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克法ロジックパラドックス -世界を変える簡単な方法-  作者: 墨崎游弥
反逆者の旅【大陸放浪編前編】
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8 魔境突入

 車のドアを開ければわかりやすく冷たい空気が流れ込んできた。

 ここは春月。正確には春月の郊外の道の駅。周囲には春月とほとんど変わらない木々がたちならび、紅白の花が彩っている。日陰にはまだ溶けきっていない雪が少しばかり残っていた。

 ここが大陸の北東だ。


「ようこそ、魔境春月へ……って結構すげえ事書いてあるじゃねえか」


 ミッシェルは駐車場近くの看板を見て言った。


「まあ事実だからな。アノニマスが吸血鬼を増やす前から吸血鬼が多いエリアだし、妙な因習の村があるし、案件が異質だし。魔境っつうのが妥当な評価だ」


 そう言ったのはマリウス。

 ついさっきまで運転しており、ロングドライブで疲れている様子だった。


「で、今日はここで泊ってから明日春月支部に行くんだろ?」


 そう言ったミッシェル。


「その日程だな。チェックインしてくるぞ」


 スティーグは答えて道の駅の宿舎の方へ。そこで手続きをして、宿を手配するのだそう。


 その日の夜。一行は道の駅の宿で夜を過ごしていた。

 運転して疲れていたマリウスとスティーグはそうそうに眠ってしまった。タケルも寝てしまい、眠れないエステルも本を読んでいる。ミッシェルもうとうとしていたが、ふとした瞬間に目がさえてしまい、ベッドから出る。

 読書用のランプをつけて錬金術書を読むエステルをよそに、ミッシェルは上着を羽織って外に出た。


 3月半ばとはいえ、夜の春月ならば外は寒い。ミッシェルの吐く息は白くなり、周囲の街灯の光に照らされて幻想的な光景を作り出す。


「ほんとに、見たこともねえ世界だな」


 ミッシェルは足を進める。

 道の駅の裏手には公園があり、その片隅には小さな祠がある。作られた目的は不明で、道の駅ができたときにはすでにそこにあったという。


「そういえば――」


 ミッシェルはこの瞬間、強烈な殺気を感じて振り返る。


「こっちだ、青い『ROSE』」


 男の声。

 強烈な殺気の方向はすでに上にあった。

 ミッシェルが見上げると、そこには白いコートを着た男が。鮮明には見えないが、声と殺気には覚えがあった。


「ローベルトのクソ野郎じゃねえか」


 ミッシェルはそう言って笑みを浮かべる。


「言うなあ。そうなる前みたいにローベルト・メイネルスって呼んでくれよ?」


 と言って、ローベルトはサーベルで斬りかかる。重力に沿うような単調な刃を、ミッシェルはひょいとかわす。そこから攻撃に移り、エネルギーを掌から爆発させる。爆発の衝撃でローベルトは吹っ飛んだが、しっかりとミッシェルを見る。


 ローベルト・メイネルス。

 転生病棟の兵器用改造人間CANNONS(カノンズ)のひとり。ミッシェルのように目立って反抗しなかったからこそ離反もせず、こうしてミッシェルの前に立ちはだかっている。


「はっ、てめぇくらいクソ野郎で十分だ」


 ミッシェルは得意げな顔で吐き捨てた。が、彼女もローベルトの戦闘力を評価している。エネルギーの爆発能力があるとはいえ、ほぼ丸腰でローベルトと戦うことは厳しいだろう。


 先に動いたのはローベルト。CANNONS(カノンズ)として底上げされた身体能力をもってしてミッシェルに斬りかかる。

 対するミッシェルはかわす。せめて武器でもあればよかったが。


 ローベルトが斬りかかっては躱し、エネルギーをぶつけようとすればサーベルで防がれ。それを起点にローベルトは素早い斬撃を何度も繰り出し。ミッシェルは見切りつつかわす。


「その割には避けてばかりじゃないか?」


 ふっ、と笑いながらローベルトは言う。


「あたしは戦いに来たわけじゃねえからな」


 ミッシェルは答えた。


 次の瞬間、ローベルトはミッシェルの隙をついて斬りかかるが。ミッシェルは足の裏――ブーツの靴底でサーベルを受け止めた。


「ったく、何しに来たんだよてめぇは。転生病棟も再教育施設もあのザマでよく動けるな?」


 ミッシェルはあきれたように言う。すると。


「ああなったからこそだ。カノン様はそう判断された!」


 と言ってミッシェルを振り払い。たたみかけるようにして斬りかかる。剣にまとったのは、黒くまがまがしい何か。ミッシェルの肉体から抜き取られたもの。


「うるせえよ、カノンカノンって! 狂信者か?」


 ミッシェルはそう言うと最低限の動きで攻撃をかわし。

 勢い余ったローベルトはサーベルで祠を切り裂いた。

 黒くまがまがしいエネルギーに、CANNONS(カノンズ)であるローベルトのパワー。その衝撃を受けた祠は両断され、崩れ落ちた。


 そのときだ。


「隙だらけなんだよ!」


 ローベルトの背後からミッシェルは攻撃。

 蒼爆石のエネルギーを爆発させ、ローベルトはそれに巻き込まれ。CANNONS(カノンズ)にはありえないエネルギーに当てられて意識を失った。


「ったく、弱い犬ほどよく吠えるなァ? 聞こえてるか?」


 ミッシェルはローベルトを見下ろして言った。

 当然、ローベルトは何も話さない。生死は定かではないが、今の彼に口はない。

 ミッシェルはローベルトを雑に担ぎ上げ、投げ飛ばした。これで仮にローベルトが目を覚ましたとしてもひとまずは安心だろう。


 あとは、祠。

 ミッシェルは祠の破壊の意味を理解しておらず、公園の備品の一つが壊された程度にしか考えていなかった。


 壊された祠を一瞥し、ミッシェルは道の駅の宿舎に戻った。


 その翌日、ミッシェルを含むタケル一行は春月に入った。

【登場人物紹介】

ローベルト・メイネルス

転生病棟の兵器用改造人間CANNONSのひとり。主にサーベルを扱い、卓越した戦闘力を持つ。



【用語紹介】

CANNONS(カノンズ)

転生病棟で研究されていた戦闘用改造人間。主にカノンとラオディケが研究をすすめており、ここ2年ほどで形になってきた。現段階のCANNONS(カノンズ)は、素体となる人間に因子とアノニマスの血液、カノンの遺伝子、紫色の結晶を混ぜた薬品を手術によって投与することで作り出せる。ミッシェルもCANNONS(カノンズ)のひとりだったが、あまりにも凶暴だったために「あるもの」を抜き取られ。『ROSE』の高エネルギー体に置き換えられている。

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