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克法ロジックパラドックス -世界を変える簡単な方法-  作者: 墨崎游弥
一つになる未来【再教育施設編】
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3 タケルの話すこと

 セーフハウス全体に料理のできる匂いと薪の燃える匂いが広がる。


 タケルは床下に保存されていた米を鍋で炊いていた。マリウスは冷凍の肉を解凍し、スパイスやハーブとからめて焼いていた。さらに、ロゼのために野菜のポタージュスープも作っていた。


「そっちはどうだ?」


 マリウスはタケルに尋ねた」


「そろそろできるところだと思うよ。振った感じ、あまり水が入っている感じがしなかったし」


 と、タケルは答える。

 2人が作っているものは肉丼。ひとまず空腹を満たすために作ろうと判断したものだ。


 白ごはんが炊き上がると、タケルは平皿に白ごはんをよそい、マリウスに手渡す。受け取ったマリウスは5人分の肉を分けて盛る。消化機能が未発達なロゼにはポタージュを。


「ご飯できたよ」


 タケルは肉丼を2人前持ってセーフハウスの食堂へ。食堂ではミッシェルたちが話をしながら待っていた。


「いいにおい」


 ロゼが言う。


「だめだよ、ロゼ。ロゼのは別のがあるんだから」


 グリフィンがたしなめると、ロゼはふくれっ面になる。その様子もかわいらしい。子供らしさを見せる彼女はホムンクルスであることを除けばただの子供にすぎないのだ。


 しばらくして、ロゼの前には野菜のポタージュが置かれた。


「ごめんな、ロゼ。まだ俺たちと同じものは食べられないだろうと思ってな……」


 と、マリウスは言う。


 全員がテーブルを囲んだところで食事を始める。グリフィンは肉丼が好みだったようで、笑顔で食べ進めていた。マリウスとタケルも食べ進める。だが、ミッシェルは一口食べてスプーンを置き、エステルは手を付けてすらいない。


「すまねえ、マリウス。タケル。病棟にいるときからそうだったけどよ、あたしは味覚がだめになったみてえだ。辛味ならまだわかるから、台所のデスソース借りるぜ」


 ミッシェルはそう言ってキッチンへと向かう。

 そして、エステル。彼女は肉丼を見るだけで手を付けようとはしない。


「食欲がないのか?」


 タケルは尋ねた。


「違うんだ。人ならざるこの身で、私は食べられるのだろうか?」


 エステルは言う。

 それは彼女の苦悩だった。人間と魔族、人間とホムンクルスよりも深く広い溝がそこにはある。当然それは食事にも及び、エステルはこれまで人間を含む生きた生物を料理することもなく直接口にしていた。


「大丈夫だよ、きっと。僕が生まれるよりも前にいた魔族は人間と一緒に食事をしていたらしいから。もし不安なら……」


「そうか。食べてみようか」


 タケルが言うと、エステルはどこか納得した様子で肉丼に手を付ける。タケルたちがやるのと同じようにスプーンで掬い、口に運ぶ。咀嚼する。

 エステルの口の中には肉のうまみとスパイスやハーブの風味が広がる。それらの刺激を受け止めるように広がる白米の味。

 エステルは肉丼の最初の一口を味わい、飲み込んだ。


「これが人間の食事か。納得だ。このようなものがあるから人は食事を楽しめるのか。私の種族とは全く違うな」



 エステルは穏やかな表情を見せつつそう言った。


「気に入ってくれたみたいでよかった。またマリウスと作るよ」


 と、タケル。


「ありがたい。料理なんてしたこともないし、考えたこともなかった。人間は面白いことをするのだな」


 エステルはそう言って微笑んだ。

 これまで通りに食事ができる者、味覚を失った者、これまで人間と同じ食事をしたことがなかった者、消化器官が未発達な者。全員が同じ食卓を囲み、笑い合いながら食事をした。一行はそうしたことで絆が深まったことを実感していた。

 もう、共に脱出するために手を組んだ関係だけではないのだ。


 食事も終わり、使った食器を片付けた後。タケルたち6人は外に出ていた。満天の星空の下、口を開いたのはグリフィン。


「そういえば病棟から盗んだ情報なんだけど。面白いことがわかってね」


 唐突に出た話題。ここにいた誰もが目を丸くする。


「何がわかったんだ?」


 と、タケル。


「予想しているかもしれないけど、転生病棟には系列の施設がある。再教育施設は聞いているとして、他にはコアとなる研究所、本部に発電用プラント、兵器工場。それらがレムリア南部を中心に大陸中に存在しているみたいなんだ」


 聞かれたグリフィンはそう続けた。


「発電用プラントっていうと、ロゼのような子たちが犠牲にされているところか。胸糞悪いな」


 そう言ったのはマリウス。すると、グリフィンはまた続ける。


「マリウスもそう思うだろう? それでね、僕としてはそういった施設の破壊も考えた方が良いんじゃないかと思ったんだ」


 グリフィンもタケルたちも、これまで転生病棟でとんでもないものの片鱗を見ていた。あれでも氷山の一角であることは予想にかたくない。が、ロゼだけでも転生病棟の闇たり得るのだ。


「Ω計画だろ? あたしも同じように思うぜ。いくら世界の問題がどうこうっつってもな、それで犠牲にされる人はたまったもんじゃねえぜ」


 ミッシェルもそう言った。

 彼女もまた、当事者だ。理由は違えど、ロゼたちと同じく被害者であることには変わりない。


「そうだね。Ω計画はあるべき世界に近づける計画。問題が山積みのこの世界を、少しでもいい方向に持って行くために転生病棟の院長は進めていた。その思想も理解できるけど、何か根本的に間違っているんだ」


 ミッシェルが言うと、それにタケルが続く。

 院長カノンと直接対峙した彼の言葉に興味を持ったマリウス、ミッシェル、グリフィンは彼の方を見る。


「これから話すことは僕がカノンと対峙して気づいたこと、カノンから直接聞いたこと、それから僕の仮説だ。判断材料くらいにはなるかもしれない」


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