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克法ロジックパラドックス -世界を変える簡単な方法-  作者: 墨崎游弥
反逆者の旅【大陸放浪編前編】
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19 兵器工場

 エステルに抱きしめられ、崩落する瓦礫から守られ。

 タケルはエステルともども最下層とされていた場所よりさらに下にたたきつけられた。直後、エステルは水の防御壁を貼り、降り注ぐ瓦礫を防いだ。


 崩落は収まり、エステルはタケルを解放して立ち上がる。


 落ちてきた場所は、暁城塞のどことも雰囲気の異なる場所だった。

 迷宮や違法建築の建物のようなごてごてした雰囲気でもなければ、ゼクスが拠点としていた中央の建物のようでもない。強いて上げれば近いのは工場だろうか。

 この階層にはベルトコンベアや様々な機器があり、至る所に『安全第一』と書かれた貼紙が貼られている。一体何を作る工場だったのだろうか。


「エステル……ここは」


 タケルも立ち上がりながらエステルに尋ねた。


「わからない。だが、こういう場所は聞いたことがある。ベルトコンベアがあるのなら、工場とやらだろう。何を作っているのかは知らんが」


 と、エステルは答えた。


「そっか。僕たち、とんでもないところに落ちてきたのかもね。この工場のことも気になるけれど、僕たちもここから出ないと」


「そうだな。貼紙を見れば何かわかるかもしれない」


 タケルとエステルは工場をくまなく見て回り、脱出のヒントと情報を集めることにした。


 少し見て回れば工場の壁に突き当たり、そこには偶然工場の見取り図が掲示されていた。

 ここは比較的規模の大きな工場らしい。各エリアで部品が組み立てられ、運び込まれ、ベルトコンベアで運び、さらに部品を組み立てる。さらに一部の部品には特殊な処理が施されるらしい。


「術式の転写……こんなことができるのか。方法さえ確立されていなかったはずだよ……」


 タケルは見取り図を見て呟いた。


「だがさっき戦った連中は錬金術兵器を使っていた。十中八九ここで作られたものだろうな。転生病棟も恐ろしいことをする」


 エステルは言う。


「そうだね。その術式の転写エリアなんだけど、見ていってもいいかな。確かめたいことがあるんだ」


「もちろんだ。旅の目的を考えれば、必要なことだと思う」


 タケルが尋ねるとエステルは答えた。


 2人は見取り図を剥がし、工場の見取り図を頼りに進む。

 ベルトコンベアのうちひとつが件の場所、術式の転写エリアに向けて伸びていた。一体術式の転写がどのように行われているか。タケルは気になって仕方がなかったのだ。


 ベルトコンベアに沿って進むと、今度は壁に突き当たる。ベルトコンベアは壁に開けられた穴からその先へと続いていた。

 タケルが見取り図でその場所を確認すると、近くに扉があることが示されていた。それが意味することとは。


「他の工程と同じ空間ではできないってことなのかな」


 タケルはそう言うと、辺りを見回す。

 それらしき扉は案外近くにあった。ベルトコンベアとは少し離れているが、通じているであろう場所は同じ。タケルはすぐに扉を開けようとした。当然、扉は閉まっていた。


「あはは、だろうね。簡単には入らせてくれないよね」


 タケルは自嘲気味に言った。

 すると、エステルもタケルの隣に立ち。


「力には自信がある。私が扉を壊してもいいが……」


 エステルは言った。


「上層が崩落していないならそれでもよかったけどね。今ここを無理に開けようとしたら大変なことになりそうなんだ。扉自体は僕も開けられるだろうから」


 と言って、タケルは扉の術式を解析する。そもそも扉に術式があるかどうかも。

 案の定、扉は錬金術師が鍵を使ってしか開けられないように、錬金術の術式で細工されていた。そのような仕組みは通常ならば優秀な鍵となる。だが、タケルを相手にした場合は話が異なる。


「開けられそうか?」


 と、エステル。


「大丈夫。扉にかけてある術式も解析した。あとはナノースを使うだけだよ」


 と言うと、タケルは扉に触れたままナノース『Vaccine』を発動させた。タケルの錬金術は免疫のように扉に作用し、術式による鍵を解錠した。当然、扉もすんなりと開く。

 その様子を見てエステルは目を丸くした。


「見てみよう。兵器の術式についてのお出ましだ」


 タケルがそう言うと、エステルもタケルに続くようにして部屋に入る。


 まず目を引いたのは、隔離された部屋を貫くようなベルトコンベア。部屋の中央付近にある、人が1人入れる程度の大きさの装置。その近くには制御装置と思われるモニターとキーボードがあった。部屋の端にあるのはデスク。デスクの上にはマニュアルらしきものが置かれていた。


「なんだ……この部屋は」


 エステルは驚きのあまり言葉をこぼす。無理もないだろう。

 そんな彼女をよそに、タケルはデスクの上のマニュアルを手に取り、目を通す。


 この部屋では、中央の装置を使って進化した術式の一部を兵器に転写しているのだそう。とんでもない技術であることに間違いはない。

 さらに兵器の詳細だけでなく、適合手術といった運用についてまでも言及されていた。どうやら、ここで作られた兵器が戦争などに投入されるまでは秒読みらしい。


「なんてことだ……この発想すら、僕にはなかった」


 タケルは呟いた。それと同時に、断片的なものがつながった気がした。

 転写される術式の元となったのはラオディケの術式で、術式の転写には再教育施設で戦ったミュラーも関わっている。ここまではタケルがついさっきまで見てきたものの話。

 そして、ここからはタケルの知る未来の話。


「でも、未来ではこの兵器が使われていた。オメガ計画の完遂と邪魔者の排除に、本当によく使われていた」


 タケルは言った。

 すると、エステルが聞き返す。


「どういうことだ、タケル」


「今から僕が話すこと、信じてくれても信じなくてもいい。これは僕とグリフィンが見た未来だ」


 タケルは視線をマニュアルからエステルに向けるとそう言った。

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