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4 人生を取り戻す

 慣れた手つきで検査を進めるマリウス。

 タケルは相変わらず白衣1枚だけを着た状態だ。この部屋に検査着はなかった。


「さて……画像検査もしたし、次は――」


 マリウスがそう言った時に、外から検査室のロックを外す音がした。この部屋の解錠権限は検査技師か幹部にしか認められていない。来たのはどちらかだろうとマリウスは踏んだ。


「いいか、タケル。俺は検査技師、お前は被験者。その立場を崩さなければなんとでもなる。協力していることを悟らせるなよ」


 マリウスはタケルに小声で言った。


 解錠された後、扉を開けて入ってきたのは赤毛で顔に傷のある長身の男。パーシヴァル・スチュワートだった。


「パーシヴァル……!?」


「検査中だったか? もしそうなら、どこまで検査した?」


 パーシヴァルはマリウス尋ねた。

 予想外の転生病棟職員の登場に、椅子に座っていたタケルは目を白黒させる。その職員はミュラーのように敵対的か、そうではないか。


「画像診断を一通り。血液検査はまだだな。器具がねえ」


 と、マリウスは答える。

 だか、その言葉もパーシヴァルには通じない。


「嘘だな。いや、検査もしていたようたが副院長の盗聴器にはお前たちの会話が入っていた。よくもこの病棟を裏切ってくれたな。せっかくお前とは同じ職員として仲良くなれると思ったんだが、マリウス……」


 バチバチとパーシヴァルの周囲に電流が迸る。彼のその姿を見てマリウスは身構える。が、マリウスにも秘策はある。

 マリウスは異能力――イデアを展開。するとマリウス皮膚にトゲや鱗らしきものが現れる。近いのは映画に出てくるような怪獣、あるいはモンスターだろう。


「安心しろ、パーシヴァル。俺はお前を殺す気なんざねーから」


 マリウスはそう言ってパーシヴァルに突進し、その鋭くなった爪で四肢の筋肉を切ろうとした。だが――電気のエネルギーに弾かれてパーシヴァルに攻撃を当てることはできない。それがわかればマリウスは攻撃を切り替える。近接攻撃がだめならば遠距離攻撃。


「ここは病棟だぞ!?」


 焦るパーシヴァル。

 当然だ。マリウスの口の前にはエネルギーの塊が現れ、チャージされ。


「あの被験者が暴れても無傷だったろ?」


 と言い、マリウスは映画の怪獣のように光線を撃った。

 対するパーシヴァルは自身の体から出る電気を操作し、壁のようにしてマリウスの光線を止めた。直後、マリウスの光線に干渉して防ぎ切るのだが。


「それでもだ。しかも、流れ弾が当たったらどうする? 25-666-11は重要なサンプルで、俺たちの同胞になり得るというのに」


 パーシヴァルは言った。

 すると、すぐにマリウスは反論する。


「冗談は程々にしろよ? 人生を取り戻したいって本人が言ってんだ。尊重するのが人として正しいことだろ」


「人生を取り戻す? アイン・ソフ・オウルの前で甘ったれたことを言うな……俺は……」


 マリウスはパーシヴァルの神経を逆撫でした。タケルと同じく、パーシヴァルだってそうなのだ。人生を奪われ、被検体にされ、命の危険のある人体実験をされて目覚めたら再教育。そこから待っていたのは転生病棟の職員、幹部としての日々。夢や未来を奪われ、受け入れさせられた。パーシヴァルの中には人生を取り戻そうとするタケルやマリウスへの嫉妬があった。


「俺はもう人生を取り戻すこともできないのに……」


 パーシヴァルはそう言ってマリウスに向けて放電する。躱そうとするも、電流はマリウスに向かう。

 その様子を見ていたタケルは決心する。たとえ敵わなくとも幹部に立ち向かうと。ここで黙ってみていれば、マリウスの見せた夢さえも失うことになる。


 タケルはベッドから立ち上がり、重い身体を引きずってパーシヴァルに突進する。学生とはいえ、錬金術師だ。術式を演算しながらパーシヴァルに触れる。


「……っ!?」


 2人の錬金術師の術式がぶつかり合う。特殊な術式・ナノースを持つパーシヴァルは術式が交わることで生まれるエネルギーを吸収しようとする。だが、吸収されたエネルギーはパーシヴァルの体内で迸り。パーシヴァルはのけぞった。が、それでパーシヴァルは何が起きたか理解した。

 タケル――実験体25-666-11もパーシヴァルやその他アイン・ソフ・オウル隊員と同じくナノースを移植された身。彼に移植されたナノースがパーシヴァルに対して牙を剥いたのだ。


「なるほど。そういうことか。なおさら取り戻さなくては」


 パーシヴァルはよろめきながら言った。


 タケルもタケルで今起きたことをよく理解できていなかった。自身は錬金術を使ったつもりでも、それ以上の何かが発動していた。

 タケルは自身の左手を見た。霊安室で目覚めたときから左手には『11』と刻まれている。恐らく『11』と先ほど発動した何かは似ている。タケルは確信した。


 よろめきつつも体勢を立て直し、パーシヴァルはタケルへと近づく。迸る電流をその身に纏って。だが、背後から襲撃するマリウス。


「俺を忘れるなよ?」


 と言って、拳を叩き込む。

 横方向から忍び寄られ、顎に拳が叩き込まれ。頭が揺れる感覚とともにパーシヴァルは失神した。彼の意識がないことを確認したマリウスは、タケルに近寄って耳打ちする。


「……よし。コイツからカードキーやら奪ってここを出るぞ」


 病棟から出るためには検査室を出なくてはならない。幹部であるパーシヴァルがここに来た以上、地下の検査室にとどまる意味もないだろう。


「わかった」


 タケルは答える。


 マリウスはすぐにパーシヴァルの白衣や服を脱がせ、隠し持っていたものを回収する。

 パーシヴァルはカードキーだけでなく、小型のタブレット端末やノート、メモの紙切れなどを持っていた。職員になっていたとはいえ、『転生病棟』の内情を知らなかったマリウスはそれらをすべて回収。


「なに、きっとお前が外に出て自分の身に起きたことを知る手がかりになるぜ」


 と、マリウスは悪戯っぽく言った。


 そうしてタケルとマリウスは地下の検査室を出る。




☆用語解説☆

イデア

異能力のこと。ビジョンを明確に持つものが多いが、例外もある。

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