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23 病棟の核心に

 ローズ・プラントの詰所の隣にはパスワードを入力する装置があった。グリフィンがパスワードを入力するが、どこか起動していないのか扉は開かない。だからグリフィンは扉に彼自身の能力を使った。


「……まあ、セキュリティのために電源を落としていても簡単にできるんだけどね」


 グリフィンは言った。

 タケルたちは濡れた床で足音を立てながら先へと進む。エレベーターもセキュリティの解除装置も止まっている今、階段を上り続けるしかなかった。


「資料はどこから盗むのがいいんだよ」


 ミッシェルは言った。


「3階の資料室だな。俺が病棟を裏切る前、パーシヴァルに聞いたことがある」


 と、マリウスは答えた。


 そうして一行は階段を上る。が、1階に到着する頃にロゼの息が上がり、足を止めた。長く地下牢に監禁され、外に出ることもない。動き回ることもなく、体力がなかったのだろう。


「置いていくかい?」


 早々に疲れたロゼに、無慈悲にもグリフィンはそう言った。だが、マリウスは首を横に振る。


「一度助けた人を見捨てはしない。俺が連れて行こう。ほら」


 と、マリウス。ロゼはこれまでに経験したことのない出来事に戸惑いを見せていた。だがマリウスはしゃがみ、ロゼを受け入れる素振りを見せた。

 そうしてマリウスはロゼを背負う。


「マリウスの背中あったかい」


 マリウスに背負われ、ロゼは言った。


「だってさ、マリウス。その子に好かれているみたいだよ」


「そうかー? 俺だってこの病棟で非道な実験に関わってたんだぜ。好かれるわけないだろ」


 と言ってマリウスは苦笑する。

 だが、ロゼがマリウスになついていることは事実だった。ロゼを見捨てないだけでなく、1人の人間として接していた。それだけでなく、脱出を試みる仲間に対しての姿勢からもマリウスの人柄はにじみ出ていた。


 階段を上り、タケルたちは3階のバックヤードへとたどり着く。これまでに病棟の職員ともそれ以外の人物とも出会うことはなかった。

 3階のバックヤードの一角には資料室がある。情報を盗み出すために一行は周囲を警戒しつつ資料室へと向かった。マリウスに背負われたロゼはいつの間にか眠っていた。


 そうして、タケルたちは資料室の前に辿りついた。

 資料室の扉は電子鍵で施錠されているが、セキュリティもシステムも生きている。ここでミッシェルは、詰所で入手した薄型のセキュリティトークンを作動させる。起動したことでセキュリティトークンは疑似的なカードキーとなる。ミッシェルはそれをカードリーダーに読み込ませた。ほどなくして資料室は開錠される。


「こっちは生きてんのな」


 扉を開けながらミッシェルは言った。


「なるほど、全部のシステムが死んだわけじゃないのか」


 と、タケル。

 振り返ってみればすべてのシステムが停止したわけではない証拠は『ローズ・プラント』にもあった。

 タケルたちは資料室へと足を踏み入れた。


 資料室には様々なファイルが所せましと並べられていた。患者のデータから、この病棟で行われている様々な研究プロジェクトに関連したものまで。すべてのデータではないが、タケルたちの求める情報の多くがここにあった。


 タケルの目についたものは、アイン・ソフ・オウル計画のファイルだった。タケルは操られたかのように、ファイルを開いた。


 ファイルに書かれていたことは、ナノースのこと、錬金術師に移植する計画、その他実験の経過など。ナノースそのものの発想は、異世界へのゲートが開かれてイデアという能力を使う者が増えた頃に出たものだという。発案者はカノン・ジョスパン。転生病棟の院長を務める男だという。

 イデアと錬金術を組み合わせるという試行錯誤の末、ナノースが生み出され、移植される人間もそれなりにいるらしい。転生病棟にはタケルをふくめなければ11人のナノース適合者がおり、全員が幹部や院長クラスということになる。

 だが、ナノースには致命的な欠陥があった。それは移植されれば、病が人の肉体を侵すようにナノースは人の精神を汚染する。


「……そういうことなのか?」


 タケルは呟いた。

 精神の汚染、ナノースと聞いてタケルには思い当たる人物がいた。フィト・ソル。転生病棟で戦い、初めて殺した幹部だ。彼は被虐趣味を持ち、再教育で何かに目覚めたとのことだが――被虐趣味がもし精神汚染の産物だとしたら。

 タケルは寒気がした。


 さらに読み進めると、ナノースの被検体の候補者リストが見つかった。候補者の中にはタケルの本名も記載されている。被検体候補者リスト以外には、移植予定のナノースのリストもあった。


「ナノースはオブジェクトΩに疑似的な術式を書き込み、イデア能力の鍵となるものを掛け合わせた因子。DNAと同じ二重らせんの物質で、DNAとの違いは主成分がオブジェクトΩということ、そもそも大きさが違うということ。DNAからRNAに転写され、翻訳されるようにすればナノースは滞りなく発動できるということ、か」


 タケルは呟いた。


「何かわかったかい?」


 グリフィンは尋ねた。


「わかったよ。使い方もわかったし重大な副作用も。僕がナノースを使うのなら、多分僕がまともでいられる時間もそう長くないと思うんだ」


 タケルは答えた。


「というと?」


「ナノースは精神を汚染する。どんな形でなのかはわからないけど、使うほど精神汚染の作用は強くなる。これは僕の仮説だけど、ナノースがDNAと同じ形をしているのならテロメアに相当するものが短くなるほど精神は汚染されると思ってるよ」


 タケルはさらに答えた。すると、グリフィンは理解したのかしていないのか定かではないような表情を見せた。


 それぞれが気になった情報を集め、タケルたちは資料室の入り口近くに再び集まった。それぞれが大切だと判断した資料を手に持っている。タケルはナノースや錬金術に関連した研究書類。マリウスは大陸政府とのつながりに関する書類と兵器に関連したもの。ミッシェルは『ROSE』の生体発電や資源の枯渇についての書類。エステルはΩ計画概要書。グリフィンはとある人物の手記らしきものを持っていた。


「手分けして探した甲斐があったな。特にΩ計画概要書。恐らく、この病棟全体にかかわることだ。絶対に守り抜きたい」


 マリウスが言った。すると、タケルがこう提案する。


「僕に提案がある。戦闘を担当するメンバーと、情報を持ち出すメンバーで役割を分担しないか?」


 それぞれが見つけた資料を持ち出そうとして戦闘になれば、情報を取り返されかねない。ならば戦えるメンバーは戦いに集中した方がいいだろう。

 そんなタケルの意見には他の4人も納得していた。


「それがいいね。資料の持ち出しは僕がやろう」


 そうしてグリフィンが立候補する。

 戦いを主眼に置かずに汚い手も使う役割ならば彼が適任だろう。

 タケルたちは資料室を出ようとした。だが、資料室のドアは別の者が開けた。



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