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克法ロジックパラドックス -世界を変える簡単な方法-  作者: 墨崎游弥
一つになる未来【再教育施設編】
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13 ミュラーの介入

 消防斧の刃をナロンチャイにつきつけたとき。ナロンチャイは最悪の展開を予測して距離を取った。

 同じ術式、同じナノース。クローンなのだから当たり前だ。だが、これまでの人生で培ってきたものは全くといっていいほど異なる。


「……ただの学生だったと思ったけど、そうではないのか」


 ナロンチャイは呟いた。




 タケルとナロンチャイの戦いは監視カメラでも録画されており、その様子は転生病棟関係者にも伝わっていた。


 再教育施設、制御室。

 いくつものモニターが取り付けられ、それらには施設の様子が映し出されている。

 そのうちの一つにタケルとナロンチャイの戦いの様子が映し出され、その様子をミュラーとキイラが見ていたのだ。


「うわー、こうなっちゃうんだ」


 キイラはどこか他人事のようにそう言った。

 だが、研究室での戦いの原因を作った者たちのひとりがキイラでもある。


「ミュラーはどう思う?」


 キイラはミュラーに尋ねた。


「オリジナルVSクローンで、どちらがオリジナルか誰も知らない。互いにナノース『Vaccine(予防接種)』の保有者で錬金術の才能はあるし技能もそこそこ。組織としても失いたくない。だからね、これはよくない」


 ミュラーは感情のこもらない声で言った。


「長ったらしいけど、解説ありがと。というか、No.11が失うと困る人間だったってこと、忘れていたよね」


 と、キイラは言う。

 彼女はNo.11――タケルには大して興味を抱いていなかった。むしろ彼女の興味の対象はミッシェル。処分されるはずだったミッシェルを弱体化させることを提案し、後天的な『ROSE』となったミッシェルを殺処分のために発電に回さないようにしていた人物こそがキイラだった。


「忘れられると困るよ」


 ミュラーは言った。

 すると、キイラ再び口を開く。


「仕方ないでしょ。私、ミッシェルのことで忙しかったんだから。ミッシェルはあたしの……じゃなかった、ミッシェルの事例は処罰としての『ROSE』化の実現につながるんだから」


 キイラは途中、本心を口にしようとしたが慌てて取り繕う。

 それに対してミュラーは触れようとしなかったが。


「そうか。ところで、僕はNo.11とナロンチャイ・ジャイデッドの戦いを止めるべきか判断できていない。何を優先すべきかわからないからね」


 と、ミュラーは言った。


「んー、私はどうでもいいけどヴァンサンとか院長がうるさいんじゃないかな。どちらが生き残っても共倒れでもいいんだけどね。ほら、あの2人はNo.11に生きていてほしい側の人だろうし」


 キイラは答えた。


「なるほど」


「まあ、適合率の引き上げはかなり進んでいるしあいつの代わりなんて見つかると思うけどね。とにかく、私はミッシェルに何かあれば動くってことで」


 と、キイラ。


「それならば僕が止めに行こうか。あの様子、死人が出るかもしれない。意図しない死人が出ると上がうるさいからね」


 そう言うと、ミュラーは立ち上がり、制御室を出た。

 制御室に残されたのはキイラだけとなる。


「さてと。殺処分を免れただけ私に感謝してほしいよね」


 と言うと、キイラは立ち上がり。

 得体の知れない笑みを浮かべて制御室を出た。


 制御室に残された生命反応は水槽の中の、融合している2匹のクシクラゲのみとなった。




 場所は研究室に戻る。

 タケルとナロンチャイはいずれも息が上がっていた。どちらがクローンなのかもわからない2人はあまりにも似すぎていた。

 同じ術式。同じナノース。同じ遺伝子。異なるのは歩んできた人生くらいだ。だからこそだろう。同じ人間でも根本的にわかりあえなかった。


 タケルの振るう消防斧の刃は、いつの間にか鋭く尖っていた。ナロンチャイの動きを読み、彼の術式とナノースをすり抜けて間合いへ――


「はあっ!」


 タケルは消防斧を振り抜いた。

 宙を舞う鮮血、痛みに顔を歪めるナロンチャイ。だが、ナロンチャイはすぐに傷口を塞ぐ。


「そんなものか?」


 と、挑発するナロンチャイ。

 そのときだった。研究室の扉が再び開いた。


「お前達、何をしている。どちらかが、いや最悪2人が死んだらどうする」


 研究室には抑揚のない声が響く。

 その声を聞き、ナロンチャイはすぐさま距離をとる。

 ミュラーだった。彼が動いたことは、介入しなくてはならないことが起きたことを意味している。それがタケルとナロンチャイの戦いだった。


「これはミュラー先生。僕の片割れがこうやって襲いかかってきたものですから」


 と、ナロンチャイは言う。


「そうか。理由はよくわからないが、何かがあってNo.11はここに来たのだろう。No.11……カウンセリングと再教育を繰り返すつもりだったが、いつも我々の予想の上を行く。遺伝子的には同一のはずのナロンチャイですら参考にならないとは。やはり魂の存在があるのかもしれない」


 ミュラーはそう言うと視線をタケルに向けた。無表情なその顔からは謎の圧が放たれていた。

 彼はタケルの記憶の中のミュラー――患者や被験者に寄り添うカウンセラーとしてのミュラーとは全く違っていた。


「ミュラー……先生」


 タケルは呟いた。


「先生と言うなら再教育から逃れようとするのをやめてくれないか。迷惑だよ」


 と、冷たく吐き捨てるミュラー。

 さらにミュラーは再びナロンチャイの方を見て言った。


「ナロンチャイも、一度頭を冷やしてくるといい。この場は僕が預かろう。別命があるまで君は待機だ」


「……了解しました、ミュラー先生」


 言われたミュラーは渋々答え、タケルたちの襲撃を警戒しつつ研究室を出る。だが、警戒する必要などなかっただろう。タケルたちに対してはミュラーが目を光らせていた。


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