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克法ロジックパラドックス -世界を変える簡単な方法-  作者: 墨崎游弥
反逆者の旅【大陸放浪編前編】
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25 疑わしきは吐かせる

 時を同じくして、監獄塔の別室でも拷問が行われていた。

 担当するのは暗部の人間を名乗るソレイユという女。彼女はミッシェルを椅子に座らせ、丈夫なロープで拘束したうえで拷問をしていた。


「なるほど、あんたは意思に反して改造された。それも2回。反抗的な態度の割にちゃんと喋ってくれるじゃない」


 ソレイユは言った。


「不利益な情報なんざないんでね」


 顔に布を被せられたままミッシェルは言った。


「で、エステルの方はどうなの。彼女、魔族でしょう。会長は昔戦ったことあるのだけど、その手の連中をここに居座らせたくないの。わかる?」


 と、ソレイユ。

 どうやら彼女は初音より幾分か理性的なようだ。


「あいつは普通の魔族とは違う。あたしらと転生病棟から脱出して、一緒に旅をして。あの魔族とは根本的に違う。同族とかそれ以前の話だ」


 ミッシェルが答えると、ソレイユはため息をついた。


「そういうことじゃないの。もしエステルが狂って北の魔族のように無差別に人を喰らうようになったらどうするかって話。あんまり関係ないことを言うと溺死するよ?」


 ソレイユはそうやって脅す。が、ミッシェルはさして動揺しない。


「そのときはタケルがなんとかする。エステルの命はあいつが預かっているんでね」


 ミッシェルは答えた。


「あんたの素直さに免じて信用はしてあげる。とはいえ、まだ聞くべきことはある。暗部ですら消息を絶った転生病棟からどうやって生還したの」


「それはタケルとマリウスがよく知っているが……一つ言えるのは実験体にイレギュラーが起きたってこと。他ならねえあたしとタケルだ」


 ミッシェルは言った。


「なるほどね……内部からであれば納得はいくでしょう。あなたの扱いを考えると反逆するのも納得できる……」


 温情のあるソレイユに、挑発的ではあるが情報を渡すミッシェル。今のところはミッシェルが何かされるということはなかった。


 そして、時を同じくして監獄塔の最上階。

 ボビーに連れられてマリウスは初音たちの前にやって来た。


 マリウスが見たのは暖房もない中、服を脱がされて拘束されたタケル。水――氷水をかけられた形跡もあり、髪は濡れ、顔色も悪くなっていた。


「タケル……!? まさかお前たちがやったのか」


 マリウスは言った。そこには動揺と怒りがあった。


「ええ。一番疑わしいと判断しましてねえ。見かけたんですよ、彼そっくりの人物を。Ω計画の人間と行動を共にしているところを」


 初音は平然とした様子で答えた。

 彼女にはまるでマリウスの怒りが届いていないようだった。いや、届いていたとして彼女の狂気に染まった正義を前にしては無意味だ。


「いつの話だ? タイミング次第じゃアリバイがある。それに、タケルがΩ計画側じゃないことくらい今すぐ証明できる」


 と言うと、マリウスは端末を取り出して動画を再生する。

 動画には転生病棟の職員フィトに相対するタケルたちが映る。戦いが始まり、タケルたちは苦戦する。が、形勢は逆転し、タケルがフィトを殺した。他ならぬ彼の能力で。


「確かにタケルくんは転生病棟の職員を倒したようですねえ。認めざるを得ません」


「認めたならよかった。ったく、こんな寒いのに裸にして水までかけるやつがあるか。死んだらどうする」


 マリウスは言った。


「そうですねえ。解放しましょうか。さすがに敵でないとわかってこれ以上拷問するわけにはいきません。ボビー、手錠と足枷を外して下の階に連れて行きますよ。このままでは凍死してしまいます」


 初音がそう命令すると、ボビーはタケルの拘束を解く。さらに、あらかじめ準備していたであろうタオルでタケルの体を拭き、「立て」と命じた。


 マリウスは思わずタケルに駆け寄り、自身の着ていた上着を脱いでタケルにかけた。


「……ありがとう、マリウス。転生病棟でも助けられたなあ」


 タケルはガクガクと震えながらそう言った。目の焦点は合っていない。これ以上拷問が続いていれば間違いなく死んでいただろう。


「間に合ってよかった。まさか拷問されるとは思っていなかったぜ。なあ、監査官」


 と言って、マリウスは視線をタケルから初音に向けた。

 尋問、拷問をすることは他ならぬ彼女が決めた。初音の正義感が暴走したがために。


「疑わしきは吐かせる。それが必要な情勢なんですよお。申し訳ありませんが、ご理解願います」


 初音はそれだけを言う。

 彼女の行いは褒められたものではないが、鮮血の夜明団に巣食う者たちから鮮血の夜明団を守ったのも他ならぬ彼女。マリウスも理解しているつもりだった。


「いいんだ……マリウス。悪いのは僕だよ。転生病棟に捕らわれたのも、クローンの僕がいたのも、転生病棟との関係を疑われたのも全部僕が悪いんだ。監査官は正しいよ」


 タケルも初音に続いて言った。

 その姿はまるで虐待されて自分自身が悪いと思い込む子供のようだった。


 タケルたちは監獄塔を降り、最初に訪れた部屋へと戻るのだった。

【登場人物紹介】

ソレイユ・ドリオ

鮮血の夜明団の暗部所属の女性。本人いわく荒事はあまり好きではないが、その能力のために恐れられている。顔は割れていないらしい。拷問を担当する構成員の中でも温情がある方。

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