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克法ロジックパラドックス -世界を変える簡単な方法-  作者: 墨崎游弥
反逆者の旅【大陸放浪編前編】
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23 本部にて

 緋塚の町を発って3日。ようやくディレインの町に近づいてきた。


「にしても、直線距離は短いくせにいざ行くとなるとここまで遠回りするんだね。7000メートル級の山があるから仕方ないのはそうなんだけど」


 運転しながらアカネは言った。


「ちょうど最高峰が近かったんだよなあ。その近くは危険だったり通行止めだったりと。夏ならまだ話は違ったんだが」


 と言ったのは、後部座席で休憩しているマリウス。


「あ、見えてきたね。本部。東側からのアクセスがアレなの、どうにかしてほしいよね」


 アカネは言う。


 やがて、一行はディレインの町、鮮血の夜明団の本部へと到着する。

 車を降りて向かったのは、本部の建物。だが、そう上手く物事は運ばなかった。

 タケルたちが歩いていると、警備員の男たちが近づき、言った。


「事前の連絡と鮮血の夜明団構成員の付き添いがあるとはいえ、情勢が情勢だ。悪いが一度別室に来てもらう」


「なぜだ。事情はすべて話しているのに。会長に会うことも事前に決まっていたはずだぞ?」


 と、マリウスは言う。


「今は色々ときな臭いのでな。監査官の提案でもある。今お前たちをそのまま通すとこちらとしてもまずいことになる。しかもお前たちは転生病棟の手の者である可能性もある」


 警備員の男は言った。

 マリウスが交渉をする余地もない。そのまま一行は本部の建物の一室に連れて行かれた。


 待ち構えていたのは緑髪に眼鏡でスーツ姿の女。穏やかそうだが、どこか隠しきれない血生臭さを醸し出している。同じ組織に所属しているが、アカネは彼女から恐ろしいものを感じ取っていた。


「ふふふ。そう身構えることはありません。あなたたちの行動次第ではありますがここで殺すようなことはしませんよ。さあさあ、座って下さい?」


 アカネの心の内を見透かしたかのように眼鏡をかけた女は言った。

 タケルたちは初音に言われるまま椅子に座る。


「私は監査官の水鏡初音。大陸情勢を受けてあなたたちについて調べさせていただくためにここに呼び出しました。変なことをしなければ害になるようなことをしませんので」


 その女、初音は続けた。


「それでは、あなたたちがここに来た理由ですが、大陸で暗躍するとある勢力について伝えたいことがあると」


「その通りだ。テンプルズの支部長から紹介状を預かっている」


 マリウスはそう言って初音の前に封筒を置いた。

 初音は封筒を手に取り、中に入っていた紙を出して目を通す。悪い感情を抱いている様子ではなかったものの、やはり変に動けば殺されるような圧がある。


「ふむ、クリシュナがですか。しかもマリウスとスティーグが関わっていた案件に動きがあったというアレ。わかりました。マリウスとスティーグについては問題ありません。ですが」


 初音の視線はタケルたちに向いた。


「あなたたちは別です。転生病棟にいた面々は特に。体内になにか危険なものが埋め込まれていないか、検査をする必要がありますねえ」


 と言って、初音は紹介状を机の上に置いた。


 検査と聞いてタケルは嫌な予感を覚えた。転生病棟といい再教育施設といい、まともな検査などなされなかった。きっとこれからも――


「ハッ、てめぇらはあたしらの事情も理解できねえ人間なのかよ。さすが鮮血サマだな?」


 そんなタケルをよそにミッシェルは噛みつくような口調で言った。


「やめろ、ミッシェル!」


 すぐさまマリウスが制止する。さすがというべきか、手慣れている。

 マリウスが動いたおかげでこの場はどうにかなったのだが。


 しばらく待っていると、白衣を着た銀髪の男がやってきてタケルたちを医務室の奥へと案内するのだった。




 タケルたちが連れてこられたのは医務室の奥、検査室だった。

 案内した男が言うには、この検査室では人体にどのようにして手が加えられたのかがわかるらしい。ピアスやタトゥーに始まり、異能力の有無もわかるし人間であるかどうかもわかる。


「まずはタケルから検査をしようか」


 タケルが呼ばれ、別室へ。そこで血液検査に始まる様々な検査を受けた。検査をした医師も錬金術師だったらしく、その結果はすぐに出たのだが。


「何をされたかわからないが、君の身体は普通の人とはかなり違っているようだね。イデア使いのようでそうじゃないし、確実に何らかの手が入っていることは確実。とはいえ、どうやったのかさすがの僕にもわからない」


 医師は検査結果をタケルに見せて言った。

 タケルもこうなることはわかっていた。自身のことをよくわかっているのはきっとΩ計画の人間だ。


「だと思います」


 タケルは恐る恐る言った。


「ほう。心当たりがあるのかい。例えば?」


「人体実験をされたことがあるんだ。錬金術をこえた能力を移植されたらしいことはわかっているけど、詳細は何も」


 タケルはそれだけしか言えなかった。自身のことであってもわからなかった。何が正しいのかもわからないから。

 医師はどこか引っかかるものがありそうな表情を見せていた。


「まあいいか。悪いけど、本部の安全のために君の検査結果をこちらで共有する。監査官がああだからね、覚悟しておいてくれ。僕からもできる限り伝えておく。君はむしろ被害者だろう」


 と、医者は言う。

 彼の言う意味を、タケルはまだ理解していなかった。マリウスやスティーグ、アカネ、杏奈のような構成員が多いとタケルは考えていたから。

【登場人物紹介】

水鏡初音

レムリア7th『ダンピールは血の味の記憶を持つか』に登場。

鮮血の夜明団の監査官。会長、支部長にも意見でき、にらみを効かせられる立場。正義に酔っている節がある。5年前、出資者を虐殺している。

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