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3 アイン・ソフ・オウル

 タケルをマリウスに任せたミュラーは壁にカードキーをかざし、ロックを外す。

 彼の持つカードキーは限られた職員に渡された代物。この病棟の職員はクラス分けされ、病棟の幹部であるアイン・ソフ・オウルの者と院長、副院長、理事長にだけがカードキーであらゆるセキュリティを解除できる。そのカードキーも院長と理事長の権限で機能が制限されるほど。それだけこの『転生病棟』はセキュリティを徹底した場所だ。


 ロックを解除すると、白い壁が自動ドアのように開く。ミュラーはその奥にあるエレベータに乗るとすべてのセキュリティを元に戻した。


「……クロルにあの被験体を任せたが。あれで良かったのやら。どちらにしろ報告義務はある。どこから情報が漏れるかわからないので管轄以外だとまどろっこしい方法にはなるが」


 ミュラーが考えているうちにエレベーターは5階に到着した。

 ミュラーはエレベータを降りて会議室に向かう。5階の廊下の奥、カードキーを使わなくては入ることができず、幹部ではない職員は幹部以上の職員の付き添いなしでは入れない。


 会議室はいくつもの監視モニターと机、本棚がある高級感漂う部屋だった。その部屋にはミュラーが来る前に彼以外のアイン・ソフ・オウルのメンバー9人と院長とその側近、副院長が揃っていた。


「早かったな。いや、警報への対応はご苦労だった。君が対処するほどではなかったということかな?」


 ミュラーを目にすると院長カノン・ジョスパンがそう言って出迎える。


「はい。今回僕は戦闘より報告を優先すべき事態と判断しました。戦闘は検査員に任せております」


 その後黒白目の院長は特別に感情を見せる様子もなく、ミュラーに席につけとアイコンタクトを送る。


「ならばその根拠を聞こう。地下1階で何があった?」


「死体が生き返りました。道中でここ5日の死者と照らし合わせたところ、25-666-11が生き返ったものと思われます」


 ミュラーは言った。

 彼の言葉を受け、紫髪の眼鏡をかけた女が端末を操作する。すると、会議室のモニターにはとある被験体のカルテが映し出される。


 被験体25-666-11。

 174cm78kg。

 特殊錬金術適合実験の被験体で、術式解読済の元錬金術師。

 2月9日に適合実験。当初は適合するも急速に意識低下、翌日に死亡。

 解剖およびナノース回収のため霊安室にて保管した。


「同意なしに私たちと同じことをしようとした子ですねえ。今年の被験体と番号が離れていたから何事かと思いましたがそういうことでしたか」


 カルテを見て何かを思い出したように紫髪の女――ラオディケは言った。


 彼女の言うことは説得力があり、ここにいた誰もが納得した。ただし、口を挟まずにはいられない者もいる。


「あの『Vaccine』のナノースを移植したヤツか。失敗作じゃねーか」


 そう言ったのは水色髪の青年。酒で焼けたような声と首に巻いた包帯が特徴的だ。


「まあまあ。失敗作かどうかは今後のモニタリングで決める。そうだろう、ハリス」


 別の幹部からそう言われた水色髪の青年――エヴァン・ハリスは大人しくなる。窘めた黒髪の男はフィト・ソル。物腰が柔らかいながらも内に秘めたものは些か過激。だといわれている。


「あー……そっすね。だからアイツにも『11』って刻まれてんだよなァ……」


 と、ハリスは言った。


 幹部アイン・ソフ・オウルの体には被験体25-666-11 ――タケルと同じく番号が刻まれている。噛みつくように言ったハリスにも、彼を窘めたフィトにも、ラオディケにも。彼らの体表のどこかには被験体番号とバーコードがあるのだ。


「話を戻しますと、ミュラーによれば脱走した被験体25-666-11は現在検査技師に任されている。うちの検査員はミッシェルの脱走を鎮圧できることが基準ですので大丈夫かとは思いますが……」


 ラオディケはそう言った。

 すると、フィトは赤毛で長身の青年を見て言う。


「パーシヴァル。検査技師はお前の管轄じゃなかったかい?」


「それは……」


 アイン・ソフ・オウルに馴染んでいない様子を見せるパーシヴァル・スチュワート。彼の首筋には『10』と刻まれていた。


「検査技師クロルから地下の検査室にいると報告を受けた。現在検査中とのこと。このミーティングが終わり次第、地下に向かう許可がほしい」


 パーシヴァルは言った。

 彼の言うことはもっともだ。このイレギュラーな事態で、幹部ではない検査技師が対応しているのならば検査技師を管轄するパーシヴァルも向かわなくてはならない。


「ここには検査プロトコルや死亡診断があるが、イレギュラーだとすればアイン・ソフ・オウルが対応する必要が出てくるということか」


 確認するようにカノンは尋ねた。


「その通り。死亡診断プロトコルにもかかわると俺は考えた」


 パーシヴァルが言うと、ラオディケと銀髪の青年ヴァンサン・アルトーが反応する。2人はそれぞれ内科医と外科医を管轄している。今回の事態は2人にとっても無関係ではない。特にヴァンサンは死亡宣告をした張本人。


「錬金術師と被験体の両方のプロトコルに従ったんだけどね。僕としても正直予想外だよ」


 ヴァンサンは言った。


 こうしてこれからのアイン・ソフ・オウルの動きが決まる。


「この状況を予測できる者はそうおらん。さて、パーシヴァルは地下の検査室に向かってもらう。ヴァンサンとラオディケは被験者の死亡診断のデータを確認。ハリスと蘭丸は動きがあるまで待機。何かあればガネットともども動いてもらう」


 カノンの指示で、アイン・ソフ・オウルはそれぞれの役割へ。ここで一番動くことになるパーシヴァルは、ミーティングが終わるとすぐに会議室を出た。向かうのは地下の検査室。


★登場人物紹介★

パーシヴァル・スチュワート

転生病棟幹部アイン・ソフ・オウルの新入り。検査部門を管轄している。性格はかなり真面目。電気のナノースを持つ。


ラオディケ

アイン・ソフ・オウルのひとり。物腰は柔らかいが刺激的なものを好む。内科医でもある。火薬のナノースを持つ。


エヴァン・ハリス

アイン・ソフ・オウルのひとり。酒が好きだが絡み酒になるうえ泣き上戸。看護師を管轄する。蒸留のナノースを持つ。


ヴァンサン・アルトー

アイン・ソフ・オウルのひとり。外科医。見た目は怖いが中身はそうでもない。輸血のナノースを持つ。



☆用語☆

ナノース

錬金術の拡張因子。ある程度複雑な術式を持つ者に移植する。アイン・ソフ・オウル隊員は全員これを持っている。

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