表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/136

25 病棟3階

 強引に資料室を出て、走り出す。転生病棟のバックヤードを知る者はマリウスだけだったが、蘭丸との戦いに乱入した男は言った。


「ここから進んだ先のドアなら俺でも開けられる」


 タケルたちは戸惑うが、マリウスはその男――ペドロのことを知っていた。彼はマリウスの同僚で、教育係だったのだ。


「なるほどな。ペドロはまだ除名されてねえわけだな」


「時間の問題だがな。幸い、連絡システムが半分くらい死んでいるんだ。可能性はある」


 走りながらペドロは言った。彼も病棟のことは把握していたらしい。

 そんなとき、背後からレーザーが放たれる。タケルは走りながら後ろを見る。やはりレーザーを撃ったのは蘭丸だった。深紅のナース服の上から白衣を羽織った人物は狙いを定めながらレーザーを撃つ。


「狙いが定めにくいわね……というか、ハリスはまだなの!?」


 蘭丸はタケルたちを追いながら言う。が、すぐにハリスがついてきていないことに気づいた。が、すぐに蘭丸の持つ端末に通信が入る。ハリスから、彼の無事と2階で待ち伏せる旨を伝えるものだった。

 一度立ち止まった蘭丸だったが、ハリスのことを確認すると再び走り出す。


 一方のタケルたちはマリウスとペドロを先頭にして走る。バックヤードから出る扉に向かって――

 今、バックヤードに職員はいない。理由はタケルたちの知ったことではないが、これはまたとない好機だった。タケルたちは後ろを向かずに走り抜ける。


 扉の横にはカードリーダーと虹彩の認証装置があった。ペドロはカードキーと自身の虹彩を読み込ませ、開錠した。どうやらまだペドロはセキュリティのシステムからは除名されていなかったらしい。


「いくぞ! 病棟に出たら一直線だ!」


 扉を通る時、マリウスは言った。そうして一行は3階の病棟エリアへ。


 そこは、2階と共通した内装の場所だった。薄緑色の壁や床が貼られ、掲示板には連絡事項が書かれている。病室のドアはすべて閉まっており、患者の姿はない。職員たちはあわただしく働いていたが、タケルたちがバックヤードから現れたことでざわつき始める。

 混乱の始まりだ。


「うまく隙を突いたってわけか」


 と、ミッシェル。


「そのようだこの混乱に乗じて1階まで駆け抜けるぜ」


 マリウスがそう言うと、一行は3階の廊下を走り始める。が、すぐに勇気ある武装看護師が立ちはだかった。武装看護師たちは前回とは異なり、銃火器で武装していた。

 その姿を見るなり、エステルが前に出る。


「私に任せろ。私は化け物だからな」


 そう言うと、エステルは誰の声を聞くこともなく武装看護師たちの中に突っ込んだ。水の槍、杭、針を携え、露払いのように放つ。それと同時に武装看護師たちも発砲する。銃弾はエステルの体を穿つが、彼女より後ろには届かなかった。エステルは水の盾まで作り出していたのだ。

 そうなれば、エステルは反撃に出る。


 武装看護師たちの懐に飛び込み、首をねじ切って捨てる。そうしたことで武装看護師たちに精神的なダメージが入る。化け物に同僚が殺されたことで、一部は発狂する。


「来るな……化け物!!」


 と言って武装看護師は発砲する。銃弾はエステルの体を穿ち、水の壁に阻まれる。有効打は全くといっていいほどない。

 だが、武装看護師のひとりが前に出る。彼女はイデア能力者だった。六角形のイデアを展開した看護師に対して、応戦したのはミッシェルだった。彼女は武装看護師たちの中に突っ込むが、マリウスが声を上げる。


「やめろ! 能力者でもねえのに突っ込むのは自殺行為だ!」


 それでもミッシェルは構わずに突っ込む。

 六角形のビジョンを持ったイデアが光ったとき、ミッシェルが凍り付いた。

 かに見えた。


「効かねえよ、改造人間だから」


 ミッシェルは凍り付いてなどいない。イデア能力をはねのけた彼女は、イデア能力者の首を蹴りで吹っ飛ばした。


 武装看護師たちはパニックになった。恐怖のあまり銃を乱射する者。逃亡を試みる者。タケルたちに降参しようと両手を挙げる者。


「混乱に乗じる、か。ならば……」


 グリフィンはロゼを抱きかかえ、近くの病室のドアを開ける。そうやって中の患者もとい被験者を解放する。


「いける! このまま突っ切るぜ!」


 と、ミッシェルは言う。

 だが、彼女は忘れていた。追いかけてきている敵がいるということを――背後からレーザーが撃たれ、今度はエステルの作り出した水の壁にフラクタルの形が現れる。次の瞬間、水の一部は氷となってタケルたちに襲い掛かる。

 襲い掛かる氷の礫はペドロが術式の演算で対処する。


「ああ、そうだ……! 僕たちは追われているんだ」


 タケルはそう言うと来た方向に向き直った。その視線の先には蘭丸。離れてこそいるが、遠隔でも錬金術を発動できる蘭丸には距離などほとんど関係ない。


「ええ。アンタたちが好き勝手したおかげでね。前代未聞よ」


 冷たい口調で言う蘭丸。直後、蘭丸はタケルに術式を投影し、彼の殺害を試みる。が、タケルはナノースを発動させて術式を無効化した。


「ふうん。一応ナノースを使いこなしてはいるのね。ただの死に損ないじゃないってことでいいのかしら?」


 と言って、蘭丸はもう一度術式を投影しようとする。そのときだ。


「おら、タケル! ここで戦ってる場合じゃねえんだよ!」


 ミッシェルの声。

 タケルははっとしてすぐにその身を翻し、階段方面へ。ナノースを自身の体内に展開し、蘭丸の術式の投影に備えつつ走り出す。


「あくまでも逃げるのね。でも無駄よ。2階にはハリスもいるわ」


 と言って、蘭丸はタケルたちを追う。さらにレーザーを照射する。


 武装看護師は主にエステルとマリウスがなぎ倒す。エステルが拳を振るえば、看護師は即死する。そのときのエステルの表情は曇っている。率先して化け物として敵を斃すが、それは彼女が本心からやりたくないようだった。


 そんな中、階段のすぐ手前でレーザーが照射されてエステルの腹部を貫通した。


「エステル!」


 タケルは叫ぶ。


「構うな! 私は大丈夫だ!」


 レーザーが身体を貫通しても、エステルはひるまずに走る。人間ならば致命傷となるはずだが、エステルは気にする素振りも見せない。


「……混乱を大きくすることが脱出する鍵か」


 階段の前でグリフィンは呟いた。やろうとしていることは被験者を盾にするようなもの。だが、グリフィンは非情な決断も下した。


 そうしてタケルたちは階段を駆け下りて2階に。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