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克法ロジックパラドックス -世界を変える簡単な方法-  作者: 墨崎游弥
彼の見た未来と過去【追憶編】 Side:パーシヴァル
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4 未来と今について

「話は蘭丸に聞いた。面白そうじゃないか。業務を中断してすっ飛んできたよ」


 黒目の男はパーシヴァルに微笑みかけた。少なくとも彼は蘭丸に悪い感情を持っていないようだ。


「ああ、名乗らなくてはね。私はカノン・ジョスパン。この病棟の院長だ」


 と言って、カノンはパーシヴァルに手を差し伸べた。パーシヴァルはカノンの手を取る。


「よろしく頼むよ。特に君は我が転生病棟に新しい流れをもたらすだろうと、私は確信している。君も名乗りな、ミュラー」


 カノンはさらに金髪の男――ミュラーを見る。ミュラーは心底パーシヴァルに興味がなさそうだったが、口を開く。


「ダミアン・ミュラーだ。一応、病棟の幹部でカウンセラーをやっている」


 他には特に語ることがない、とでもいうようにミュラーは黙り込む。それはいつものことなので、カノンも蘭丸もハリスも気にしない。


「それじゃあ、院長。彼のことはよろしく頼むわ」


 そう言って、蘭丸はカノンにパーシヴァルを引き渡す。

 カノンはミュラーとともにパーシヴァルを連れて研究室を出る。研究室を出て廊下を進み、3階に降り。バックヤードのとあるカウンセリングルームへ。道中、カノンはパーシヴァルについて尋ねた。これまでの人生のこと、魂の転移装置に入れられるまでのこと、その後、装置から出て気づいたこと。それだけでもカノンがパーシヴァルに興味を持っていることは明白だった。

 ミュラーはといえば、カノンを連れてきた意味があるのか疑わしいほどに言葉を発さなかった。


 カウンセリングルームに到着すると、カノンはドアを開ける。


「では、頼んだよ」


 それだけを言い、カノンはミュラーにパーシヴァルを任せたのだった。


「……さて。これは僕の仕事。君はここに座るといい。2人きりでしかできない話をしよう。君の名前は」


 ミュラーは椅子の前でパーシヴァルにこう尋ねた。


「パーシヴァル・スチュワート」


「そうだね。院長の言う通りだ。座るといい。未来についての話も、君の仮説も僕は否定しない。こんな異常性だらけの世界、ありえないことが存在する方がおかしい」


 と言って、座るミュラー。彼の表情は何を考えているか分からない表情から、真剣であるが優し気な表情となった。空っぽだった彼自身が満たされたように。


「君のいた世界について教えてくれ。タイムマシンの類は存在しているのかい?」


 穏やかな口調でミュラーは尋ねる。


「タイムマシンの理論を完成させて処刑された人がいる。もしその理論を帝国の科学者が形にしたらタイムマシンはあるかもしれない。けど、俺は知らない……俺は帝国の科学者じゃないから」


「帝国……君のいた時代に帝国があるということかい?」


 ミュラーはパーシヴァルのこぼした言葉を聞き逃さず、尋ねた。


 そのままミュラーの尋問は続く。帝国のこと、未来での出来事、転生病棟の未来、Ω(オメガ)計画の行く末など、パーシヴァルは話した。それらの不都合なことを聞いても、ミュラーは表情ひとつ変えなかった。感情が欠落しているかのように。


「……そうかい。思いもよらぬ出来事がそれだけ起きるということか。絶対君主制なんてもう流行らないと思ったが。最後にひとつ。燃料……蒼爆石はどうなった?」


 ミュラーは最後にこう尋ねた。


「何だ、それは。俺はそんなものを知らないし、燃料は人体燃料を使っている」


「へえ……それはね、『ROSE』というやつがひな型になったはずだ」


 淡々と言ったミュラー。

 対して、パーシヴァルは動揺した。発音は異なるが、パーシヴァルにはロゼと聞こえたのだ。そう、あの日パーシヴァルを刺したロゼと同じ――


「ロゼだと……!? いるのか、この時代にも! 会わせてくれ……恋人なんだ! 俺はロゼから話を聞かなくてはならないんだ!」


 パーシヴァルは取り乱す。彼自身でもわからない何かに突き動かされ、ミュラーをまくし立てる。そうすればロゼのことがわかると考えていたから。しかし、現実は残酷だ。


「ロゼ……『ROSE』は恋人など作れるはずがない。どうやら時代が違うことで互いに齟齬が出ているようだ。恋人以前に、君を『ROSE』に会わせることはできないだろうね」


 ミュラーは言った。


「どうして……まさか」


「何の理由でまさかと言っているのかは理解しかねる。ただ、君はどうにも危うい。まずは教育を受けてから。すべてはそれからだ。君が『ROSE』関係の部署に配属されればその目で確かめることができるのだがね」


 と、ミュラー。

 感情を失いつつありながらもミュラーは的確にパーシヴァルの危うさを見抜いていた。それ以上に、彼はパーシヴァルの言うロナルドの魂を危険視していた。


「さて、話が終われば次は検査だ。あの連絡にあったロナルド大帝とやらの魂が混じっていないかを検査するだけでなく、肉体についても隅々まで見なくてはならない。すまないね」


 ミュラーは続ける。

 彼の示した現実はパーシヴァルに重くのしかかる。


「検査を受けて、あんたの言う教育とやらを受けないとロゼに関わることすらできないということか……」


「すまないね。すべてが異例なんだ」


 ミュラーの言葉でカウンセリングあるいは尋問は終わる。

 次は検査だ。


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