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24 反乱を始めよう

 タケルたちが資料室で資料を物色していた頃、資料室外の廊下にやって来た者が2人。蘭丸とハリスだった。蘭丸が先導するように歩き、周囲の様子を見回しながら言った。


「本当にやってくれるじゃないの、キイラのやつ」


 蘭丸は未だキイラの暴挙のことを引きずっている。が、蘭丸自身の中では納得できる部分もあった。タケルたち反逆者は一度アイン・ソフ・オウルのひとり――パーシヴァルからカードキーを奪っている。同じことが起きてもすぐにセキュリティを突破されないためにはキイラのしたことも理にかなってはいる。


「全くだぜ。で、また脱走した連中をひっ捕まえたらどうする? 処遇はオレらに任されてんだろ」


 と、ハリスは言う。


「そうね。もしアタシとハリスの攻撃に耐えられたのなら、全員再教育して再利用するわ。アタシほどの逸材ではなくとも、もったいないでしょう?」


 そう言って蘭丸は資料室のかたく閉ざされた扉の前に立った。ハッキングされた形跡もない装置にカードキーをかざし、扉を開けた。


 そうして、タケルたちと蘭丸、ハリスは再び対面する。

 蘭丸はタケルたちを値踏みするように見て、こう言った。


「……No.11、元職員、後天的な『ROSE』だけじゃないわね。再教育予定の戦闘用改造人間、マモニ族、極めつけは『ROSE』ね。実験体や下っ端の分際でよくこんなところに来るじゃない」


「だそうだぜェ。特にナロンチャイ・ジャイデッド。お前はまだチャンスがあっからよォ。生き残ればどうにかなるかもしれねーぜ」


 ハリスが蘭丸に続いてそう言い、不敵な笑みを浮かべる。


 アイン・ソフ・オウルの2人がやって来たことで、資料室の出口は塞がれた。戦って突破することはできるが、2人の能力の全容を理解できていない以上、賢明とはいいきれない。加えて、扉を隔てるか資料室内で戦うということになる。


「そりゃ、俺はもうどうしようもないって言い方だな? 俺はこれからどうなる?」


 マリウスは言う。


「それで揺さぶったつもりなら考えが甘いわ」


 そう言った蘭丸はナノースを発動させ、マリウスの白衣を貫くビームを放った。だが、次の瞬間。本棚の陰からミッシェルが飛び出し、蘭丸に殴りかかる。


「こっちは5人だ! てめえらが見誤ったってことだなァ!」


 蘭丸は一瞬うろたえたが、今度はハリスが前に出る。彼の意図を察したのか、蘭丸はハリスから離れ。ハリスもナノースを発動。高温の水蒸気がハリスの白衣の袖から噴出する。ミッシェルは高温に怯み、のけぞり。


「やるぜ、蘭丸――」


 ハリスが合図を出したそのときだ。蘭丸の方も新たな異変に気付き、対処に入っていた。


「へえ? アンタも反逆するっていうの、ライネス。まさかマリウス・クロルに何か吹き込まれたのかしら?」


 蘭丸はバールを受け止めて言った。

 その視線の先には黒髪で褐色肌の眼鏡をかけた男がいる。転生病棟の検査技師ペドロ・ライネスだった。ペドロは蘭丸から距離を取って言う。


「俺は死にたくありません。理由はそれだけですが」


 ペドロは悪びれもせずに答えた。

 すると、蘭丸は呆れてため息をつき。


「せっかくNo.13の候補だというのに、アンタはその価値を理解していないのね」


 蘭丸は言った。


「命ほど価値があるものはないからね。あの手術、死ぬ可能性も高いと聞く」


 と言って、ペドロは蘭丸に再び攻撃を仕掛ける。バールを振りかぶり、蘭丸の頭を狙った。対する蘭丸は隠し持っていたレンズを取り出し、天井に術式を投影。すると、術式の演算の後、空気中の水分や空気が凍り付き、氷柱となって降り注ぐ。

