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3 動く世界の狭間で

「来ない……」


 銀髪で褐色肌、眼鏡をかけた男はコーヒーの入ったマグカップを机に置いて言った。

 その男、テンプルズの支部長クリシュナ。組織でもよく知られた凄腕の錬金術師で、マリウスも信頼する人物。


 クリシュナは昨夜、マリウスから支部に来るとの連絡を受けていた。だが、連絡をよこした張本人のマリウスが来ない。

 マリウスの人となりをよく知らないクリシュナは、怒りを抱きつつあった。


「あれはおちょくっていたつもりだったのか……?」


 と言い、クリシュナは砂糖を入れたコーヒーを口に含む。


「どうでしょうねえ。相手は転生病棟ですよ」


 クリシュナに話しかけるピンク髪の女――マリカ。

 彼女の言葉でクリシュナははっとした。相手が相手だ。道中で攻撃を受け、最悪殺された可能性もある。


 クリシュナは椅子から立ち上がり、言う。


「様子を見てくる。テンプルズ支部はしばらく君に預けるよ」


「え……」


 何かを思い立ったようにクリシュナは支部長室を出る。

 様子を見るために外に出て、マリウスから伝えられていたルートへ。もし何かがあったのなら近くにいるはずだ。


 そうして、2時間ほど探し回ったときにクリシュナは破壊された車を発見する。そのごく近くにはイデア使いの気配もある。

 クリシュナは足を速め――


 いた。

 銀髪の屈強な男は間違いなくマリウスだった。


「マリウス・クロル。生きているなら返事をしてくれ。君から連絡を受けたクリシュナだ」


 クリシュナはマリウスに駆け寄り、声をかける。

 するとマリウスは眉根を寄せる。


「生きているのか? 君の言っていたロゼは……」


「ロ……ゼ……?」


 マリウスは力なくそう言い、薄目を開けた。


「どうやら生きているようだな。時間になっても来なかったからね、様子を見に来た。この様子だと何かあったようだな」


 と、クリシュナ。

 マリウスはしばらく黙り込み。


「赤髪の少女はここにいないか? 狙われるとしたらあの子だ」


 マリウスは声と言葉を絞り出す。


「探してみる。車の中にいるかもしれない」


 と言って、クリシュナは周囲に赤髪の少女――ロゼがいないか探し回る。

 近くの森にもいない。車の中にも、少し離れたところにも。

 マリウスが気を失っている間にロゼは姿を消した。


 マリウスが立ち上がった後、クリシュナはロゼのことを伝えた。


「やはりな。そうだ。エステルは無事かもしれない。少し待ったらエステルを迎えに行きたい」


 と、マリウスは言う。


「わかった。日光が苦手なんだろう?」




 マリウスとクリシュナが合流したのと同じ頃。

 スラニア山脈の一角につくられたΩ計画の本拠地には(ムゥ)以外の幹部が勢揃いしていた。

 転生病棟で生き残ったアイン・ソフ・オウルの面々、副院長のルシーダ、院長のカノン、そして理事長のアノニマスとタケルのクローンであるナロンチャイ。さらに、ここにはいなくても、(ムゥ)もオンラインで会議に参加することとなっていた。


 全員が会議室に揃い、会議室のモニターには(ムゥ)の顔も映し出される。


「さて、ムゥの状況はどうだ? 『ROSE』を連れ戻すために南東に残るとのことだが」


 まず、アノニマスが口を開く。

 Ω計画の最高権力者である彼の発言で、会議室内の空気は一気に引き締まる。


『ああ、『ROSE』なら無事取り戻せましたよ。今は休憩中ですが昨日から車でそちらに向かっています。そうですね、何があるかわからないので戻るまでに1週間は見てほしいものですね』


 (ムゥ)は言った。

 今、彼がいるのは南東部のとあるモーテル。そこから会議にも参加しているようだった。


「そうか。では、カノン院長。Ω計画の進捗はどうだ?」


 アノニマスはカノンの方を見た。


「遅れは出ていますが致命的な状況には至っていません。先生、やはり計画には加速が必要ではありませんか?」


 と、カノン。


 アノニマスはこの瞬間、顔をしかめた。だが、それもすぐに戻る。


「加速は現状把握をしてからだ。転生病棟、再教育施設、兵器工場、倉庫、第2研究所。状況を教えてくれないか」


 軌道修正するようにアノニマスは言った。


「それでは再教育施設と第2研究所については僕が説明します」


 そう言ったのはナロンチャイ。

 No.11となるはずだったタケルと同じ顔、遺伝子を持つが話し方や表情などに違いがあった。


「では説明してくれ」


 アノニマスは言った。


「まず再教育施設は責任者2人とアベルを喪い、ほぼ機能停止。脱走者3人が場所を知っている可能性があり、あまり良い状況ではないでしょう。第2研究所については場所が割れておらず、いくつかの施設のバックアップになり得ます」


 そうやってナロンチャイは説明する。

 それを聞き、アノニマスは他の幹部にも目を向ける。


「他はどうだ」


「転生病棟と倉庫については私が」


 と言って手を上げたのはミントグリーンの髪の長身女性、ルシーダだった。

 全員の視線がルシーダに集まる。


「転生病棟についてはあの通りですが、こちらに戻る際、バックアップを取れるものはすべて持ち出しました。特に、今は亡き同志たちの研究データも」


「ふむ、それでは研究を担当できる者がいれば進めることはできるというわけか」


 アノニマスは言った。


「オブジェクトΩ、人間の生殖の可能性の拡張、魂の転移、死者蘇生、人間の感情の完全掌握……幹部の死亡で研究が止まったものはこの通りです」


 ルシーダの説明にカノンが付け加えた。


「把握している。それにしても、パーシヴァルが研究プロジェクトに手を付けなくて良かったな。最悪バックアップが取れないまま反逆者たちに利用されることになったのだが……」


 と言ってアノニマスがため息をつく。


「倉庫については異常なしですが、転生病棟から持ち出したものを保管させていただいています。不都合があれば持ち出しますが」


 ルシーダは続けた。


「いや、そのままでいい。兵器工場はどうだ、ラオディケ」


 今度は、アノニマスはラオディケを見た。


「ええ、少々気がかりなところがありましてね。いくつか兵器工場はありますけど……出入りする作業員が不審でして。うちの手の者を潜入させていますよお」


 と、ラオディケは言う。


「そうか。兵器工場については引き続き調査を続けてくれ。それから、反逆者の処遇を考えようか」


 会議は次の局面に移った。


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