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4 理想

 会議の話題が反逆者の処遇に移ったときだ。

 (ムゥ)が映っていた映像が乱れる。回線にも何かがあったようだが、(ムゥ)本人にも何かあったらしい。ほどなくして(ムゥ)との通信は切断され、画面にはノイズだけが映し出されていた。


「ムゥ! 何があった!?」


 いち早く気づいたカノンは咄嗟に叫ぶ。当然返事はない。


「まずいな。襲撃の可能性がある。位置情報はわかるだろうか?」


 と、アノニマス。


「辿ってみますよ。もし居場所がわかったのなら幹部がそこに向かえば良い」


 そう言ったのはヴァンサン。

 これが最良の選択だろう。この場にいた誰もがヴァンサンの案に賛成し、会議に使われていたデバイスはΩ計画の情報解析部門に預けられることとなる。


「とういうことは、脱走した『ROSE』については振り出しに戻った可能性がありますねえ」


 (ムゥ)との通信が切れたことで中断された会議が再開される。

 このとき、最初に発言したのはラオディケだった。


「ラオディケの言うことは的を射ている。状況によっては『ROSE』がムゥの手から離れる可能性もあるだろう。パーシヴァルならやりかねない」


 ラオディケに続いてカノンが言った。


「パーシヴァルか……」


 と、アノニマス。


 元アイン・ソフ・オウルのパーシヴァル。

 転生病棟から脱走者が出て情報もいくらか盗まれた悪い状況で反旗を翻した男。


「彼は真面目にやってくれていたようだが、まさかこのタイミングで我々を裏切るとは」


 カノンも言った。


「だが裏切ったからといってその場で殺しはせん。パーシヴァルはNo.11ともども生け捕りにし、尋問した後にナノースを回収する。殺すのはその後でいい」


 そう言ったのはアノニマス。

 すると、カノンとヴァンサンの表情が一瞬だが固まった。アノニマスの言葉は確かにNo.11――タケルを殺すことを意味していたのだ。


 カノンの表情はいざ知らず、ヴァンサンの表情を見逃さなかった者がいた。ラオディケだった。


「ヴァンサン? 何か問題でも?」


 ラオディケは、隣に座っていたヴァンサンに小声で言った。


「低い適合率でなぜ……」


 と、ヴァンサンは呟く。


「できるではありませんか、スクリーニングくらいは。ですよねぇ、理事長?」


 ラオディケはアノニマスに視線を向ける。


「その通り。妨害されようとも進めるべきところは進めている」


 アノニマスは答えた。


 そうしてΩ計画の会議は終わり、幹部たちは会議室を出る。

 当然ながらその空気はすべてがうまくいっていた頃よりぴりぴりとしている。加えて、会議に参加していた者の半分以上が感じていたことがある。

 同じ「新世界」「楽園」を作ろうとする同志であっても理想を一致させることは困難であると。


「ヴァンサン」


 会議室の外、人が去った廊下でカノンはヴァンサンに声をかけた。


「一体何の用ですか」


 ヴァンサンが言うと、カノンはこう返した。


「君なら理想を語れると思ったのでね」


 理想。

 Ω計画に関わる者なら少なからず抱いているものだ。当然ヴァンサンだって例外ではない。


「どういうことですか」


「私はね、理想とする世界のために何度も時を巻き戻した。私の理想は先生……アノニマス理事長の理想だと思っていた。だが、さっき確信したよ。私の理想はアノニマス理事長の理想とずれてきていると」


 と、カノンは語る。


「クローンでさえああですから、理想なんて院長と理事長で違っていて当然では?」


 ヴァンサンは答えた。


「……そうか。君はそう考えるか。いや、それもまた一興か」


 カノンはそれだけを言って去って行った。

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