 ペドロはよけつつ、よけられないものはすべてバールで叩き割る。が、今度は氷の破片に術式が投影される。


「甘いわ。もうペースは握ってんのよ」


 蘭丸が言うと、今度は破片が砕け散り微細な氷の粒子となる。ペドロは直感的に危険を察知し、すぐにマスクをつけた。


 一方の資料室の中には高温の水蒸気が充満し、気温が上がっていった。ハリスたちが来る少し前に目を覚ましていたロゼは暑さでばてつつある。そんな状況で、タケルが言った。


「この部屋を出る! 僕が無効化してもきりがないし、目的は達成した」


「その通りだ。私が道を切り開く」


 タケルの言葉に、最初に応じたのはエステルだった。ハリスから最も遠い位置にいた彼女だが、水蒸気が充満した中でハリスの気配を探る。人間より頑丈で、人間より研ぎ澄まされた感覚を持つ彼女はすぐにハリスに肉薄し。拳を彼の鳩尾に入れる。

 ハリスは吹っ飛び、蘭丸はペドロとの戦闘中。資料室の入り口をふさいでいた者は消えた。


 タケルたちはエステルに続き、資料室から抜け出す。

 先陣を切ったのはミッシェル。続いてタケル、グリフィンとロゼ。しんがりはマリウスとエステル。

 資料室から雪崩のように脱出するタケルたちを見て、ハリスは舌打ちをした。


「クソが。飲まなきゃやってられねえぜ。おい、蘭丸。おい?」


 ハリスが辺りを見回すと、蘭丸はタケルたちを追い始めていた。戦っていたペドロがタケルたちに便乗し、出口を目指し始めたのだ。


「遅いわ、ハリス! 待っていたところでもうそっちに戻ってこないのよ!」


 走りながら叫ぶ蘭丸。ハリスも状況を把握する。が、いらだちと衝動には耐えられず、近くの消毒液を取って口に含み、飲み込む。そうしながら走る。冗談などではなく、本当に飲まなくてはやっていられないのだ。


「へへ……飲んだオレは冴えてるぜェ。ショートカットして待ち構えてやるぜ」


 追いつけないことを悟ったハリスはすぐに立ち止まり、床を見る。転生病棟の床は特殊な合成素材でできている。加えて、病棟の外に出るには当然2階を通らなくてはならない。ハリスは先回りして待ち伏せすることを考え、錬金術で床に穴をあける。そうしてハリスは穴に飛び込み、2階へ。


 2階のバックヤードから、セキュリティを手動で解除して病棟の廊下へ。

 まだ騒ぎは伝わっていないようで、病室やナースステーションをふくめていつも通りの――キイラの暴挙からの復旧を含めた業務が進められていた。

 そんな中で何の事前情報もなく現れたハリスを前にして看護師たちはざわついた。が、ハリスが「静かにしろ」と言うと、看護師たちは黙る。


「おう、非常事態だ。この前鎮圧したクソカスどもがまた脱獄しやがった。デタラメな連中だ。持てる戦力全部を使って事に当たるぜ」


 そうやってハリスは指示を出す。すると、彼の管轄下の看護師たちはそれぞれの配置につく。ハリスはナースステーションから無事な回線で院長に電話をかける。


「こちら2階ナースステーション。反逆者の迎撃態勢に入る。動かせるだけの応援を頼むぜ」


 と、ハリスは言った。


『報告感謝する。今そちらに回せるのはガネットとミュラーくらいだが』


 院長カノンは電話口で尋ねる。


「2人とも頼むぜ。どれだけいても過剰戦力っつーことはねえだろ。こっちもせいぜい死なねえようにするぜ」


 ハリスはそれだけを言って一方的に電話を切った。それだけ事態はひっ迫している。ただの酔っ払いのようでいて、ハリスは状況を冷静に分析していたのだ。


【登場人物紹介】

ペドロ・ライネス

転生病棟の職員でマリウスの教育係だった。世渡りが上手いが実は病棟からすればろくでもないことを考えていた。

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