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克法ロジックパラドックス -世界を変える簡単な方法-  作者: 墨崎游弥
一つになる未来【再教育施設編】
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20 暗黒の未来でⅡ

 培養槽が破壊されたのと同じ頃、タケルには魂が流れ込む。

 肉体にわずかに残った魂の残滓と、バックアップのようにして存在していたタケルのもう一つの魂。それらが混ざり合い、タケルの中を満たす。


 そんな状況で、タケルが見ていたのは過去であり、未来。




 N2028年。

 Ω計画は最終フェーズに入っていた。Ω計画の13の研究プロジェクトはほとんど完遂され、世界が変わることも時間の問題だといわれていた。


 転生病棟とは異なる場所――アノニマス研究所。

 レムリア大陸中央部の山地に作られたその場所は、難攻不落の要塞のようでもあった。


 そんな場所に戻ってくる人物が2人。長い銀髪の男と、黒髪の青年。いずれも白衣は着ておらず、外出用の服装で固めていた。


「僕とタケル、戻ったよ」


 そう言ったのは銀髪の男――ヴァンサンだった。彼の隣には固い表情のタケルがいた。


「おかえりなさい。会議まで時間がないので急いで下さい」


 と、ロビーで言うのは看護師のイアハート。彼女は旧アイン・ソフ・オウルではないが、Ω計画でも重要な役割を担っていた。


 イアハートのチェックを受け、タケルとヴァンサンは本部の会議室へと向かう。

 本部の廊下は研究所のように無機質だが、清潔感はあった。


「ところでタケル。君も変わったね」


 歩きながらヴァンサンは言った。


「そうかな」


「君のその正義感。2年前はそうでもなかったけど、正しくない存在に対して慈悲を持たなくなったんじゃないかな」


 と、ヴァンサン。

 タケルは今ひとつ理解できていないようだったが、無理もない。タケルの変化はすべて彼自身が望んだから生じたものではないのだ。

 ナノースを移植された錬金術師はほぼ例外なく精神面が変質する。人はそれを精神汚染と呼ぶが、幹部たちは悪いことだとは思っていなかった。


 タケル自身は正義感が肥大し、いつしか正しくない存在そのものを許せなくなった。

 ミュラーは特定の物事以外への興味や感情を失った。

 ガネットは戦いをより求めるようになった。


 それ以外の幹部も、何かしら変わっている。


「僕はそれでもいい。あるべき姿、楽園を作るには正義が必要なんだ」


 と、タケルは言った。


 やがて、2人は会議室へとたどり着き、中に入る。

 会議室には会長のアノニマス、代表のカノン、ヴァンサンを除いた旧アイン・ソフ・オウルの9人、それからタケルの後にナノースを移植されたルシーダとペドロがいた。


 参加していたメンバーはタケルたちが入ってきたときにあまり良い顔はしなかった。それもそのはず、タケルとヴァンサンはその苛烈なやり方が原因で組織内では疎まれていたのだ。

 それでも扱いが露骨に異なるわけではない。アノニマスもカノンも幹部に対しては恐ろしほど平等だ。その証拠に彼らの命令で準備された紅茶、カノンが自ら作った焼き菓子がタケルとヴァンサンの席にも置かれていた。


「先日、『ROSE』の完成形ができた。かつてないエネルギー効率だ。感謝するよ、ヴァンサン。それから、タケルも。君たちがいなければ実現できなかったことだ」


 眼鏡をかけた紫髪の男――アノニマスは言った。

 彼はすでに60歳をこえているが、年齢を感じさせることはない。外見だけでいえば30代と言われても信じられるだろう。


「ありがとうございます。これもひとえに、理事長や院長、関わった皆様のおかげです」


 と、タケル。

 言葉遣いも口調も変わっていた。病棟に拉致されてきた頃とは別人だ。


「さて、これから我らはあるべき世界を実現する。人類の均質化を行い、エネルギー問題を解決し、この大陸の外を取り囲む嵐の壁を取り払う」


 今度はカノンが言った。

 彼の語ることは13の研究プロジェクトを終え、最後にとりかかること。13人の幹部たちもそれらをよく理解していた。


 会議はつつがなく進む。

 大陸の状況が報告され、最終段階の確認も行われ、それぞれの役割も説明される。


 Ω計画完遂の3年前。

 大陸の私物化を企んでいた当時の大陸大総統ロナルド・グローリーハンマーが暗殺された。大陸が混沌に包まれた頃、新たに大総統になったのはΩ計画の関係者ノア・タイラーだった。彼の尽力によりΩ計画は大きく前進し、それを阻む企業――九頭竜と呼ばれる9つの企業は解体された。

 世界だって大きく変わっていたのだ。


 そんな変わった世界は、再びこれから大きく変わるだろう。


 会議が終わり、タケルとヴァンサン以外の幹部たちは退出する。

 だが、退出する幹部のうち唯一――ペドロだけがタケルとヴァンサンを気にとめた。哀れむような、未来を案じるようなまなざしを向けたのだ。


「ペドロ……」


 タケルは呟いたが、その声はペドロに届いていなかった。

 そうして、会議室に残されたのはタケルとヴァンサン、アノニマスとカノンの4人となる。

 カノンは自ら会議室のドアを閉め、まるで機密事項でも話すときのような密室をつくりだす。


「悪いね、君たちをここに残して」


 と、アノニマスは言う。


「何か理由でもあるんでしょう。僕たちに教えて下さればいいのですが」


 ヴァンサンは言った。

 すると、アノニマスが口を開く。


「そうだったな。ヴァンサン・アルトー。タケル・アノニマス。君たちは本日づけで用済みとなった。理由は、わかるだろう。君たちはやりすぎだ。正義のため、同志のため、新たなる世界のために人を殺しているが、それは新たなる世界にはそぐわない」


 アノニマスが話し終わった瞬間。アノニマスとカノンは同時に銃口を向けたのだ。アノニマスはヴァンサンに、カノンはタケルに。


「何か言い残したことはあるかな? 命乞いでもいいよ」


 と、カノン。


「地獄に落ちろ……」


 まずはヴァンサン。

 彼がそう言った直後、アノニマスは発砲する。

 その様子を見たタケルも言う。


「同志を粛正しておいて、何が新世界だ!」


 タケルが声を荒げ、感情を表に出したと思えば銃声が響く。

 タケルの視界は暗転する。タケルはここで死んだのだ――


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