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克法ロジックパラドックス -世界を変える簡単な方法-  作者: 墨崎游弥
一つになる未来【再教育施設編】
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5 月下の襲撃

 闇の中から殺気が迫る。

 いち早くミッシェルが動く。そうして、背後から迫り来る男を蹴り飛ばした。


「病棟のクソどもか!? 何人か知らねーが全員ぶっ殺してやる!」


 挑発するミッシェル。

 そのとき。血の鎌が彼女の首筋をかすめた。ミッシェルが視界の端で捉えたのは月明かりに照らされる銀髪――


「ケヒャッ! 殺す? 馬鹿のこと言わないでくれるかい? 僕はね、逃してはならない者を連れ戻しに来ただけなのに」


 闇の中からの声。

 記憶の片隅に残るような声につられ、タケルは声のした方を向いた。

 その人物は、銀髪の死神を思わせる青年だった。肌は病的に白く、目の下には彫られたかのように隈が刻まれている。

 タケルとグリフィンの記憶の中に、確かにその姿は残っていた。


挿絵(By みてみん)


 ヴァンサン・アルトー。

 血液を操る錬金術師にして、転生病棟の外科医。タケルとは因縁ある人物だった。


「やあ、タケル。せっかく生き返ってくれたから期待していたのに、脱走なんてつれないことするね」


 ヴァンサンは言った。

 このときのヴァンサンは怒りをミセルこともなかった。が、どこかタケルに執着しているように見えた。


 だからそれに気づいたグリフィンが動く。

 ヴァンサンの死角に回り込み、首筋を狙う――が、ヴァンサンは振り返ることなく血液の槍を作り出し。グリフィンの腹部を血液の槍で貫いた。


「グリフィン!」


 タケルは思わず声を漏らす。が、その瞬間にヴァンサンの瞳が妖しく輝いた。まるで自身の獲物をとらえた蜘蛛のように。


「君が見るのはあんなやつじゃない。僕だよ……そう、君の手術を担当した僕だ」


 ヴァンサンは言った。


「恐ろしいな……病棟を出て1日と経たないうちに居場所に気づくなんて……」


「それはもう、筒抜けだよ。君たち実験体はすべてバーコードで管理されているからね。脱出を試みてもいずれ追手が確保しに来る……」


 タケルが言葉をこぼせばヴァンサンは言う。


 確かにタケルやグリフィン、ミッシェルやロゼの身体にはバーコードが印字されていた。その意味を理解したタケルは吐き捨てるように言った。


「くそ……どうして考えつかなかったんだ! マリウスが言う転生病棟の話と照らし合わせたら僕たちの居場所なんて簡単に割れるはずだ! 生きて外に出た者がいない病棟ってくらいだからね!」


 タケルの顔には絶望がにじみ出ていた。せっかく掴んだはずの人生は、手からするりと抜けていくよう。


 取り乱すタケルを見て、動いた者がひとり。

 彼女はタケルとヴァンサンの間に割って入り、ヴァンサンに蹴りを入れた。エステルだった。


「こいつの相手は任せろ。化物()ならなんとかできる」


 と、エステルは言った。


 だが、ヴァンサンはそれなりの重傷を負いながらも余裕を崩さない。

 そんなヴァンサンにエステルが飛びかかろうとしたときだ。彼女の死角から現れたのはひとりの看護師――名札には「イアハート」と書かれていた。イアハートが握るのは光を纏った銀の消防斧。


「頼んだよ、イアハート。人間もどきの相手は君にしかできない」


 ヴァンサンは言う。


「承知しました。担当だから当然ですよね?」


 と言ったイアハートは薄ら笑いを浮かべてエステルに切り込む。エステルは受け止めることもできず、避ける。この攻撃を受ければひとたまりもないのだ。


 エステルはイアハートとの戦いで引き離された。が、まだミッシェルが残っている。ミッシェルは強化された身体能力だけでヴァンサンに肉薄。そのまま首をねじ切ろうとした。

 そのとき、ミッシェルの足下に血液の結界が形作られ。


「君も哀れだね。安寧を求めないで反逆ばかりを繰り返す。その行動がなかったらそうなることもなかったのに」


 と、ヴァンサン。


 ミッシェルは危険を察知して血の結界の範囲を出ようとした。だが、もう遅い。

 血の結界から伸びる手がミッシェルの脚を縛り上げ、関節を外す。


「あ゛……っ……」


 関節が外れる音と同時にミッシェルは声にならない声を漏らす。彼女は戦うどころか立つこともできなくなったのだ。


 邪魔者を無力化あるいはその場から排除し、ヴァンサンは再びタケルに向き直る。


「さて、タケル。期待に応えてくれるよね?」


 ヴァンサンは言う。


「断る。僕だって無力じゃない。まさか移植したナノースのこと、忘れてないだろうな」


 タケルがそう言ったとき、すでに『Vaccine(予防接種)』のナノースは発動していた。ミッシェルに使ったのと同じ血の結界は打ち消された。

 気づいたヴァンサンは口角を上げた。


「いいね。それでこそタケルだよ。君が僕の隣で戦ってくれるならどれだけ頼もしいだろうねェ! ケヒャッ!」


 ヴァンサンはきっと昂ぶっている。

 いつもは無表情なその顔には笑みが戻り、口調も明るい。本気を出してナノース『Transfusion』を発動した。


 ヴァンサンの両手から血管のような赤いものが伸びた。それらは名も無きフラクタル図形の形を成し。タケルの周囲から無限の血液の触手を放った。


「君が病棟を裏切ればいいじゃないか……!」


 と言いながら、タケルは迎え撃つ。

 だが、ヴァンサンの物量にはかなわない。タケルが無効化しても血の触手はタケルに迫り。タケルを締め上げる。

 ヴァンサンは強すぎた。これまでに戦ったアイン・ソフ・オウルとは比べものにならない。


「逃げるんだ……ロゼ……」


 首を絞められながらタケルは言う。そんなタケルを見たロゼは少し離れたところで立ち止まっていた。足がすくんで動けないのだろう。敵からしてみれば格好の餌食だった。

 だが、ヴァンサンも取り巻きもロゼに興味を示さない。


 タケルが気を失うと、ヴァンサンはタケルを抱きかかえる。


「イアハート。そっちはどうだい?」


 ヴァンサンは訪ねた。


「殺害には至らないけど、行動不能にはできました。ついでにそこの『ROSE』もどきも連れて行きましょう」


 と、イアハート。


「そうだね。そいつだけじゃなく、グリフィンもだ。この3人は絶対に外に出してはいけなかった。残り2人とは違って外でも生きていけるからね」


 ヴァンサン一行はタケル、ミッシェル、グリフィンを連れ去った。彼らの行き先は彼らにしかわからない――


 何もできなかったロゼと重傷のエステル。2人はヴァンサンたちを見送ることしかできなかった。


「マリウスにつたえないと」

★転生病棟メモ

バーコードについて

転生病棟の被験者は身体に直接バーコードを印字する。これで管理でき、脱走しても居場所がわかる。カルテとも連動している。

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