22 青い『ROSE』の反逆
敵は何度攻撃してもたちどころに再生する、たちの悪い相手。常人ならば死ぬような攻撃を受けても、敵――キイラは肉体を再生させていた。
「チッ……爆破しても再生しやがる。コイツな、エステルって魔族に捕食されたはずなんだよ」
キイラはパーシヴァルに対し、毒づいた。
「そいつの体内には賢者の石があるからな。賢者の石を体から出すしか倒す方法はないだろうな」
パーシヴァルはそう言ってミッシェルを見る。
彼は考えていた。キイラの体半分を吹っ飛ばせるミッシェルならば、キイラの身体から賢者の石を取り出せるのではないかと。
「もう一度あの女の身体を吹っ飛ばしてみてくれ。もしかしたら賢者の石が見つかるかもしれない。赤いから体内だとわからないかもしれないが」
と、パーシヴァルは続ける。
「ま、やってみるぜ。どうやらアイツは私を殺したくないだろうし」
ミッシェルはそう答え、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
そうしてミッシェルはキイラに向き直る。
「その反抗心、強さ、まなざし。やっぱり欲しい。一生私の隣にいて?」
ミッシェルの視線に気づいたキイラは言った。すると、ミッシェルは口角を上げ。
「誰がやるか、バーカ! てめェなんて、これで十分なんだよ!」
と言うと、ミッシェルはキイラとの距離を詰める。その後ろではパーシヴァルがキイラに向けて電撃を放とうとしていた。
「ミッシェルはいいけどね、パーシヴァル。あなたは求めてないから」
キイラはそう言うと何のモーションもなく反物質を放つ。
電撃を放ちつつ反物質をよけるパーシヴァル。
そんなタイミングでミッシェルは『ROSE』となるために体内に移植されたエネルギーを爆発させる。キイラの身体に触れ、至近距離で。常人ならば確実に死ぬような威力の爆発を起こした。
キイラとミッシェルを包む青白い光。ミッシェルは爆風に乗るように飛び退き、爆発には巻き込まれなかった。
一方のキイラは至近距離で受けた爆発により、再び体の半分を吹っ飛ばされる。タイルを汚す彼女の血と肉。おさまる爆風。
ミッシェルは再びキイラへと突っ込む。
吹っ飛ばされたキイラの肉体の断面。そこには確かに、莫大なエネルギーを秘めた赤い結晶があった。
賢者の石だ。
「へへ……コレだろ、賢者の石って!」
ミッシェルは賢者の石に手を伸ばす。
もう少し――もう少し――もう少しで届く――
そんなとき、キイラの手が捕まれる感覚があった。
「なんだ……やっと私のところに来てくれるんだね」
かすれたキイラの声。
肉体を半分吹っ飛ばしたところでキイラが意識を失うわけではない。当然こうなることだってあり得たのだ。
「あああ……クソが! てめェだけは絶対に! 生かしておくかよォ!」
と、ミッシェルは毒を吐く。
それだけではない。再び爆発を起こし、さらにキイラにダメージを与え。彼女の体内へと手を伸ばす。
届いた。
賢者の石をつかんだ瞬間、キイラの想いがミッシェルに流れ込む。それらはすべて、快楽を求める心、彼女の実験テーマへの思い、それからミッシェルへの恋心。ミッシェルにとってはどす黒く、醜悪に感じられた。
ミッシェル。
あなたは私のもの。
何があってもあなたは私のもとから離れない。
私とあなた、きっと交わる運命にある。
キイラの声がミッシェルの脳内で反響する。それはまさにたちの悪い幻聴――
「うるせえええええええっ!」
ミッシェルはそう言ってキイラの体組織から賢者の石を引きちぎる。肉体と一体化していた賢者の石は、引きちぎられるときにブチブチと音を立てた。そこからは赤い液体が流れ、噴き出し。
ミッシェルは賢者の石をその手に収めキイラから距離を取る。
「あああああああっ!?」
キイラは悲鳴を上げ、吹っ飛ばされていない左手をミッシェルの方に伸ばす。掴まんとしているのはミッシェルか、はたまた賢者の石か。
だが、ミッシェルは賢者の石を奪われまいとそれを飲み込んだ。
何日か常温で放置した生肉を思わせる味にミッシェルは嘔吐きそうになったが、血の海の中に倒れ伏すキイラを見て安堵さえ覚えた。
「多分……これでキイラは……」
ミッシェルは呟いた。
少しずつキイラに近づき、その体に触れた。
脈拍も息もない。瞳孔も開ききっている。
本来ならば、あの程度の攻撃を受けてあの程度の傷を負っていれば死ぬだろう。だが、生存を可能にしたのが錬金術と賢者の石。それも肉体から切り離され、再生不可能な傷を負わせれば命を奪うことだってできた。
「よかった。死んでる。アイン・ソフ・オウルもこれで半分ってとこか」
ミッシェルはため息をつき、研究室の天井を見た。
この研究室の天井は高い。だからだろうか。損傷は全くといっていいほどなかった。
そのときだ。
「ミッシェル!」
研究室に声が響く。
ミッシェルが振り返れば、そこには全裸で薄緑色の液体まみれのタケルがいた。
「ば……服くらい着ろ! 白衣なら何着でもここにあるだろうが!」
ミッシェルは思わずそう言った。
すると、タケルは言った。
「ごめん……あの装置にいたときには既に……それよりグリフィンが!」
タケルは血相を変える。
少し前まで意識のなかったミッシェルは何がおきていたのかわからなかった。が、いずれ知ることになる。




