表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/122

6 鉄扉の向こう側

 閉鎖病棟、鉄格子つきの病室には1人の被験者がいた。全身を縛る入院着に身を包み、長く無造作な髪を垂らした女。

 彼女の名はミッシェル・ガルシア。またの名を被験体番号ROSE-Ω-1。霊安室のノートに書かれていた人物と同じ。つまり適合したのだ。


「クソが……他人の人生を好きに弄びやがって……必ずぶっ殺してやる……1人残らず」


 そう呟くと、ミッシェルは自身を拘束していた手錠を引きちぎった。さらに、鎖を破壊して立ち上がって、施錠された扉へ。

 扉はセキュリティにより外側からロックされている。ミッシェルは足にエネルギーを集中させて蹴りを入れる。とんでもない音が響いて扉がへこむが、破壊するには至らない。それでもミッシェルは諦めずに蹴りを入れる。が、ここで警報が作動する。


「やっぱりこうかよ……」


 と、ミッシェルは吐き捨てる。

 経験上、警報が作動すれば幹部が動くことはミッシェルも知っていた。それでも彼女は外に出たかったのだ――




 薬局を出たタケルとマリウスは2階の病棟に到着。ウォーターサーバーで水を入手し、タケルは薬を飲んだ。さらに、ナノース適合者用の貼り薬を首筋に貼る。


「すぐ効くわけじゃないだろうが、そのうち効いてくるはずだ。で、ここは被験者収容の病棟だな。誰が収容されているのかは知らないが……」


 タケルとマリウスが病棟の廊下に出たときだ。再び警報が鳴った。しかもこのフロアを示すもの。


「警報か!」


「……! 僕が霊安室から出てきたから?」


 タケルが焦りを見せる。が、マリウスは平静を保ち、警報の鳴り方からそれとなく理由を察した。


「違うぜ。被験者が暴れて病棟か病室が破壊されそうってことだろ。一体誰が暴れたのやら。とはいえ、選択肢は2つ。俺たちはこの件には無関係。だから一旦この件は置いといて別のフロアに行く。あるいは、介入して暴れた被験者を解放して俺達で反乱を起こす」


 と、マリウスは言った。


「後者だろう。僕もマリウスもすでにアイン・ソフ・オウルと戦っているんだ」


 すぐにタケルは答えた。

 彼の中で、すでに『転生病棟』の職員と戦う覚悟は固まっていたようだ。


「俺もだ。そうと決まれば……ちょうど武装看護師が集まってきた頃というわけで」


 マリウスがそう言うと、後ろを振り返る。

 2階にはとどまらず、別のフロアからも集まってくる武装看護師。彼らは医療にかかわる立場ではあるが、さまざまな方法で戦闘力を持っている。錬金術を使う場合もあれば、マリウスと同じくイデアを使うことだってある。先進的なこの研究施設にはダンピールだっている。


「へへ……楽しくなってきたな、タケル!」


 目を見開き、狂ったような笑みを浮かべるマリウス。そんな彼に対し、タケルは言う。


「楽しい? 戦闘なんて、僕は楽しめないけど……やるしかないんだろ?」


「やるしかないのはそうだが、価値観はそれぞれだ。俺とお前は違う人間。だから違っても仕方ないぜ。錬金術はそっちに流すぞ!」


 と言って、マリウスはイデアを展開。怪獣を思わせる姿になった後、看護師たちの中に突っ込んでいく。武装看護師はといえば、職員だというのに突如牙を剥いたマリウスに戸惑い、対処が遅れる。その間に3名の看護師の首が飛び、体が引き裂かれ、背骨が折れた。

 そんな中、武装看護師たちの後ろ側から声がした。


「慈悲はいらないよ。彼が裏切り者だということは自明。管轄は違うが、やることは一つ、そうだろう?」


 優しい男の声。異なる指揮系統からの指示に一瞬だが混乱する武装看護師。だが。


「アイン・ソフ・オウルの指示だ! かかるぞ!」


 その男――フィト・ソルの声を受けてひとりの武装看護師が声を上げた。ここから武装看護師たちの混乱は収まり、連携に多少の難はあるもののマリウスに応戦する。

 武装看護師の様子が変わったところを見て、タケルは焦りを覚える。20人近くの武装看護師を相手に、マリウスは苦戦し始めている。さらにその後ろにはアイン・ソフ・オウルのひとりも控えている。タケルが動かなければどうにもならない――


「マリウス……僕はたかが錬金術学生で、ナノースを移植されても使い方がわからない……どうすれば」


 そう呟いたとき、タケルの頭に痛みが走る。同時に思い出す、とある人物の顔、自身のナノースの謎。すべてわかったわけではないが、断片的にはわかる。

 この警報はとある実験体が暴れたことによるもの。さらに、タケルの記憶にはこの実験体の事情が断片的に残っていた。

 だからタケルは退くことを選ぶ。退いて、その先にある閉鎖病室を解放する。自身の持つカードキーで。


 タケルは踵を返し、病棟の廊下の奥へと走る。マリウスを信じて、痛む体に鞭を打って――


 廊下の奥にあるのは不自然な鉄の扉で封鎖された病室。その脇にはカードリーダーがあった。

 タケルはパーシヴァルのカードキーをかざしロックを解除。その後、重い扉に全体重をかけて開け。


 扉の向こう側には水色髪の女がいた。特徴的なのは首筋のバーコード。それだけでタケルは彼女――ミッシェル・ガルシアが被験者であることに気づく。


「……どういうことだ? あんた、ここの職員じゃねーだろ。見た感じ白衣の下、何も着てなさそうだし」


 ミッシェルはタケルの姿を目にするなりそう言った。

 素性のわからない相手を目にすれば誰だろうと警戒するはずだ。ミッシェルにとってのタケルもそうだ。

 それでも、タケルは言った。


「ここから出よう」


 そうしてタケルは手を差し伸べる。マリウスが協力すると申し出たときのように。



★登場人物★

ミッシェル・ガルシア

ROSE-Ω-1という番号を持つ実験体。元は戦闘用の改造人間だったが、暴れすぎて燃料用への適合手術を受けさせられた。


フィト・ソル

アイン・ソフ・オウルのひとり。穏やかな性格だが実は好戦的。ただし、戦いたい理由は独特だとか。車輪のナノースを持つ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