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1 世界が変わる

 セーフハウスでの待機の命を受けて3週間。夜も更ける時間。

 マリウスとロゼはセーフハウスのリビングルームでテレビを見ていた。テレビには2体の怪獣が戦っている様子が映し出され。


「ゴムラー! いけー!」


 ロゼは無邪気にも言う。

 2人が見ていたのはレムリアでも人気の怪獣映画ゴムラ。怪獣映画が好きなマリウスも好んで見る映画だ。


「ははは、ロゼもゴムラの面白さわかっただろ?」


 マリウスは言った。


「うん」


 そうして2人は終わりまで映画を見ていたのだが。

 映画の地上波での放送が終わってマリウスがテレビを消そうとしたときだ。


『ニュースをお伝えします。本日、ロナルド・グローリーハンマー大総統が演説中に銃撃されました。大総統の命に別状はありませんが、当局は一層の治安維持に努める方針を示しました』


 始まるニュース。映し出されるのは昼頃に撮影されたであろう写真と動画。大総統こそ生きているが、その様子はショッキング。マリウスはロゼに、部屋へ行くように伝えた。


「まずいことになったぜ……もしアレで治安維持を進めるなら鮮血の夜明団も無関係じゃねえ」


 マリウスは呟いた。

 大陸の情勢は今、確実に動いていた。


 マリウスはテレビを消し、セーフハウスの電話から近くの支部ではなく鮮血の夜明団本部に連絡を取った。

 出たのは本部の事務員。


「俺だ、テンプルズ支部のマリウス・クロルだ。支部の人間に指示を出せる人に変われないか?」


 マリウスは電話口でそう言った。


『現在電話を繋ぐことができるのは会長だけになりますが……どういったご用件でしょうか?』


 と事務員は言う。


「転生病棟関連のことだ。大総統の件で事情が変わったかもしれないんだ」


『少々お待ちください。転生病棟に関係することならば暗部に回した方が良いかもしれませんが……』


「暗部?」


 マリウスは聞き返す。このときのマリウスはあまり良い顔を見せなかった。それもそのはず、暗部は鮮血の夜明団でも特に表立っては言えないことに手を染めている。それこそ、大陸の法や倫理に抵触するようなことまで。


『そうですね。関わると危険な案件も数多く担当しておりますので』


 事務員はそう言った。


「ああ、俺はそんな危ねえ橋まで渡っていたってことか。やることが似ているのなら仕方ねえ。繋いでくれ」


 と、マリウス。

 事務員はそのことを伝えると、数分間電話を保留にし。


『代わったぜ、マリウス。俺だ、お前んとこの分家のグランツだ。俺の指示が聞けないのなら他を当たるが』


 代わったのはグランツ・ゴソウ。マリウスも名前や自身との関係くらいは知っている人物だ。


「グランツ……いや、俺はもうあの家とは無関係だ。転生病棟の件で指示だけ出してくれれば良い」


『おう。まずお前のいるセーフハウスから最寄りの支部……テンプルズに、その魔族が目覚め次第向かえ。セーフハウスは利用されると困るからな、爆破するなり焼き払うなりしてくれ。で、同行している魔族と被験者の少女はこれまで通りに保護でいい。俺からスティーグにも伝えておく』


 淡々とグランツは指示を出す。


「了解だ。ただし、すぐにとはいかねえ。魔族が繭に入ればどれだけの期間で外に出るのかもわからねえ」


 と、マリウス。


『それも考慮したうえでの話だ。とはいえ、あまり時間がかかるなら見捨てることも考えておけ』


「そうするしかないのか……」


 そうしてマリウスとグランツは電話越しでの話を終え、電話を切る。

 時間はさほど残されていない。だが、今はまだエステルが繭の中。このままセーフハウスを発つことはできないだろう。


 マリウスは本棚から資料を取り出し、開いた。

 それは、鮮血の夜明団の関連施設ならばどこにでもあるような資料だった。前半部分には地図がつけられており、セーフハウスの場所に印があった。


 ここは大陸南東部の海岸。

 錬金術研究所や図書館、アカデミーといった錬金術関連施設が多く存在する第2の錬金術師の聖地。転生病棟もそのような場所にあった。錬金術師が多く在籍するテンプルズ支部も。


 マリウスはさらに資料のページをめくる。

 つづられた資料の中程にはあるもののありかが示されていた。


 ロゼを落ち着かせつつ、マリウスは着々とセーフハウスを出る準備を進めていた。そんな時――グランツとの電話から半日ほど経った頃。マリウスが様子を見に行くと、エステルの繭が破られた。

 光の当たらない暗所に安置されていた繭からは無傷のエステルが出てきたのだ。


「心配かけたな。もう大丈夫だ」


 繭から抜け出したエステルはマリウスに優しげなまなざしを向けてそう言った。が、すぐに声をかけた人物がマリウスだとわかり、表情が消える。


「大丈夫なら何よりだ」


 と、マリウス。


「それより……タケルは?」


「ああ……タケルなんだが……」


 エステルに尋ねられるとマリウスはばつが悪そうに頭を掻く。言いづらいことであるのはエステルにもよくわかる。


「まだ戻らねえ。転生病棟の連中に連れ去られちまったんだよ」


 マリウスは答えた。


「なんだと……?」


「すまねえ。記憶が混乱しているのかもしれねえが、あの夜に連れ去られたらしい。ロゼが教えてくれた」


 と、マリウスは続ける。


「そうか……連れ戻さなくてはな。場所はどこだ? 転生病棟か?」


 エステルが言うと、マリウスは首を横に振る。


「その前に、ロゼを信頼できる人に預ける。だから、今夜このセーフハウスを出る」

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