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29 灼熱の霧の中で

 立ち込める霧。その向こう側にたたずむふたつの影。

 もう蘭丸とハリスは来ていたのだ。


「ペドロはやられたって事か……いや、それより!」


 焦りつつもマリウスが怪獣の姿を取ったときだ。

 霧の中から蘭丸とハリスが現れる。さすが錬金術師というべきか、2人の負った傷は完治。ダメージそのものがなかったことにされているかのよう。


「戦う価値もないわよ、あんなの。今頃ガネットが制圧しているところよ。で、ケイゴもアタシたちが来たんだから毒ガスを使うのはやめなさい。死んじゃうじゃないの」


「へへ、教えてやるなんてさすが蘭丸だぜ。だってよ、ケイゴ。もしやったら焼き殺すぜ」


 蘭丸とハリスは口々に言った。


「そうか……ペドロはイデア能力者でもないからな……」


 そうは言ったがマリウスの言葉など、蘭丸もハリスも聞かない。霧で視界が悪い中、蘭丸はレンズで光を屈折させて姿を消した。かと思えば、タケルの背後に現れ。


「生きていたら幹部にしてあげるわ。感謝しなさい」


 そう言って背後から光線を放つ。

 光線は7方向に向けて放たれ、タケルの腰から腹部を貫通。タケルは床に手をつき、痛みに悶えながらも蘭丸を見た。


 紅衣の美しき看護師は、タケルを死にかけのネズミでも見るような目で見ている。言葉では感謝しろと言うが、その目では気持ち悪いから死んでくれ、害でしかないから死んでくれとでも語っているようだった。


「くっ……うまくいくと……」


 タケルは呟いた。

 フィトと同じアイン・ソフ・オウルだというのに、蘭丸とハリスは倒せもしないような強大な敵に見える。


 2人を前にしてタケルは痛みをこらえ、傷を受けた肉体を再生する。

 だが、それが隙になり、蘭丸は再びタケルに照準を合わせて光線を放つ。そんなときだった。エステルが光線からタケルを庇うように間に入ったのは。


「何よ、人間もどき」


 蘭丸は冷徹な口調で吐き捨てる。

 エステルは蘭丸の言葉など気にも留めず、水の塊を宙に浮かせて水の杭を放つ。大陸南部であるような豪雨のように。


 蘭丸はその攻撃を避けるだけだったが、今度はハリスが動く。彼が放ったのは水さえも蒸発させる、超高温の加熱水蒸気。エステルの放った水はたちどころに蒸発してハリスの支配下に渡る。そうして辺りを包み込む霧はより濃くなり、タケルたちは完全に分断されたも同然になった。


「やっちまえ、蘭丸。お前の投影先は準備できてるぜ!」


 ハリスは言った。

 見えずとも、ハリスの居場所を把握している蘭丸は無言で霧に術式を投影。それも一か所ではなく、複数。


「感謝するわよ、ハリス。アンタはいつでも有象無象とは違うじゃない」


 そう言って、蘭丸は霧に投影した術式を発動させた。

 霧から生成される氷の礫。それらはすべてタケルたちの生命エネルギーを感知して降り注ぐ。

 黙って受けつつ体を再生させるタケル。怪獣の姿に変身して氷の礫を耐えしのぐマリウス。水の防壁を張って氷の礫を防ぐエステル。蘭丸の攻撃の範囲外に離脱するグリフィンとロゼ。


「……その壁に穴を空けられればどんなにいいか」


 グリフィンは呟いた。

 今、グリフィンは警戒しつつハリスの霧の薄い場所にいる。その足元に転がるのは職員の屍の山――ただし、一部は生きているが。


「あけられるの?」


 ロゼは尋ねる。


「やってみようか」


 と言って、グリフィンは悟られぬように壁に近づく。壁には窓があり、窓からは庭園と慰霊碑が見える。グリフィンは壁に触れ、イデア能力を発動させた。


 何も起こらない。やはり、この病棟の壁にはイデアが無効化される細工がなされているようだった。が、ガラスそのものを割ることは不可能ではないはずだ――


「誰かの手を借りられるなら、そのガラスは割れるかもしれない、か」


 と、グリフィン。

 自身とロゼを除けば割ることはできるかもしれない。1階に降りるための穴を空けたタケルならば、窓どころか壁も破壊できるかもしれない。


 そう考えていたグリフィンの前に、新たな職員たちが現れた。彼らは銃火器で武装しているが、霧で狙いをつけられずにいるようだ。

 チャンスだった。

 グリフィンはロゼを下ろすとすぐに一歩を踏み出し、突撃し、職員たちの首をあらぬ方向にへし折ってゆく。そうされた職員たちは生命を維持することもできなくなり、息絶える。至近距離にまで近づいたグリフィンを撃とうと銃口をむけてもグリフィンの方が早かった。1秒もしないうちに首はへし折られ、屍の山が増えるのだ。


 現れた職員たちの殺戮を終え、グリフィンはロゼの方を見た。どうやら彼女に手を出した者はないらしく、ロゼは無傷のまま立っていた。


 一方、毒ガスが無力化されたのを知ってケイゴは舌打ちをした。加えて蘭丸とハリスまでやって来たのだ。毒ガスなど、使えない。

 ミッシェルもそれに気づき、窮地を脱したことを悟る。体の重さは変わらないが、少なくともこれ以上毒に侵されることもない。


「クソが……幹部だからって俺の戦いを邪魔しやがって」


 ケイゴはそう吐き捨てた。


「へへ、てめー1人が死んだところであんまり変わらねえって判断したからだろ。残念だったな、カス野郎」


 ミッシェルは嗤う。挑発だ。それくらい、頭の回る人間ならばわかることだろう。が、脅されて能力を使うことを禁止されたケイゴは頭に血が上っている。その状況で、冷静な判断はできなかった――


「てめえ……俺はいいが、俺を認めてくれたフィトさんは! フィトさんの慧眼までコケにすんのか!? 殺す! 殺してやる!」


 と、ケイゴは激昂してミッシェルに襲い掛かる。それがミッシェルの狙いとも知らずに。

 ミッシェルは襲い掛かってきたケイゴの腹部に拳を叩き込み、背骨を粉砕し。地面に叩きつけられたケイゴの延髄を踏み潰した。


「知らねえよ。それだけフィトに会いてえならあの世で会えよ」


 息絶えたケイゴに向け、ミッシェルは吐き捨てる。

 そうして、ミッシェルは蘭丸とハリスの方に視線を向けた。


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