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克法ロジックパラドックス -世界を変える簡単な方法-  作者: 墨崎游弥
一つになる未来【再教育施設編】
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8 ふたりの未来人

 パーシヴァルのひとことはタケルの想像の上を行った。

 いや、様子を見ればパーシヴァルの待遇がこれまでと異なることには気付けたのかもしれない。


「転生病棟と手を切る?」


 タケルは聞き返す。


「協力を仰いでおいて何を言うのやら。とにかく、俺が転生病棟と手を切ることにも、お前に協力することにも理由がある」


 と、パーシヴァル。

 しばらく彼は黙り込み、タケルもつられるように口を閉じる。


 そのまま足音さえ殺して歩き、パーシヴァルが周囲を見回した後。再び口を開く。


「俺は、未来から来た」


 パーシヴァルの口から出たのは思いもよらぬ一言。

 タケルは思いもよらぬパーシヴァルの言葉に、面食らう。あまりにも唐突で、返答にも困っていた。


 だが、タケル本人も何かの未来を知っている身。可能性としては否定できず。


「ってことは、未来人なんだね。何の目的があって未来から来たのかは聞かないよ。話したくないこともあるだろうから」


 タケルは言った。


「いや、それも含めて話さなくてはならないだろう」


 と、パーシヴァル。

 その顔はいつも以上に、これまでに見た以上に真剣だった。


「まず、俺が知っている未来はΩ計画が頓挫した未来。大陸政府とその息のかかったやつが計画を進める施設をすべて破壊。カノン・ジョスパン院長や理事長も殺すか幽閉して計画書も資料もすべて押収した。らしい」


 そうしてパーシヴァルは続けた。

 彼の語る未来は、タケルの記憶とは全く異なっていた。


「Ω計画が頓挫……? どういうことなんだ」


「詳しいことはわからない。ただし、関係者は全員殺された。ロナルド大帝……いや、ロナルド・グローリーハンマー大総統に。レムリア大陸は帝国としてひとつになっていたんだ」


 と、パーシヴァルは答えた。


 やはり、違う。

 タケルは自身の記憶とパーシヴァルの語る未来を照らし合わせていた。


 タケルの未来の記憶によれば、ロナルド・グローリーハンマーは暗殺される。加えて、Ω計画を妨害する者はなんらかの形で消され、計画は実行される。ただし、タケルは完遂までは見ていない。

 一方のパーシヴァルは、大総統ロナルドが帝国を作り上げた未来から来たという。Ω計画は頓挫したうえ、関係者は処刑され、計画の中で得られた成果はすべて帝国のために使われたのだ。


 2つの未来は対照的だ。


 タケルは戸惑いつつも、言葉を絞り出した。


「そんな未来もあるんだ……僕の知っている未来とも違う。そうか、Ω計画を頓挫させたところで……」


「いや、Ω計画を潰す価値はきっとある。俺が思うに、大総統もΩ計画も両方消してしまえば少しはましな状況になるだろう。南東の離島にロナルドを消せる人がいると聞いている」


 と、パーシヴァル。


「名前は?」


「アリッサ・ハルフォード。未来で聞いたのは名前だけだが、ロナルド大帝が『不適切』と判断した者を島で保護して帝国と戦ったらしい」


 タケルが尋ねると、パーシヴァルは答えた。

 それはタケルの知らない名前。当然といえば当然だ。未来で語られる人物だとして、今有名だとは限らない。加えて、タケルは錬金術ばかりに傾倒してきた学生にすぎなかった。知らなくても無理はない。


「知らなくてもいいさ。俺は俺で接触しようと思っているからな」


 と、パーシヴァルは言う。


「いや、できるなら僕も……」


 2人の知る未来について、まだすりあわせは十分にできていないだろう。

 そんな中でだった。施設の警報が鳴ったのは――


 脱走か、あるいは外部からの襲撃か。

 どちらにしても状況が動くことには変わりない。


「どうする?」


 パーシヴァルは尋ねた。


「何もしなかったら余計に事態が悪化してしまうよ。僕はここにいるであろう仲間を――」


 タケルは答えようとして言葉を切った。


 パーシヴァルと話していたときには気づかなかった。否、壁などに妨害されて気配を追うことはできなかった。

 異能力者、つまりイデア使いの独特の気配はすぐ近くまで迫っていた。この気配の主は。


「タケル!」


 タケルにとって聞き慣れた声。

 振り返ってみればそこには紫髪の青年が。服装こそ入院着のようなものだったが、グリフィンだった。

 仲間との再会にタケルの表情は緩んでいた。


「グリフィン! 無事なようでよかった。ということはミッシェルも……?」


 タケルは言った。


「いや、ミッシェルはわからない。とりあえず僕は壁を水にして脱出してきたんだけど、まずいね。多分僕のせいで警報が鳴っているんだろう」


 冷静さを崩すことなくグリフィンは言った。

 が、警報が作動していることには変わりない。本来ならば慌てるべき状況である。


「病棟と同じならば職員が来るだろうな。研究員や看護師なら苦戦はしないだろうが、幹部なら俺と同格かそれ以上だろうな」


 と、パーシヴァルも言う。


「戦うのか……?」


 タケルは尋ねる。


「そうするしかないね」


「ああ。歯を食いしばれ、タケル。多分、俺より強いアイン・ソフ・オウルの誰かが来る!」


 パーシヴァルはそう言うと、職員がいるであろう方向を見た。


 そのときだ。

 地鳴り。

 かと思えば、エステルに似た圧が床――いや、地面から伝わる。


「どうして忘れていたんだろう。僕はこのピリピリした感じの正体を知っている。だって僕は、この人と一緒に戦っていたんだ」


 タケルは呟いた。

 その表情は一瞬にして変わり、気配の方向をきっと睨みつけた。


「アベル。それが敵の名前だよ」

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