される技巧(スキル)であった。両者の違いは、戦場で培った慣れによる自動的な技と、修練によって培った能動的な技の違いである。これらを参照し、グリッターシャインは余力を残しながら必殺の威力を持つ魔法を編み出さんと魔力を高める。


 「光束(ルーメン)超照(ハイパーカンデラ)!」


 ────魔力。契望者の体内にある特殊な経路を流れるエネルギー。魔法が火ならば魔力は熱、では光の魔法の元となる魔力は何か。グリッターシャインはそれを粒子と定義付けた。彼女の持つ浅い知識の中で、光というものに対するイメージは『波であり粒子』という説に紐付いている。ならばこれを用いて魔法をより具体的に想像し、補強せんと彼女は望んだ。


 「加速……そして、解放。目が追いつけないから遅くなるってんなら、速くなるイメージで、放つ!」


 懐中電灯の先端に光の球が現れ、それは回転して加速しながらリング状に変化していく。やがてリングは光波を放ちながら輝きを増し、増大して……急速に一点へ収束した。


 「光輝燦然(グリッター)白火閃槍(グングニル)ッ!」


 呪文詠唱(トリガー)。空間を裂く光の線が、白熱した軌跡を描きながら怪魚へ殺到する!それはあっさりと鱗に覆われた体を突き破ると、グリッターシャインが懐中電灯を手繰る動きに合わせ、敵をブロック状に切り分け解体していく。断末魔をあげる暇すらない程に素早く、死駆罰孔は絶命した────かに思えた。


 「────────────!!」


 それは無音の叫びであった。自己満足のために人類を殺す、悪辣な怪物の最後の咆哮……その意は現象を伴う殺意の叫びである。獲物を相手にいいように翻弄され息絶えることに納得が出来ないと、最後の悪あがきをすべく放たれたそれは、自己の崩壊を早めながらも炸裂する────自爆である。肉体が八方へ散らばる鉄砲水と化し、巨大質量の高圧水流はグリッターシャインの全身の骨を圧し折る。それが、死に際の怪物が夢見た未来であった。


 「火炎疾歩(レイジステップ)!」

「うおっ!?」


 懐中電灯を構えたまま硬直するグリッターシャインを、唐突に何者かが吊り上げた。そのまま空中に放り出された彼女の目に、翻る外套とそれにしがみつく猫の姿が映る。レイジーフィーバーは脱力する体を無理に動かし、味方を救出することに成功した。……が、しかし、無理に動いたものがそのまま動き続けられるという希望的観測は残念ながら叶えられないのが世の摂理である。


 「柔道の授業、受けたことありますぅ?」

「時代柄、そういうの無かった、かな」

「死ぬ気で頭と首守ってええええ!!」

「おわああああ落ちるうううううううう!!?」


 空中で魔法が切れたレイジーフィーバーが落下し、その後を追うようにグリッターシャインも落下していく。すっかり水の引いた地面は、速度と質量を威力に変える準備を整え二人を待ち受けている。つまり、このまま落ちると死ぬのだ。血の気が失せ青ざめた二人は叫びながら落ち……不意に柔らかい、透明なクッションのようなものに受けとめられ軟着陸した。呆然とする契望者たちの前で、黒猫が呆れたように一鳴きする。


 「結界がなんとか間に合ったニャ。まったく、考え無し共め」

「か、カスパル先生~!」

「ありがとうございますぅ~!」

「感謝感謝マジ感謝だぜィ!!」

「二人はともかく、なんでオミャーまで結界張らずに落ちてるかニャ……」

「や!ノリで!」

「ふざけんニャよ……!」


 鋭い猫パンチで殴打されたロプスは、よろめきながら周囲に視線を巡らせ、一息ついたように上体を沈め腰を高く上げながら伸びをした。


 「なんにせよ、終わり良ければオケマルってことでヨロ!」

「……まぁ、今グチグチ言うことも無いかニャ。さっさと帰って体を休めるが吉だミャン」

「おゆはん何にしよっか?アジフライ?」

「アレの後でよく魚食う気になれるな、君……」


 湯気のたち昇る地面から立ち上がり、変身を解除するヒジリとハクシュウ。泥と湿気で酷いことになっていた衣装が消えると綺麗なままの私服が出てきたことにホッとしつつ、ヒジリは共に戦ったコンビに向け口を開いた。


