13 ラオディケと暁城塞
揺れが弱まったと思えば、新たな揺れ。じっとしているだけでは、この城塞は爆破されつくしてしまうだろう。
異常事態だ。
タケルたちがパニックに陥りかけているのは見て取れる。だからこそ、この地のボスであるゼクスは腹をくくる。
「脱出装置を使う! お前ら、掴まってろ!」
姿勢を低くしつつ、壁に手をつきながらゼクスは言った。
彼の言葉を聞いても安心はできない。だが、そこに頼もしさがあった。
壁に手をつき、隠し扉をこじあけ。脱出装置のボタンを押すと、爆発とはまた違った振動がフロア全体に伝わり――フロアに動力源がつけられたかのような轟音が響く。かと思えば――飛び立つ前に下の階層を破壊されたことで、脱出装置ごと落とされる。
脱出失敗だ。
タケルたちはフロアごと下に落ちていく。
そうして、フロアは最下層にたたきつけられる。
痛み。ふわふわとした感覚。
タケルたちは体のあちらこちらをぶつけ、ひどければ骨まで折れていた。
痛みをこらえつつ立ち上がり、タケルは言う。
「みんな、無事? もしケガをしたんだったら僕が治療するよ」
「私は大丈夫。私も錬金術は使えるから、治療は協力するからね」
と言ったのはアカネ。
彼女はまだ立ち上がっていなかったが、その後ろでエステルが何事もなかったかのように立ち上がる。
そうして治療もして全員が無傷の状態となったときだ。
この場に響く、よくわからない足音。
タケルたちのいる部屋――フロアでは歩いている者はいないはずだ。
「ふふ、あなたたちの居場所は100年前からわかっていました。滑稽ですよねえ」
女の声。
身構えるタケルとマリウスとミッシェル。3人はこの声の主を知っていた。
ほどなくしてドアを爆破して現れる、眼鏡をかけた紫髪の女。微笑みを浮かべたその顔はどこか優しげだが、彼女の本質を表してはいない。彼女――ラオディケ・サマラスは邪悪な人間でしかないのだ。
「それは私のことかい?」
ラオディケの言葉を受け、はるが言う。
「違います。というか、嘘です。でも突き止めたことは本当ですよお。信じて下さい」
詐欺師が人をだますかのように、だがどこか不謹慎な冗談を混ぜ込んだような口調でラオディケは言った。
「そうか……ヴァンサンも言っていたバーコードのことか。これがある以上、僕たちは逃げられないんだね」
と、タケル。
「うふふ、話が早くて助かります。私、頭が良い人は好きですので……ついてきてくれるならあなたの命だけは助けましょう」
ラオディケは、タケルに仲間を見捨てる選択肢を提示してきた。
が、タケルの答えは最初から決まっている。それを伝えようとしたときだ。
「嘘です。あなたのことは体の隅々まで知っていますので、こんな条件をのまない事くらいよ~く理解してますよお」
ラオディケの優しげな微笑みが、邪悪な微笑みに変わる。
直後。タケルたちのいた部屋は爆発した。
粉塵、瓦礫、崩落。
それらを回避しながらゼクスは言う。
「そういや、この地下には工場があった。5年前に壊滅した組織が管理していたが、俺が城塞の管理者になる前に買収されちまったんだよなァ?」
暁城塞の崩落という非常事態でも、ゼクスは冷静だった。
崩落が収まった後、瓦礫の上でラオディケは言う。
「そうですね。カナリス・ルートにかかわって、兵器に詳しくて、この時期まで生きていて、秘密を守れる環境にいて、工場を買収できる財力がある。そんな人間、1人しかいません。嘘です、私とその同志しかいません」
先ほどと変わらぬ声色、口調で話すラオディケ。
同じアイン・ソフ・オウルでも、ラオディケはこれまでにタケルたちが対峙したどのメンバーよりも恐ろしく見えた。
「ここ、暁城西は兵器工場として知られていましたが、5年前から私、ラオディケ・サマラスが噛んでいたのです。おーっほっほっほ!」
ラオディケは丁寧な口調で説明した後、演じているかのように高笑いした。
「クソが……胸糞悪ィ」
吐き捨てるゼクス。
「Ω計画に関連施設があるって知っていたけど、まさかここにあるなんて」
タケルも言う。
そんなときだ。ミッシェルとエステルがさらなる敵襲に気づいたのは。
タケルたちの周囲を取り囲むのは、武器を持った男女。中には作業服を着た者もおり、恐らくは地下の兵器工場の従業員だろう。
武器を持った者たちは照準を合わせるなり、引き金を引いた。放たれた銃弾はどう見ても普通のものではない。だからこそ当たってはならない。
ここで動いたのがエステルだった。
「全員、この外に出るな!」
そう言うと、水の塊から壁を作り出し。9人全員を守るように、半球型に展開される。
水の壁は特殊な銃弾をはじく。これでひとまず攻撃を防ぐことだけはできる。
「まずいな。突破口がねえと、俺たちはじり貧じゃねえか?」
マリウスは言った。
「その通りさね。しかも、ここはこちらの本拠から敵地に変わった。敵の戦力がわからないから、消耗戦はできないよ」
そう答えるのは、はる。
老練の戦士であるはるはこの戦況と敵味方の戦力をよく見ていた。
突破口のわからない状況だが、エステルだけは突破口を見いだしていた。
「いや、私は違う。魔族だからな。私の戦いを見て作戦立案に役立ててくれ」
エステルはそう言うと、水の壁を通り抜けて兵器を持った者たちの前へ。
「何のつもりだ……」
「撃つぞ……! いや、撃っていいのか……!?」
従業員や兵士たちがそう言っている中、ひとりの従業員が発砲し、銃弾がエステルの腹部を貫いた。
銃弾が着弾するとき、まるで錬金術でも使われたかのように腹部に大穴が空いた。人間ならば致命傷となりかねないものだろう。が、エステルは違った。その程度の攻撃は、ダメージにすら入らない。
「そんなものか」
銃弾を受け、大穴が空いても肉体を再生させながらエステルは言った。
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