15 『CANNONS』の夾雑物
舐めた態度のクリフに対し、ミッシェルは接近して突っ込む。
対するクリフは引き金を引く。放たれる特殊な弾丸。ミッシェルは研ぎ澄まされた感覚で見切りつつ躱す。が、そこから攻撃にはつながらない。攻撃しようとすれば弾丸が届く。だからミッシェルは避けることしかできない。
「さっきの威勢はどうした? 怖いのか?」
と、クリフは表情ひとつ変えずに言った。
錬金術兵器を手にし、本来は錬金術も扱えないはずのクリフは万能感すら覚えていた。
「恐怖なんてあの施設でしか感じたことはねえよ。つーか、無謀なことはできるかよ?」
吐き捨てるように言うミッシェル。
彼女の言うことは事実。
未来を見たミッシェルは人が変わったよう。これまで考えなしに突っ込んでいたミッシェルだったが、物事をよく見るようになった。もちろん戦闘においても。
「あのミッシェルとは大違いだな。何がお前を――」
銃口を向けたクリフがそう言ったとき。ミッシェルは一歩も動かず、エネルギーの塊を撃った。
さほど大きな爆発ではないが、クリフはその威力にのけぞった。
「人は変わるぜ」
ミッシェルは無慈悲にもそう吐き捨てた。
そこには、病棟で暴れ、『CANNONS』から『ROSE』に転用されようとしたミッシェルの面影はない。激情のままに暴れ回っていたミッシェルは、理性を取り戻している。どころか、クリフを上回る何かがある。
クリフは体勢を立て直しつつ言った。
「変わる。文字通りだな……だが、俺たちに変わることは許されていないんだよ。許されたのはただ強くなることだけだ。それ以外の変化なんてラオディケさんも院長も理事長も、誰も求めていない」
同じ『CANNONS』として改造された2人も在り方は違っていた。
ミッシェルは転生病棟やΩ計画を離れた1人の人として。クリフはあるべき世界の歯車として。もはや2人の生き方は交わることもないだろう。
クリフは引きつった笑みを浮かべ、銃剣の切っ先を地面に突き刺し。そのまま地面に向けて発砲する。すると、兵器にこめられた術式が発動し、付近で地鳴りが始まる。
ミッシェルは直感的に危険を悟り、クリフに突進。からの、兵器を持つ手にエネルギーを爆発させてたたき込む。
「何を――」
クリフがそう言った瞬間、兵器は爆発を起こす。
その瞬間、ミッシェルは足下でエネルギーを爆発させ、クリフから距離を取る。爆発に巻き込まれたのはクリフだけだ。
「何をじゃねえよ……」
ミッシェルは小声で言うと、口の中に入った誇りをぺっと吐き出した。
爆発が収まってゆく中で、クリフは自身の額から流れる血を拭った。
『CANNONS』として戦う中で、この程度の傷はよくあること。だが、クリフは妙な感覚を覚えていた。
それでもクリフは自身のなすべき事を優先する。ラオディケに振られた仕事で、アノニマスの理想に向けたこと――
だからクリフはひしゃげた銃剣を片手に土埃の中から出てミッシェルに突撃する。銃剣を振るい、その刃でミッシェルを切りつけようとする。
が、ミッシェルは靴底で攻撃をはねのける。そうして、言った。
「てめぇらはな、未来では罪もない人間を殺すために使われてんだよ! 兵器みてぇに! 嫌じゃねえのか!?」
そこにはミッシェルの考えがあった。
攻撃をはねのけられたクリフはよろめくも、ミッシェルを見てこう言った。
「いいじゃないか。生きる指針を我々は考えなくていい。考えることがどれだけ疲れることか、お前もわかるだろう」
根本的に何かが違う。ミッシェルは確信した。
片や生き方を自ら考えたミッシェル。
形や自身で考えることを放棄し、兵器のように生きるクリフ。
2人が同じ方向を向いて生きることなんてもはやありえない。
「あぁ……てめぇにはわからねえか。それを考えると、あたしは『CANNONS』でも異質な存在っつーわけだ!」
体勢を立て直したばかりのクリフに、たたみかけるように攻撃する。エネルギーで爆発を起こし、蹴りと拳をたたき込み。
「夾雑物が……!」
「残念だったな!」
最後の一撃の瞬間、クリフとミッシェルは同時に言葉を発した。
直後、クリフの体内に異質なエネルギーが流れ込み。クリフの全身の臓器が破裂する。
口からは赤黒い血が流れ、目は虚ろになり。クリフは背中から倒れる。
即死だった。
「やれやれ、あたしはこんな連中と戦うのか……改造されて、心まで人間やめてんじゃねえか……」
ミッシェルは呟いた。
彼女と相対した『CANNONS』の男は使命に縛られるあまり、命を落とした。クリフの最後がこうではなかった可能性もどこかにあるのだろうが――
「まあ、終わったことか。別にクリフの野郎はあたしの弟でも娘でもねえ。同じ『CANNONS』で敵だったってだけか」
ミッシェルは呟いた。
ミッシェルとクリフの戦いに決着はついたが、一連の戦いそのものは終わっていない。付近ではまだ、従業員と兵士たちとの戦いが続いていた。
ミッシェルの視界に入るのは、何人もの従業員を相手するレフの姿。その光景――レフの引き起こしたバグ――は異様だった。




