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克法ロジックパラドックス -世界を変える簡単な方法-  作者: 墨崎游弥
一つになる未来【再教育施設編】
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1 地下水道

【これまでの話(Side:タケル)】

転生病棟の霊安室で目を覚ましたタケルは検査技師マリウスとともに生きて病棟から脱出することに。途中立ちはだかったのは検査技師のパーシヴァル、薬剤師のフィト。しかし、タケルたちは協力して彼らを撃破。さらにある病室からミッシェルを救出し、ともに病棟の脱出を目指す。そんな中、3人を反逆者と見なして討伐しようと現れた看護師の蘭丸とハリスに外科医のヴァンサン、内科医のラオディケ。戦力差もあって、タケルたちは一度敗北し、地下牢に収監される。

だが、反逆はそれで終わりではなかった。タケルたちより前から地下牢にいたグリフィンが隠していた力を使って、タケルたちを救出したのだ。タケルたちはグリフィン、エステル、ロゼを仲間に加えて再び脱出のために動き出す。当然タケルたちの前には病棟職員が立ち塞がるが、看護師の蘭丸とハリスを退け、重要な情報を持って病棟を脱出したのだった。

挿絵(By みてみん)



 転生病棟を脱出し、グリフィンたちは近くの防風林へ。防風林を少し歩いたところに煉瓦造りの建物と重い扉があった。この頃には目を覚ましていたマリウスは言う。


「やっと地下水道に着いたみたいだな。ここに入るぞ」


 入る。だが、どうやって。扉は鎖と南京錠でかたく施錠されている。

 扉を前にして、マリウスは口の中――奥歯のインプラントから白く小さい鍵を取りだした。鍵は奥歯から取り出されるとすぐに元の大きさとなった。その鍵でマリウスは解錠する。南京錠を外すと、鎖がじゃらりと地面に落ちる。


「鍵は開けたけど、タケルがまだ来ていないね。どうするのかい?」


「とにかくこの中に入る。病棟の方はあちらこちらを壊されて、患者も何人も解放されてんだ。あの組織の姿を見るに、ここまで追ってくることはすぐにはあり得ない。ただ、問題はその後。病棟の内部の状況が復旧すれば刺客を差し向けてくるだろう」


 グリフィンに聞かれるとマリウスは答えた。


「アンタがそう言うなら可能性は高いだろーな。あたしらが脱出した時点ですげえことになってたのは間違いない」


 と、ミッシェルも納得した様子で言う。


 そうして一行は古い地下水道へと足を踏み入れた。

 重い扉の先の階段から、地下へ。地下水道へと向かう階段は少しばかり苔が生えているが、比較的きれい。崩落する前兆も一切ない。

 階段を最後の一段まで降りきると、そこには使われていない地下水道とそれに沿った道があった。


「すごいね・・・・・・まさかこんなものが」


 グリフィンは地下水道の内装を見てそう言った。


 地下水道はつめたく、じめじめとしていた。だが、古い地下水道である割に水は綺麗に透き通っている。使われているわけではないが、設備はまだ生きているようだ。さらに地下水道の壁には神秘的な光があった。模様からして500年ほど前のものだとマリウスは考えていた。


「昔見たことがある、このような地下水道は」


 ふと、エステルは口にした。

 彼女は何百年も生きる、人ならざる種族。このような地下水道が使われていた時代も知っているのだろう。


「そりゃ凄いな。後で聞かせてくれ。俺たちはしばらくここでタケルを待つ」


 と、マリウス。

 警戒心をすべて捨てたわけではないが、敵襲の可能性が低い場で一行の顔からは緊張の表情が抜けていた。


 しばらくしてかつん、かつんという音が階段から聞こえてきた。近づく足音にミッシェルとエステルは身構えた。

 だが、足音の主は敵ではない。階段を降りてやってきたのはタケルだった。


「よう、タケル。無事なようでよかった」


 マリウスはタケルの姿を見るなりそう言った。だが。


「追手が来るかもしれない。この地下水道の入り口か階段を壊した方がいいよ」


 タケルは言った。


「そりゃ切迫した状況か?」


「その可能性が高い。転生病棟は脆弱な組織じゃないからね。今から僕が入り口を塞ぐ」


 と言って、タケルは階段の方に向き直る。石造りの壁に触れ、術式を発動させる。得意とする使い方ではないが、階段と壁は脆くなり、崩れる。瓦礫はすべて入口を塞ぐ。


「行こう。ここにいてどうにかなる状況じゃない」


 さらにタケルは続ける。


「ああ、それなんだが。この地下水道を進んだ先にセーフハウスがある。まずはそこを目指そう」


 マリウスは言った。


 一行は地下水道を進む。人の気配はないが、時折ここを住処としていた生物が飛びかかる。そのたびに前に出たのはエステルとミッシェル。2人はその身体能力に任せて生物をなぎ倒す。中には錬金術で合成されたようなものもいた。


「合成獣か。転生病棟ではこんなことまで・・・・・・」


 アカデミーで錬金術の詳細まで学んでいたタケルは言った。

 ひととおり地下水道の動物たちを沈黙させた後、歩きながらマリウスはぽつりぽつりと話し始めた。


「この地下水道はな、かつて鮮血の夜明団ができて100年ほど経った頃に作られたといわれている。南部の調査と開発のために、な」


「もっと別のことがあっただろ。なんで鮮血の夜明団と絡めて言うんだよ」


 ミッシェルはマリウスに尋ねた。


「作ったのが鮮血の夜明団だからだ。目的はさっき言った通り。ここ100年は使われていないらしいが、俺が転生病棟に潜入するためにもう一度使うことにした。鍵も結構重要なところから受け取った。脱出したら返さねえとな」


 と、マリウス。


「かなり大がかりなことをしているみたいだけど・・・・・・」


「そういう事をしなきゃならねえ相手なんだよ。あの病棟は去る者を決して許さない。生きて帰ってきた者はいねえんだよ」


 タケルに聞かれるとマリウスは答えた。


 地下水道に逃げ込み、助かったことで安堵していたタケル一行。だが、病棟の恐ろしさを語られたことでタケルはぞっとした。


 それから、一行は誰も言葉を発することなく地下水道の道なりに進む。静寂とした地下水道には一行の足音と天井の水が落ちる音だけが響く。


「もう少しだ。もう少し歩けば海岸に出る。海岸にはセーフハウスがあるはずだ」


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