 「それじゃあ……ちょっと話し合いでもしようか」




 某市、カラオケ店の一角にて。ここしか空いていないのでと通されたパーティールームには、回るミラーボールの下で謎にステップを踏むハクシュウの姿と、それを死んだ目で見るヒジリ、カスパル、そしてタンバリンに猫パンチを繰り出しリズムを奏でるロプスの姿があった。


 「恋してぇる~do do da do~ 愛してぇよぅ~do do da da~」

「フゥーッ!いつだって今日が一番キャワワだぜェ!!ミューたぁーん!!!!」

「もう七曲目だよな……?いつまで続くんだコレ」

「遅延行為でこちらの瑕疵を煽る作戦かニャ?報酬は折半で譲る気はニャいが」

「まぁいいや、飯食お。このカラオケ持ち込みOKで助かったわ」

「猫缶もいいけど鰹節のスティックも悪くないニャ」

「おいそこォ!ウチの子が歌ってるんですけどォ!?クラップして!コールして!盛り上げてェ!!」

「や~ん、ロプたんったら情熱的ぃ!」

「てかさ、ミューたんさんも飯食いなよ、腹減ってるでしょ?」

「はぁ~い、ご飯食べゆ!」


 ようやくマイクを手放したハクシュウが席に着くと、そのままなし崩しに食事会が始まった。あの後、話し合いを提案したヒジリに対してハクシュウ側は場所を指定することで合意した。そこがカラオケボックスであり……おもむろにマイクを握ったハクシュウに流されるまま、彼女らは今まで強制的にリサイタルを聴かされていたのだ。聞き馴染みの無いアイドルソングが脳内に無限リピートされつつ、ヒジリはミックスフライ弁当を片手に本題を口にした。


 「そういや、今回の討伐報酬なんだけど」

「おっ、待ってましたァ!オレちゃんとしては七割こっちでどうかな的な?」

「ふざけろニャ、ガス欠で火力不足のお前たちを救ってやったのはウチのヒジリ、そのことを理解してないとは言わせんニャア」

「あっれェ~でもさァ~最後にミューたんが助けなけりゃ、お宅の契望者は大怪我してたんじゃないのォ?」

「それを考慮して報酬は半々だニャ、これは寧ろ譲歩した結果だミャン、駄々を捏ねるならさっ引くぞ」

「おーコワ、でもでもォ?メインで前張ってたのはウチなんだよねェ。後ろでチクチクして最後にトドメ刺しただけのお宅が半分はちょっと無くない?」

「じゃあ独力で怪魚を打倒できたというのかニャ?オミャーの契望者は一撃が軽い、威力を出すには溜めが必要に見えたニャ。そんな体たらくじゃとてもとても……」

「戦闘中にブツクサ手順確認してる若葉マークちゃんよりはマシなんじゃないですかねェ!」

「フシャーッ!!」

「フギャーッ!!」


 毛を逆立てて互いを威嚇する技士に、ヒジリは珍しいものを見たと箸を置いた。終始冷静でやや皮肉屋のきらいがあるカスパルが正面から喧嘩をすることが意外だったからだ。相手方も、どちらかといえばのらりくらりと受け流すタイプに見えたため、このような交渉になるとは考えていなかった────そう思いながら顔を上げると、どうやらハクシュウも似たような考えだったらしく、やや困惑したような表情を見せていた。


 「なんか揉めてますね」

「ちょっとビックリかもです、ロプたん普段は何事も楽しぃって感じなのに」

「仕事だと性格変わるタイプなんスか」

「ううん、いつでもフラットな感じ。エヘ」

「うん?どしたん」

()のことだから、真剣なのかな……なんちゃって」

「へー、仲良いんですね」

「もっちろん!ミューたんとロプたんはズッ友!なのでっす!」


 柔らかな視線をパートナーへ送るハクシュウに、ヒジリもつられてカスパルへと目を向けた。後ろ足で立ち猫パンチの激しい応酬を繰り広げる相棒に、彼女は彼のことをあまりよく知らないと思い至った。契約遵守技士カスパル、その肩書きと仕事振りは知っていても、個人の嗜好や哲学は浅い部分しか知らないことに、ヒジリは今さらながら気がついたのである。これから長く付き合うであろう相手のことだ、もう少し知っておくべきかと────猛烈なフックでロプスを降したカスパルを見ながら、ヒジリは考えるのであった。

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