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7 敵と味方と病棟と

「ここから出よう。僕たちの人生を取り戻すんだ」


 ミッシェルに向かってタケルは言った。

 差し伸べた左手には『11』と刻印され、それはミッシェルも見ていた。だからこそタケルを信用できなかった。


「……てめえ、アイン・ソフ・オウルのクソ野郎だろ?」


 ミッシェルは胡坐をかいてそう言った。

 すると、タケルは少し考えてミッシェルにカードキーを見せる。


「違うよ。さっきもアイン・ソフ・オウルと戦ってきたし、彼からカードキーも奪った。彼らの敵だよ」


「それでも信用できねーな。職員で変な性癖でもその恰好は理解できるぜ、変態野郎」


「は……」


 奪い取ったカードキーを見ても、タケルの言い分を聞いてもミッシェルは信用しない。さらに、彼女は立ち上がり、タケルに跳び蹴り。タケルは額を蹴られて後ろに倒れ。その隙にミッシェルは閉鎖病室の外に出た。


 閉鎖病室の外ではマリウスが単独で戦っていた。相手は武装看護師。彼らをどうにかしなければミッシェルは外に出ることもかなわない。

 ミッシェルはマリウスの評判を他の被験者から聞いたことがある。被験者に優しいと評判の新人検査技師。笑顔とたれ目、長い銀髪と屈強な身体が特徴的な男だとは聞かされており。ミッシェルは戦っている彼こそがマリウスだと気づいた。


「いいこと思いついた。本当にいいやつなのか、あたしがあの中に入って確かめてやるか……」


 ミッシェルは呟くと、スタスタと走って戦いの中に飛び込む。残る武装看護師は10人程度。マリウスが攻撃を繰り出した直後、ミッシェルは近くにいた武装看護師を蹴り飛ばした。動きづらい入院着を着たままで。


「なんだ……!?」


 武装看護師とマリウスの双方から声が上がる。辺りの混乱はさらに酷いものとなるが、ミッシェルはそれを利用する。背後にいた武装看護師も殴り殺し、さらにもうひとりは蹴り殺す。


「ROSE-Ω-1か。あの鉄の部屋に閉じ込めていたというのに。一体誰が……いや、それはともかく」


 武装看護師たちの後ろでフィトは言った。彼は戦闘に飛び込みたくてうずうずしている様子だった。だが、幹部アイン・ソフ・オウルはまだ動く段階ではない。


「被験者だな? どう――」


 ミッシェルはマリウスが声をかけるも隙を見て蹴りを入れる。マリウスは躱し、さらに近くの武装看護師に一撃を入れる。


「病棟職員が味方気どりか!? てめえら全員まとめてぶっ殺してやる!」


 攻撃をかわされたミッシェルは怒りにかられて吐き捨てるように叫ぶ。

 対して、マリウスは半ば暴走しているかのようなミッシェルに対してこう言った。


「落ち着け! まずは武装看護師と幹部を何とかしないとだろ!」


 マリウスの声で、ミッシェルは現状を認識する。マリウスは信頼に足る人物ではないが、彼が戦っている武装看護師とフィトは厄介だ。ミッシェルは湧き上がる怒りを抑えつつ武装看護師と相対し、無双した。


 そうすることで、襲撃してきた武装看護師たちをすべて沈黙させた。が、まだフィトは残っている。

 武装看護師が戦っていた中で、フィトは唯一傍観に徹していた。そんな彼が言う。


「君、すごいね。見ほれちゃったよ」


 にこりと笑うフィト。彼は一見敵意などないようだったが、奥底にはある種の狂気があった。さらに、彼の首筋には『4』と刻まれていた。それはアイン・ソフ・オウルである揺るがぬ証明。ミッシェルは敵意と殺意が湧き上がり。


「知るかよ。てめえは、『11』って刻まれたやつの同類か? 同胞か?」


 ミッシェルは言った。

 するとフィトはばつが悪そうに頭を掻き。


「そうなるはずだったんだよ。彼が死ななければ。ナノースを移植する過程でね、適応はしたけれどその後に血圧低下、意識消失を経て死亡した。それまではよくあることだった。問題は彼がその後生き返ってしまったこと、検査技師マリウス・クロルと結託してこの病棟を潰そうとしていること。大問題だろう?」


 フィトはそう言って、はははと乾いた笑みを続ける。が、少し動こうとすれば温厚な彼から殺気が漏れ出る。


「おい、どこから漏れた?」


 今度はマリウスが言う。

 彼が検査室にタケルを連れ込んだとき、外に情報が洩れるようなものはすべて電源を落としていた。怪しまれないために監視カメラの映像も差し替えたはずだ。


「意外と色々なところから。だいたい、末端の職員に情報を遮断する権限なんて与えないよ。しかも、君たちに関しては優秀な僕の部下が監視できるようにしてくれたからね」


 と、フィトは言った。

 つまり、最初からすべて筒抜けだったということ。

 さらに、フィトは小型のタブレットを取り出して幹部とマリウスたちの位置情報を共有。院内放送に接続した後にこう言った。


「さて、皆。反逆者は3人だ。やつらの位置情報は共有した。取りこぼしのないよう、必ず捕縛して鉄の病室に放り込むように」


 彼の言葉を聞き、マリウスは戦慄した。パーシヴァルと同じ強さを持った人物が彼含めて10人、襲い掛かることになるのだ。

 一方、ミッシェルはもはや待てなくなり、フィトに襲い掛かる。


「クソが! 殺す! てめえら全員、地獄に送ってやるからな!?」


 と言って蹴りを繰り出す。フィトはあえて避けず、正面からミッシェルの攻撃を受け止めた。そのとき、彼は恍惚の笑みを浮かべていた。


「あぁ……いい蹴りだよ。さすが戦闘用改造人間。『ロゼ』の適合手術を受けてもなお強いんだね……!」


 震え、昂る声で言うフィト。

 そんな彼に対してミッシェルは蹴りや拳を叩きこむが、フィトは言葉を吐いて受け止めるだけ。


「戦闘用改造人間がコレなら、『Vaccine』のナノースはどれくらい心地よいんだろう?」


 と言いながら、フィトは顔が変形しながらも吹っ飛んだ。

 ミッシェルは勝利を確信したが、フィトはフロアに横たわりながらも肉体を再生する。


「そうだった。錬金術師は肉体を再生できるな……」


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