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克法ロジックパラドックス -世界を変える簡単な方法-  作者: 墨崎游弥
彼の見た未来と過去【追憶編】 Side:パーシヴァル
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5 魂

 魂の検査。100%パーシヴァル・スチュワート。

 蘭丸は検査結果の記録された用紙をパーシヴァルに手渡した。


「安心しなさい。アンタの中身は100%アンタよ。ロナルドなんちゃらはアンタの中にいない。おおかた未来での魂の転移が失敗したんでしょうね。ほんと、未来の科学者はアタシより全然大したことないじゃないの」


 と、蘭丸は言う。


「……そうなのか。ということは、未来でのあれは失敗したのか」


「何の事なのかわからないけどアンタにはロナルドとかいう人の魂は入っていないの」


 パーシヴァルが言うと蘭丸は念を押す。何が起きてパーシヴァルが過去に飛んだのかはわからないが、彼自身ではないものが彼の中で暴れ出す心配はなくなった。


 次は全身の検査だった。カウンセリングとは異なる場での問診に始まり、血液を抜かれ、画像診断などをされ。検査がすべて終わったのは2日後だった。

 どこか未来で見た施設と共通するような病室に連れて来られ、眼鏡をかけた紫髪の女から説明を受けるのだ。


「健康状態に異常なし。錬金術師だと言うから術式の状況も検査させてもらいました。まあ、結論からいくとあなたはナノースに適合しそうなことがわかったんですよお」


 パーシヴァルに説明する女はラオディケ・サマラス。彼女もまたここ、転生病棟の幹部アイン・ソフ・オウルのひとり。優しそうな表情と穏やかな口調ではあるが、底知れぬ強さを感じさせる人物ではあった。

 そんなラオディケの言葉にひっかかるものを見つけ、パーシヴァルは聞き返す。


「ナノースに適合? 誰にでも移植できる代物じゃなかったのか、ナノースは?」


「あなたは誤解しているのかもしれませんが、ナノースは移植するにあたりレシピエントの身体にとんでもない負担をかけるのです。現段階で手術を200例ほど行い、適合したのが私を含めて14例。1%にも満たない適合率なのですよお。ご理解いただけますか……?」


 ラオディケは言う。

 彼女の説明でパーシヴァルは認識、あるいは世界の差を痛感した。これが30年という時間がもたらす技術の差なのだろう。不治の病が30年ほどで治療できるようになることと本質的には同じだ。


「とはいえ、ここ3年では適合率がきわめて低い被検体をはじくことができるようになったのでさほど人が多く死ぬわけではありませんが」


 ラオディケはそうして付け加える。


「死ぬ可能性があることに変わりないんだな……拒否権はないのか?」


 パーシヴァルは尋ねた。


「あるわけないでしょう。確かにここは病院で、あなたを保護したわけではあるけどね、健康で治療の必要もない人間をここにおいておくと病床が占拠されてしまうの。だからもしその気がなければ、私たちはあなたを放り出す。あなたがいた世界とはまるっきり違う世界にね?」


 ラオディケの言葉をうけ、パーシヴァルはことの重大さに気づいた。

 確かにパーシヴァルのいた30年後の未来と今とでは異なることも多い。なによりパーシヴァルは帝国時代より前のレムリアを知らないのだ。


「きっと苦労しますよ。あなたの価値観も知識も通用せず、搾取されて捨てられ、挙句の果てに野垂れ死ぬ。私はそうなるとしか思えません。それに比べたらスクリーニングと検査で成功率がある程度保証された状況で受けるナノースの移植の方がよりよい結果をもたらすと思いませんか?」


 ラオディケは続けた。


「それでも確実に成功するとはいえないんだろう」


「そうですね。ああ、そうでした、あなたがナノースを移植したら、ロゼとやらに会えるかもしれませんよ」


 そう言うと、ラオディケは微笑んだ。

 彼女はパーシヴァルを揺さぶる決定的な言葉を最初から知っていたかのようだった。

 パーシヴァルはしばらくの間黙り込み。


「移植されてやる。ロゼに会えるなら安いものだ。俺はロゼに会って確かめたいことがある。お前たちがどんな方法を使ってロゼを俺に引き合わせるかわからないが。再現性は俺自身だ」


 パーシヴァルは決断する。

 ナノースを移植されようが病棟の外に放逐されようが、自身の知らないことが起きることは明白だ。ならば、少しでもましな未来の可能性――ロゼに会える可能性を選びたかった。


「ふふ、あなたならそう言ってくれると思いました。院長にも伝えておきますので。手術の日取りが決まればまたお伝えしますね?」


 そうしてラオディケは病室を去る。

 病室に残されたのはパーシヴァルひとり。病室は殺風景ではあるが、患者の使うメモ帳やペン、本などが置かれていた。人が死ぬようなものを移植してこそいるが、転生病棟で患者は人として扱われるようだ。


 パーシヴァルはペンをとり、メモ帳にこう書き残す。


【愛しのロゼ。なぜ俺を刺したのかは聞かないことにする。ただ、一緒に過ごした時、愛なんてなかったのか。俺はそれだけを知りたい。会いたいというのは烏滸がましいだろうか。とにかく、俺はロゼの無事と幸せを祈ることしかできない】


 手術の日取りが決まったのは3日後だった。

 検査結果からパーシヴァルに最も適合すると考えられるナノースを選定し、手術室の使用も確認していたらしい。

 手術はそれから1週間後だった。


 意識を残したままストレッチャーに乗せられ、パーシヴァルは手術室へと運ばれる。担当した職員は全員が慣れた手つき、表情で病棟ではこの手術や手術による死が当たり前になっているようでもあった。


 手術室で麻酔をかけられ、ナノースの移植手術が始まった。


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