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克法ロジックパラドックス -世界を変える簡単な方法-  作者: 墨崎游弥
反逆者の旅【大陸放浪編前編】
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2 未来の大洪水

【これまでの話(Side:タケル)】

転生病棟を脱出したタケルは一時、セーフハウスに身を潜める。状況を見てセーフハウスを出て協力者と合流する予定だったが、タケルたちは真夜中に襲撃を受ける。襲撃者の目的は外に出してはならない人物たち、タケル、ミッシェル、グリフィン。3人は襲撃者に拉致された。

次にタケルが目を覚ましたのは転生病棟ではないどこか。カウンセラーのミュラーから再教育施設であると聞かされ、タケルはまたしても脱出を試みる。施設でパーシヴァルやグリフィンと合流し、カノンやタケルのクローンを名乗る青年と戦いつつ脱出を目指すが、向かったのは施設の奥深く。そこには培養液漬けになったミッシェルがおり。

施設の深淵の研究室には再びミュラーが現れるも撃破。だが、彼に続いて死んだはずのキイラまで現れ、今度はタケルが殺されてしまう。グリフィンはタケルとほぼ同質な自身の魂をタケルに転移してタケルを蘇生することを決意。さらに培養液漬けのミッシェルが復活してキイラを撃破。蘇生されたタケルはミッシェル、パーシヴァルとともに施設を脱出。だが、タケルはグリフィンの死を知ることとなった。

「ぅぉおおおぇえええっ……」


 洗面器の中に吐き出される赤黒い血の塊。吐いているのは青い髪の女――ミッシェルだった。


 ミッシェルはこのところ、再教育施設でキイラから賢者の石を奪って以降、体調不良が続いていた。とはいっても体調には波があり、今のように血の塊を吐き出すこともあれば、風邪の治りかけ程度に回復しているときもある。キイラと戦う前くらいまで回復することはないが。


 ミッシェルは頭痛と倦怠感をこらえ、洗面器の中身をすべて処理すると部屋のリビングに戻り、ソファに腰掛けた。


「大丈夫かい?」


 リビングでミッシェルに声をかけてきたのはタケルだ。彼は再教育施設を脱出してから体調を崩すことはなかった。

 だが、目の色は変わっていた。グリフィンとひとつになってから、右目の色が緑色に変わっていたのだ。


「大丈夫じゃねえよ……慣れたけど」


 と言って、ミッシェルは身体を投げ出すようにソファに横になる。


 今、タケルとミッシェルは再教育施設の最寄りの町からさらに何キロか進んだ場所にある古い借家で潜伏していた。

 あの日再教育施設を脱出し、Ω計画の追手をかいくぐりながらどうにか逃げ出すことができたのだ。

 とはいえ、マリウスやエステル、ロゼとは離れたまま。合流しようにもその情報がない。情報を得る手段もないのが現状だ。


 目に見えて体調が悪いミッシェルを見つつ、タケルは言う。


「あんまり慣れていいもんじゃないよ。僕としてもびっくりするほど錬金術が効かなかったのが……」


 ため息をつきつつ、タケルは両手を見た。

 錬金術は使えるし術式もわかる。ナノースも扱える。だが、どうしてもミッシェルの体調不良だけは対処できなかった。

 タケルはずっとそのことを気にしている。


「賢者の石のせいだよ、きっと。あたしの体と反発してやがる」


 ミッシェルは自嘲気味に言った。


「僕もそう思う。取り出せればいいんだが、どれだけ君の体と賢者の石が癒着しているかわからない。せめて過去の症例がわかるものがあれば」


 と、タケル。

 もし、タケルが錬金術アカデミーに籍を残しており、同じ遺伝子を持つ者に奪われていなければ。もし症例がまとめられた本を閲覧する権利があれば。

 今のタケルには症例を調べることもできない。


「いいよ。あたしが賢者の石を乗っ取るつもりでいりゃあいい」


 ミッシェルは言った。


「それでも、ミッシェルはずっと顔色が悪いじゃないか。僕にできることがあったら協力する」


「タケル……」


 ミッシェルにとって、今ほどタケルが頼もしく映ったときはなかっただろう。


「あんたなら、未来を変えられるかもな。どの未来につながるか、あたしにはわかんねえけど」


 そうミッシェルは続けた。

 2通りの未来のことは、ミッシェルも知っている。タケルがアイン・ソフ・オウルの一角として暗躍する未来に、現大総統のロナルドが帝国を作り上げる未来。

 だが、ミッシェルは第3の未来を知っていた。


「なあ。あんたはさ、もし数年後にこの大陸を大洪水が襲うとしたらどうする?」


 ミッシェルは横になったまま言った。


「それは……文献を調べて、回避する方法があるか調べる。僕にできるのなら、僕なりの方法で手を尽くしたい。たかが錬金術師見習いにそんなことができるかって話だけど」


 と言って、タケルは苦笑いした。


「じゃ、あたしの頭の中にその文献の内容があるとしたら?」


「どういうこと?」


 ミッシェルの予想外の言葉に、タケルは聞き返す。


「あたしも、未来から来たんだよ。今と同じようにあんたらと合流して、あんたは目的を達成して別れて。それでいいって思ってたけどさ、現実は違った。誰が、いや、何がどうしたか知らねえが、N2032年だったっけな。大陸各地で大洪水が起きんだよ」


 ミッシェルは答えた。


「僕の知っている未来と違う……いや、僕は大洪水の前に死ぬからそうとも限らないのか……続けてくれ」


「あー……目的を達成した後、あたしらは多分各地に散らばってΩ計画の連中を倒した」


「待ってくれ」


 タケルは語るミッシェルを遮った。

 それもそのはず、ミッシェルの見た未来はあまりにも違いすぎる。

 が、タケルはパーシヴァルの話した未来のことを思い出す。異なる未来も存在はしていた。


「ごめん、続けて。未来は複数あるんだったね」


 と、タケル。


「じゃ、続きを話すぜ。あたしの知っている未来で何がマズかったかっていうと、Ω計画の概要書が九頭竜の連中の手に渡ったこと。そのことは、白の天才がよくわかってた。大洪水が起きたのは、新秩序、新世界でのことなんだよ」


 ミッシェルは語る。


「そうなんだ……その未来で僕たちは生きてる?」


 タケルがそう尋ねると、ミッシェルは首を横に振った。


「最悪な形で殺されたよ、皆。病棟を脱出したメンバーで生きてるやつなんてあたししかいなかった」


 と言って、ミッシェルは下唇を噛んだ。


「だから合流しようや。グリフィンはああでも、マリウスたちが死んだとは限らねえだろ」


「そうだね。僕も合流したい。エステルたちに会いたい」


 2人の願いと想いはほとんど一致した。

 ミッシェルの体調不良に対応しつつマリウスとの合流を目指そうと決めたときだった。


 潜伏先の呼び鈴が鳴った。

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