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克法ロジックパラドックス -世界を変える簡単な方法-  作者: 墨崎游弥
一つになる未来【再教育施設編】
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17 深淵に近づいて

 吸い寄せられるように研究室の奥へと向かうグリフィン。その後ろを行くタケルとパーシヴァル。ミッシェルの閉じ込められた円柱状の水槽を通り過ぎ、ほの暗く緑色の照明に照らされた区画へ。雰囲気ははっきり言って異様だ。


「……これだ。僕の記憶にあったのは」


 先頭でグリフィンは呟いた。

 3人の視線の先にあったのは、太いパイプでつながれた2つの円柱状の水槽。パイプはそれぞれの水槽を直接つないでおり、2つの水槽の間には制御装置らしきものがあった。


 タケルはこの装置を見たことがあった。正確にはこの装置についての記憶がある。未来のものだと思われる記憶の中には、中に閉じ込められる2人の人物の姿が。うちひとりは――


「タケル。これから僕の魂を君に転移させる」


 唐突にグリフィンは言った。

 予想外の言葉に、タケルは5秒ほどだまりこみ。


「まさか君……僕の体を乗っ取る気なのか!? 病棟の地下の牢獄から僕を助けた理由は、まさか僕の身体と術式を利用するためか!?」


 声を荒げ、グリフィンに突っかかる。

 すると、グリフィンはどこか申し訳なさそうに言う。


「そうじゃないんだ……元は同じ魂だ、転移したところで僕と君は一つになるだけ。言っただろう? 僕たちは一つに溶け合うって」


「そんな事をしたら君は死んでしまう……せっかく一緒に病棟を脱出できたと思ったのに。グリフィンは疲れているんだよね?」


 と、タケルは言う。


「あはは、どうだろうね。それじゃあ、選択は君に委ねるとして……とにかく、僕はずっと君の味方だ。あの偽者くんと違ってね」


 そうやってグリフィンが譲歩し、口論は終わろうとしていた。

 そんなときだ。

 パーシヴァルは敵襲に気づいた。


「誰だ!? ミュラーはさっき討ち取ったはず――」


 パーシヴァルがそう言ったときだ。


「そうだね、ミュラーは、ね。でも私がいる。なんであんたは反逆者と一緒にいるの?」


 女の声。その声の主はすぐに現れることになる。

 亜麻色の髪に青色のインナーカラー。マゼンタの瞳。間違いなくキイラだった。

 だからタケルとグリフィンは目を疑った。


「嘘だ……あんたは病棟の地下で殺されたはずだ! エステルに捕食されて!」


 タケルは言った。


「うんうん、そうだね。確かに私は捕食されたけどね? 賢者の石って知ってる?」


 と、キイラ。


 賢者の石。

 高いエネルギーと、人間の術式とは比べものにならないほど複雑な術式を組み込まれた深紅の石だ。錬金術師であればどこかで聞いたことのあるものだ。タケルだってアカデミーで、歴史用語として聞いている。

 ただし、それはあくまでも失敗作ばかり出回るもの、存在し得ないものとして。陰謀論か何かで話題になるような、実在しないと言われるものとして。


「そんな都市伝説のようなものを? 知っているよ。実現できないものとして」


 タケルは答えた。


「ふうん。あなたはそう思うんだ。やっぱりあなたは、私が求める人間じゃないね。ロマンチストの欠片もないし、教室で学ぶ知識を純粋に信じているみたい」


 と言って口角を上げるキイラ。

 その後、彼女は視線をミッシェルのいる培養槽に移し。


「ところでさ、これって何? 私のミッシェルを殺す気なのかな? 培養槽、穴が空いてヒビも入ってるけど」


 凍り付くような口調でキイラは言った。

 彼女の言うとおり、培養槽は割れそうな状況だった。空いた穴からは淡い青色の液体が漏れ出てきている。先ほどの戦いでの損傷によるものだろう。


「そんなつもりはない。僕はミッシェルを助けたいだけだ」


 タケルは答えた。

 が、その返答もキイラの神経を逆なですることになる。


「助けるって、あなたからすればその中から連れ出すことでしょ。その後はだいたい想像がつく。私たちの攻撃をかいくぐり、施設を脱出して逃避行、でしょ? させると思ってんの? 私のミッシェルに?」


 ミッシェルは言った。


「そう簡単にやらせてくれるとは思っていない。それでも、だ」


 と、タケルは答えた。


 ミッシェルの表情が変わり、おもむろにタケルへと近づき。


「あ、そう。じゃあ死んでくれる?」


 そう言ってタケルに触れようとする。対するタケルは反射的にとびのき。


「グリフィン、パーシヴァル。この人は敵だ!」


 タケルは声を張る。


 グリフィンとパーシヴァルは頷き、前に出る。

 ここで先陣を切ったのはパーシヴァルだ。いつものように電撃を放つ。するとキイラは電撃をするりとかわし。


「元同僚ならわかるでしょ。あなたより私が格上ってこと」


 キイラは言った。

 彼女の言うことは事実。だが、今は関係ない。パーシヴァルはミュラーにやったのと同じように研究室の床のタイルに通電する。

 対するキイラはタイルをすべて絶縁体に作り替え、足下からの電撃を防ぐ。


「それから、3人とも消えてね。ミッシェルとのデートに邪魔だから」


 と言うと、キイラの手の上にはごく小さな物質が現れる。3人がそれを注視したかと思えば、キイラはタケルに接近。手の上の黒い物質をたたきつける。タケルは黒い物質を消防斧で受け止めるが――


「え……」


 消防斧は黒い物質をぶつけられると消滅。それと同時に、タケルとキイラの間にはとんでもない衝撃が発生。2人、だけではなくグリフィンやパーシヴァルも吹っ飛ばされた。それは爆発を思わせる。


「聞いていないぞ……こんな能力」

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