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克法ロジックパラドックス -世界を変える簡単な方法-  作者: 墨崎游弥
反逆者の旅【大陸放浪編前編】
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10 アカネ・ササグリ

「……まあ、そういうわけだ。春月は異質な土地。1000年前から吸血鬼がいるし、私のような異常な一族もいる。この世界の異常性だといわれているもののひとつは春月の祠に封じられたものだし、因習や呪術が浸透している」


 会議のとき、ミッシェルが検査に連れて行かれた後、杏奈はそう言っていた。それならば祠を壊した疑惑のかかっているミッシェルへの対応も仕方の無いものだろう。


 会議の翌日。

 春月支部は相変わらず忙しそうだった。が、祠が壊されたことで対策本部がつくられ、ミッシェルの検査だって進んでいる。支部長の杏奈にいたっては寝る間も惜しんでいるようで、目の下にはくまができていた。


 それでも杏介がタケルたちを集めて検査結果を説明する。わざわざ会議室のひとつにタケル一行を呼んでまで。


「昨日はごめんね、ミッシェル。それでも、検査をすればいいと言ってくれたおかげで口頭からでは得られない情報が手に入ったんだ」


 杏介は言った。


「そりゃ、よかったな。で、あたしの体はどうなってんだ?」


「かなり改造されているみたいだからなんともいえないけど、神経系が強化されていたり体内に蒼爆石みたいなエネルギー体があったり。こんな人体改造ができる連中がこの大陸にいるんだな……」


 ミッシェルに聞かれると、杏介は答えた。


「そうか。じゃ、あたしの検査結果のエネルギー体以外の項目をCANNONSの情報ってことにしといてくれや。また連中と戦うことがあったら、とっ捕まえて寄越すからさ」


 と言って、にっと笑うミッシェル。


 そんな中、会議室に杏奈とアカネも入ってきた。

 2人が来ることは誰も知らされていなかったようで、ほぼ全員が目を白黒させた。


「驚かせて悪いな。写しを読んでみてな、伝えておくことが増えたのだ」


 杏奈はそう言って上座に腰掛け。


「この世界には8つの異常性がある。うちひとつは未知、知られてすらいないものだが……私は春月とその周辺各地にある祠が関係していると踏んでいる」


 杏奈はさもタケルたちがある程度のことを知っているかのように語る。が、どうにもタケル以外はぴんと来ていない様子。

 そこにアカネが口を挟む。


「杏奈さーん、まずは異常性のことを説明しないと」


「そうだったな。異常性とは、カノンの日記から読み解いた、この世界を特徴付けるものだ。日記ではそう定義されていたから、我々もそう定義する。

 それで、異常性の内訳だが……まずは魔法。次に錬金術・吸血鬼。イデア能力に大陸のエネルギー……蒼爆石に人間ではない種族の存在、それから、分断・隔離された大陸。世界を滅ぼしうる因子。もうひとつの異常性は未知とされていたが、まあさっき話した通りだな」


 杏奈はうろたえることもなく、つらつらと説明する。

 彼女の言及した異常性は基本的に理解できるものだった。


「なるほど、それはわかったが……世界を滅ぼしうる因子とは何だ?」


 エステルが尋ねる。


「……私だ。それから、会長もそうだ。これは女神を名乗る女に直接伝えられてな。例の日記を書いたやつも鋭いことだ。なあ?」


 と言って、杏奈はエステルではなくタケルを見た。それはまるで、タケルが世界を滅ぼす因子を持っているかのように。


「あはは、異常性が世界を滅ぼすなんて狂っていると思いましたよ」


 タケルは苦笑いしつつ言った。


「そうだな。さて、私も紹介状を書くとしよう。会長宛だ。会長ならわかることもあるかもしれん」


 と言って、杏奈は締めくくる。

 だが、その後杏奈はアカネにアイコンタクトを取る。


「あ、あの……言いにくいんだけどね。祠が壊されて避難指示まで出してる状態でここに長居させられないって話になったんだよね」


 アカネは壊された祠についての話を切り出した。


「だから、杏奈さんが急いで紹介状を書くからでき次第出発してほしいのと……私も旅に連れて行って?」


 と、アカネは続ける。

 彼女の言葉の後半は予想外だった。彼女はあくまでも春月の人間だと、5人全員が考えていたのだ。


「え……あなたは春月の人だよね」


 タケルは聞き返す。


「そうだけどさ。なぜか他人事な気がしないんだよね。それに、祠のことは私が対応できるから、一緒に行くメリットもあると思う」


 アカネは答えた。

 篠栗茜(アカネ・ササグリ)。春月所属の、ロゼと似た雰囲気を持つ女。祠についても何か知っていることか対処方法があるようだった。


「メリットなんて考えてないよ。でも、他人事な気がしないのなら一緒に来るといいんじゃないかな。僕も君に雰囲気が似た人を知っているから」


 タケルは言った。


「ほんと? 嬉しい! 春月支部の許可は取ってあるからね!」


 わかりやすく喜ぶアカネ。

 タケルが杏奈と杏介に目線をやると、2人ともアカネの旅立ちには納得している様子だった。


 そうして、しばらくすると杏奈が口を開いた。


「そういうわけだ。互いにやるべきことを全力でやろうじゃないか」


 その日、杏奈は会長への紹介状を書いた。

 タケルたちは春月を発つ準備を進めた。

 春月支部の面々は、破壊された祠への対処に追われていた。


 タケル一行が春月を発ったのは翌日だった。

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