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克法ロジックパラドックス -世界を変える簡単な方法-  作者: 墨崎游弥
反逆者の旅【大陸放浪編前編】
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11 暁城塞へ

 次の目的地は緋塚の町。ディレインまでの道中でもある異様な町だ。


「緋塚といえばあの暁城塞だよね。確か5年前に所有者が変わったって」


 車の後部座席に座っていたアカネは地図を見ながら言った。

 地図で示された緋塚の場所は北東レムリアの南西寄り。中央レムリアの平原地帯にさしかかるような場所だった。


「確かそうだったな。入り組んでることに変わりはないが、昔より内部はマシになったって話だ」


 そう言ったのは、今はマリウスに運転を任せているスティーグ。

 鮮血の夜明団として活動していたスティーグは、ここ数年の事情もよく知っている。


「今の所有者がクローンについての情報を持っている話だったな。どこまで知っているかはおれたちにもわからなかったが……」


 さらにスティーグは続け、後部座席にいる4人にグミの入った袋を渡す。


「そっか。ありがとう」


 アカネはそう言って袋を受け取った。袋から緑色のグミを取り出して、ミッシェルに手渡す。


「そうだ、みんな聞いてほしいんだけど」


 そうしてタケルも口を開く。

 運転していない面々はタケルをちらりと見た。


「杏奈さんから面白いことを聞いてね。とある錬金術師が書いた奇書『女神へ』って本なんだけど」


「それは聞いたことがないな……詳しく教えてくれ」


 と、スティーグ。


「杏奈さんは実物を読む方が早いって言ってたけど、新約と旧約があるみたいなんだよね。それから、カノンの日記と共通するところがあるって」


 タケルの言葉を耳にして、スティーグとアカネは顔を見合わせる。


「実物を読んだ方が早いっていうのは、読める環境ってことだよね。本の所在とか教えてもらった?」


 と、アカネ。


「教えてもらったよ。『女神へ』は鮮血の夜明団本部の閉鎖書庫に置かれているって」


「閉鎖書庫って……予約と申請が必要なところじゃん。手続きはしてる?」


「してないよ。杏奈さんは直接出向けないし、マリウスかアカネかスティーグに頼めって」


 アカネに聞かれると、タケルは答えた。

 例の奇書の保管された閉鎖書庫は鮮血の夜明団に5年以上所属している者でなければ予約、申請ができない。しかも申請したからといって必ずしも書庫に入れるとは限らない。


「わかった、おれがやろう」


 スティーグはそう言うと、携帯端末を操作して手続きを進める。

 そうしているうちにも車はどんどん進むのだった。




 半日ほど車を走らせ、ようやく一行は緋塚の町にたどり着いた。

 気温こそ春月とあまりかわらないが、春月よりもややからっとしたその町にはじめじめとした空気がなかった。

 だが、その町も異様だった。ビル街とは別方向に巨大で異様な建物――の塊があったのだ。


 暁城塞。

 北東レムリアの第2の魔境、混沌の具現、大陸政府の権力の及ばない無政府地帯。


 一行は車を鮮血の夜明団用の地下パーキングに駐めて、歩いて城塞へと向かう。


「すげえな……本当に何があるかわからん」


 マリウスは暁城塞を前にしてそう言った。

 やはり、圧巻だ。

 城塞の外側には固められたかのように中層ビルがいくつも建てられ、そのうえにはバラックや平屋が建築されている。その上にも無理矢理バラックが作られているところだってある。

 城塞の内側はより高いビルが作られ、それらが塊のようになっている。上の方は光が差し込んでいるようにも見える。


「これでも5年前よりはましなんだよね。迷宮の主がいなくなったとかで。案内人がいないと迷いそうだけど」


 タケルは言った。


 実際、タケルたちは案内人を待っていた。城塞の管理人自ら案内人をよこすと伝えてきたからだ。


 しばらく待っていると城塞のビルの自動ドアから金髪の屈強な男が出てきた。威圧感を抱かせる彼だったが、タケルたちの姿を見ると近寄ってきた。

 彼の姿を見ると、タケルは身構える。だが。


「待ちな。おれは別に戦いに来たんじゃないぞ」


 屈強な男はタケル一行を前にしてそう言った。

 事実、その男から敵意は感じられない。それでもタケルとミッシェルは男が一行をだまそうとしているのではないかと警戒していた。

 そんなタケルたちに対し、男は名乗る。


「おれはレフ=狩村。暁城塞の案内人だ。お前たちは確か、ボスに連絡をよこしてきた人たちだな?」


「覚えていてくれて何よりだ。俺はマリウス。前もってここに来ることは伝えていたし、昨日も連絡はしておいた」


 と、マリウス。


「そうか。助かる。こう、うっかり殺してしまうことも防げるからな」


 と言って、レフはからっと笑う。そこには死線をくぐり抜け、死に慣れてしまった者特有の何かがあった。マリウスやミッシェル、エステル、スティーグ、アカネとも似たような。

 タケルだけがそうではない。


「行こうか。ボスを待たせている」


 レフは言った。


 一行はいよいよ暁城塞に突入する。


 暁城塞に一歩足を踏み入れてみれば、空気が一変する。外から見た雰囲気に違わぬ異様さ。長いこと閉めきっていた部屋のようによどんだ空気。かすかに特異臭も漂ってきている。


「いいか? 絶対におれから離れるんじゃないぞ。もし離れたらボスに会うどころではなくなる。外に出れんかもしれんぞ」


 歩きながらレフは言った。

 やはりここは迷宮。ましになったとはいえ、初めて暁城塞を訪れる者は案内人なしでは迷ってしまうのだ。


「気をつけるよ。まあ、僕が迷えば錬金術で壁なんかを壊して外に出ようとは思うけど」


 と、タケル。


「ああ……それはやめた方が良い。ただでさえ違法建築で強度がわからん。崩落の危険性もあるぞ」


 レフはタケルの考えに賛同しなかった。だが、暁城塞という場ではレフの言うことが正しかった。


「これから階層を移動するぞ。移動したら迷いやすくなるからな」


 さらにレフは言った。

【登場人物】

レフ=狩村

鮮血の夜明団とは別組織の所属で、暁城塞に入り浸っている。ゼクスと親しく、彼から案内人の仕事をもらっている。

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