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克法ロジックパラドックス -世界を変える簡単な方法-  作者: 墨崎游弥
反逆者の旅【大陸放浪編前編】
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7 新たなる旅路へ

 ミッシェルにも情報を共有し、一行はいよいよテンプルズ支部を発つ。


 その日の朝、エステルはひとり東側のバルコニーに出ていた。

 東側、太陽が昇る方向。エステルがそこに来た目的はひとつ。自身が光に不快感を覚えなくなった、理由を確かめること。


 エステルは恐る恐る緑色のフードを取った。

 痛みも不快感もない。肌の表面が灰でざらざらする感覚もない。まるで、エステル自身が魔族から人間になったかのよう。


「……あの文献は本当だったのか」


 エステルは呟いた。

 これで仲間たちとともに旅ができる。外套をまとわなくて良い。なにより、タケルと同じ景色を見ることができる。

 エステルの表情はやわらかく緩んでいた。


「いた、エステル……大丈夫なのか!? そんなところにいて!」


 タケルの声。

 エステルはその声を聞いて振り返る。

 来ていたのはやはりタケルだが、ずいぶんと焦っているように見えた。


「焦らなくていい。私は太陽光を克服したんだ。お前たちと一緒に旅はできるし、同じ景色を見ることができる……この夜明けみたいに」


挿絵(By みてみん)


 エステルはやわらかな表情で言った。


 この夜明けもエステルの言う「同じ景色」だろう。

 バルコニーの向こう側――南東の海岸線からのぼる朝日と、光をうけてキラキラと輝く朝の海。これから何かが始まるような町並み。はっきりと鮮やかな色がわかる世界。


 タケルはエステルの隣にすっと立ち。


「見ようと思えば見られる景色だけど、エステルと一緒に見られるとは思わなかったよ……」


 エステルの顔を見上げて言った。


「もう私は光を克服したんだ。いつだって見られるぞ」


「それなら、今から行く大陸のあちらこちらでも見応えはあるだろうね」


 タケルも微笑んだ。


 それから1時間半ほど後。

 タケル一行はスティーグの運転する車でテンプルズ支部を出た。

 最初の目的地は春月。大陸の北東にあり、魔境としても知られる異質な町。そんなところにも間接的ではあるがオメガ計画につながる手がかりがあるのだという。


「ま、最初に許可を出してくれたのが春月支部ってのもあるんだがな。じゃなきゃ、わざわざ何日もかかるところに最初から行かねえ」


 マリウスは助手席でそう言った。


「支部長がクリシュナさんと同期らしいからすぐに都合がついたそうだ。それだけでもありがたいじゃないか」


 運転しながら言うスティーグ。


「そうだ。皆に聞いてほしいんだけど……」


 ふと、タケルが言った。

 すると後部座席にいたミッシェルとエステルが同時にタケルを見た。


「カノンの日記を読んだらどうも世界を変えたいってことが書かれていたんだよね。それから、世界を変えるタイムリミットがあるってこと……」


 タケルは続けた。


「あの院長、非人道的なことを進めといて世界を変えたいなんざ考えてたのか」


 と、マリウス。


「それは僕も思う。けれど、あの研究内容が世界を変えるためなら矛盾がないってこともいくつかあるんだ。ロゼのことが一番わかりやすいよね。エネルギー問題の解決策としてロゼについて研究して……でも、僕はやってはいけないことだと思ったよ」


 さらにタケルは言う。

 隣では後天的な『ROSE』でもあるミッシェルが頷いていた。


「もし仮に世界を変えるタイムリミットがあるとしたらいつだと思うか?」


 そう尋ねたのはスティーグ。


「まず思いつくのは蒼爆石が枯渇する日。アカデミーでは7年後って言われていたけどカノンの日記では計算式が詳しいみたいで5年後って出てる。それから、ロナルド・グローリーハンマーが動くであろう日。これはいつかわからないけど今年中にありそうかもしれない。一番近いと思うのは謎の因子の存在。これが8月25日って書かれていて、何の因子かわからない。あとは、別の資料には7月7日までに計画をどうこうって書かれていたから……」


「それはタイムリミットを7月7日までとみるべきだな」


 タケルが様々な日付について解説すると、スティーグは言った。


「やっぱりそうか。じゃあ、7月7日までだね。それまでに全員のところに行かないと」


 と言って、タケルはタイムリミットまでの日数を計算する。


「3月の半ばだから、あと3ヶ月半か」


 タケルは言った。

 長いようで短い。何もしないのなら長い時間だし、何かをするのであればあまりにも短い。タケルたちにはそれだけの時間しか残されていないのだろう。


「よく考えて行動しねえとな」


 ミッシェルが言う。


「そうだよ。できる限りΩ計画を完遂させないで、最良の未来を見極める。せっかく僕はカノンの考えていたことがわかるんだから」


 タケルはそう言って再びカノンの日記に目を落とした。

 書かれていることは理解できる。それでも、タケルがなぜ理解できるのかはわからなかった。


「ま、そうだな。あとは、敵はΩ計画だけじゃねえ。俺たちやパーシヴァルたちの情報を独占すれば、技術力と資金のある組織は同じことができちまう」


 そう言ったのはマリウス。


「そうだね。同じことを政府……違うね、ロナルドがやったのがグローリーハンマー朝だ」


 車で数日かけて北上し、何度運転を交代したか数えなくなった頃に一行は春月の町近郊に入った。

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