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克法ロジックパラドックス -世界を変える簡単な方法-  作者: 墨崎游弥
一つになる未来【再教育施設編】
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14 ダミアン・ミュラー

 この場にミュラーが現れたことはある意味必然的だっただろう。

 そもそもミュラーはこの再教育施設でもかなりの責任を持つ人物だ。精神面をケアする立ち位置である以上、精神面にアプローチすることが多いこの施設では大きな役割を担う。だからミュラーなのだ。


「死なれると困るのは事実。ただし、君たちが厄介であることに変わりないんだよ。特に、君。未来から来たなんて意味のわからないことを言って、保護してもらったあげく幹部にまでなれたというのに恩知らずだね」


 と、ミュラーはパーシヴァルを指さして言った。


「意味がわからないのはお前も同じだよ。お前も外に行ったことがあるなんて」


 パーシヴァルがそう言ったときだ。ミュラーはパーシヴァルがやるのと同じように電撃を放ったのだ。


「ああ。だからこの世界の今に興味を無くした」


 ミュラーは答えた。


 無表情のミュラーを見て、パーシヴァルは不信感を、タケルは恐怖を覚えた。が、グリフィンだけはそうではない。


「そうだろうね。あれだけの世界を見ていればね。とはいえ、生き返るタケルに興味を示さないのはだいぶ狂ってるね」


 と言うと、ミュラーとの距離を詰め。

 蹴りを放つ。ミュラーがよろめけば、今度は拳。


「君は……」


 ミュラーはそう言いつつナノースを発動した。

 研究室の床にフラクタルの模様が現れる。そうなった瞬間。電撃が床から放たれる。それにとらわれたグリフィンは一切身動きを取ることができず、硬直していた。


「僕への敬意が足りていない」


 ミュラーは言った。

 すると、すかさずパーシヴァルが言う。


「人のナノースを使っておいて何を言う」


「ああ、ばれてしまったか。ちなみに、こういうこともできるよ」


 そう言うと、ミュラーは何のモーションもなく水蒸気を発生させる。かと思えば、その水蒸気の状態が不安定となり――


 研究室内に嵐が吹き始めたようになる。


「くそ、ハリスの能力か! タケルはミュラーのナノースと術式の解析を頼む! ミュラーは他人の術式をコピーできるんだよ!」


 と、パーシヴァル。


 厄介な相手だ。

 タケルはそう感じていた。解析しようとしても、ミュラーの場合はノイズが多い。感情の起伏が少ない彼からは考えられないほどに。


 一方のパーシヴァルは不安定な水蒸気の中に突っ込んだ。

 氷の塊が舞う。時折雷がほとばしる。その中で、パーシヴァルは電気のバリアを再展開した。

 雲ともいえる水蒸気の塊の中を抜け、ミュラーに肉薄する。


「これでどうだ!」


 ミュラーに対して電撃を放つ。

 対するミュラーは眼鏡を外し、そこからレーザーを撃つ。これは蘭丸の能力。どうやらミュラーは蘭丸の能力までもコピーしているらしい。


 パーシヴァルは電撃をぶつけて攻撃をそらす。

 からの、距離を取る。そうすることでできた隙をミュラーは見逃さなかった。外した眼鏡から再びレーザーを撃つそぶりを見せる。

 だが、遅い。照準が合うまでの時間が、ミュラーが思う以上にかかる。想定外だったから、無理に撃った。レーザーは予想外の方向に撃たれた。それが偶然、パーシヴァルが動いた方向と一致する。


「まずい……」


 と言いつつ、レーザーが撃たれる直前。パーシヴァルは近くのパイプ椅子を手に取り、レーザーに向け。レーザーを跳ね返した。

 金属製で鏡のような表面のパイプ椅子はレーザーをあらぬ方向に跳ね返し――淡い青色の液体で満たされた培養槽の上部に直撃した。


「なんだと……」


 ミュラーが抑揚のない声を漏らす。


 チャンスだった。パーシヴァルはパイプ椅子から手を放し、自身の筋肉に通電。反射するのと変わらない速度でミュラーに肉薄した。そうして、もう遅いとばかりにパーシヴァルが至近距離で放電。ミュラーは素早く反応し、彼自身も電撃で迎え撃った――地面から発動させたナノースの演算を中止して。


 グリフィンを閉じ込めていた電撃の檻が消える。解放されたグリフィンは力なくだらりと床に崩れ落ちる。が、まだ彼は生きている。


「やってくれたね……ミュラー。自分から手を出してくるとは思わなかったけど、自分の仕事が絡めば別か……」


 全身を時折痙攣させながらグリフィンは呟いた。

 痛みは残っているし、麻痺もある。だが、グリフィンにとってはイデアでごまかせる範囲内。


「どうせ僕は今日死ぬ。後のことなんて考える必要はないさ」


 戦うパーシヴァルの姿を見つつ、グリフィンは言う。

 そうして、立ち上がる。


「加勢するよ、パーシヴァル」


 と、グリフィン。

 パーシヴァルはミュラーに対して電撃を放ちつつ一言。


「無茶だ!」


 語気は強い。戦いの途中だし、なによりグリフィンに無理をさせたくなかったのだろう。


「関係ない。僕はこの後を気にする必要がないからね」


 と言って笑うグリフィン。

 その笑みの奥にはどこかもの悲しさ、寂しさ、そして覚悟があった。


 パーシヴァルの言葉も無視してグリフィンも加勢した。


「そんな……無茶だ、グリフィン」


 タケルだって声を漏らす。

 自身はミュラーがコピーしたナノースや術式のノイズをかいくぐりつつ少し離れた位置から解析している。それこそ、安全な位置で。危険な戦闘をパーシヴァルとグリフィンに任せて。


「無茶じゃない。焦らなくていいんだ、タケル。僕たちで持ちこたえる」


 と、グリフィンは言いつつ、放たれた高温の水蒸気をすべて水に変えた。

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