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克法ロジックパラドックス -世界を変える簡単な方法-  作者: 墨崎游弥
彼の見た未来と過去【追憶編】 Side:パーシヴァル
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1 敗者の病棟

2章です。

この章はパーシヴァル視点ですね。過去または未来に触れます。

挿絵(By みてみん)



 ペドロは管理システムにとあるパスワードを打ち込み『ROSE』を解放した。ローズ・プラントの装置は『ROSE』を殺すことなく解除され、中から赤髪の少女たちが出てきた。うち、一割ほどは衰弱しきっており、装置から出されるとすぐに息絶えた。他の少女でも、装置を出て生きていられる者はそう多くない。結果的に立っていられた者は10人ほどだった。


「ここから出る! ついてくるんだ!」


 ペドロは生きている少女たちに向かって言い、先導するかのようの進み始める。すると、少女たちのうち何人かは刷り込まれたかのようにペドロについていく。

 少女たちと共に病棟から出なくてはならない。

 とにかくペドロは走った。ローズ・プラントから隠し通路を使って裏口へ。誰も使わない通路にも明かりは灯っていたが、ローズ・プラントの少女たちが解放された今、消えるのも時間の問題だろう。


 病棟1階の裏口に差し掛かった頃だ。


「ペドロ。お前は何をしている?」


 ペドロの前に立ちはだかる者がひとり。

 少しばかり取り乱した様子のパーシヴァルだった。


 地下牢でタケルたちに再び敗北したパーシヴァルはどうにか一命を取り止めた。それができてしまえば、錬金術師は簡単に再生する。だからパーシヴァルは裏口まで来られた。


「何をしているかは言えないが、そこをどいてくれ」


 ペドロはそれだけを言った。


「見ればわかる……どいてほしいのか。ならば俺も聞きたいことがある。その『ROSE』は誰だ? どうしてそんな人数いるんだ……ロゼは1人ではなかったのか……!?」


 と、パーシヴァルは聞き返す。


「1人じゃないんだな、それが。この赤髪の少女こそが発電用に作られた人工生命体(ホムンクルス)、『ROSE』だ。あんまりだと思わないか?」


「ああ……その通りだ。俺のロゼもああなっていた。そうか……俺は何も見ていない、今のうちに通れ」


 パーシヴァルは言った。

 するとペドロは「感謝する」とだけ言い、病棟を出る。赤髪の少女たちも彼に続いた。ペドロはパーシヴァルについてあえて考えなかった。彼と赤髪の少女たち――『ROSE』との間には、確実に何かあるのだが。


 そうしてペドロたちを見送った後、パーシヴァルは端末を見た。

 招集がかかっている。

 パーシヴァルはすぐに5階の会議室へと向かった。




 会議室には生き残ったアイン・ソフ・オウルのメンバーに加え、副院長のルシーダ、理事長アノニマスが揃っていた。だが、どういうわけか院長カノンはいなかった。

 さらに生き残りの中にはエステルに敗北したキイラだっている。今残っているアイン・ソフ・オウルは7人ということになる。


 会議室には重い空気が流れ、ラオディケやムゥでさえ自分から発言しようとしない。その理由はじきにわかることになる。


「揃ったか。とんでもない事態ということは君たちもよく理解しているはずだ」


 そう言ったのは理事長のアノニマス。

 アノニマスは稀に見るほど美しい人物だった。年齢こそ伏せているが、何年も変わらず目鼻立ちは整い、輪郭は綺麗な卵型。伸ばした紫色の髪は常に手入れされているよう。

 彼こそがこの雰囲気の原因その人だったのだ。


「理事長、院長が不在ですが」


 と、ラオディケが口を挟む。

 すると理事長は答えた。


「カノン君ならば暫くここには来られないさ。No.11に手痛い反撃をされたようでね」


「ケヒャッ……! そうか、僕が執刀した彼が。行動は完全に想定外だけどさすがだよ。どうにか見つけ出して再教育しないと。そうして、僕の相棒にするんだ」


 そう言ったのはヴァンサンだ。そんな彼は、今度はパーシヴァルに視線を向ける。


「で、君はどうしてペドロを逃がした? 今は予備電源で持っているが、もうじきこの病棟の設備全てが使えなくなる。逃さなければこうならずにすんだというのに」


「それは……」


「何を聞いても同じだと思うけどね」


 パーシヴァルが答えようとすれば、ヴァンサンがそれを遮る。が、パーシヴァルにも弁解する余地はない。パーシヴァルが裏切者を見逃したことには変わりなく、彼の心も動きつつある。パーシヴァルが最優先するものは病棟ではない。


 ぴりぴりとした空気が辺りを包み込む。


「さて、理事長。パーシヴァルを連れて行こうか、僕たちの再教育施設へ」


 ヴァンサンがそう言ったとき、パーシヴァルの表情が変わった。再教育施設がどのような場所か、パーシヴァルは知っていた。経験したことがあるのだ。


「待ってください! 俺は……」

「それがいいだろう。捕らえろ。地上の鉄獄に捕らえ、しかるのちに再教育を」


 パーシヴァルが抵抗を見せても、会議室に通じる隠し通路から2名の青年が現れ。2人はパーシヴァルの背後に立つ。そうして、ひとりがパーシヴァルの首をつかみ、ひとりが薬品を打ち込んだ。

 薬品を打たれ、パーシヴァルは急速に眠気を感じ、脱力感を覚えた。直後、パーシヴァルは意識を失った。


「やれやれ、まさか僕たちの中から反逆者が出るとは。でもね、理事長も院長も慈悲深いし、命の無駄遣いはしない。再利用するんだ」


 ヴァンサンは呟いた。



【登場人物紹介】

アノニマス

転生病棟の理事長にして、カノンの師。美しく、年を取らない謎の人物。カノンいわく、全知全能、

試験管より出ずる神(デウスエクスヴィトロ)とのことだが……?

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