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21 まだ見ぬ腐れ外道

 エステルの表情は後悔に満ちていた。それだけ彼女の中では自身のしでかしたことが重大なものだということになっている。

 エステルが尋ね、しばらくは警報だけが鳴り響いていた。が、マリウスがまず口を開く。


「人食いに罪悪感があるならこれから償えばいいんじゃねえか?」


「ロゼ、人を食べることの何が悪いかわかんないし」


 マリウスに続いてロゼが言った。


「人食いの善悪とか是非は置いといて、僕は人食いが有効活用できると思うんだよね。敵を食らえるならより戦力になる」


 グリフィンもそう言った。

 少なくとも今言葉を発せる状況の者はエステルの同行に反対していない。これがタケルたちの答えだった。


「そういうわけだから、エステルも一緒にこの病棟を脱出しよう」


 そう言ってタケルは手を差し伸べる。

 エステルは戸惑いながらもその手を取った。彼女の手に伝わるのは、タケルの体温。魔族とはまた違った感触。


「……人の体温というものは、こんなにも温かいのだな」


 エステルは表情をほころばせ、そう言った。


 タケルたちはそうして外に出る。その前にマリウスは血だまりの中のカードキーを拾い、持ち出した。

 パーシヴァルとキイラの入って来た前室にはモニターやエレベーターの他に職員のものとみられる服と白衣、見取り図があった。


「そういえばマリウスはそういう格好で戦っていたけど、服を着た方がいいんじゃないか?」


 グリフィンはかけられている服と白衣を見るなりそう言った。それもそのはず、マリウスは下着しか身に着けていない。


「まあそうだな。サイズが合えばいいんだが」


 マリウスはかけられた服を手に取り、よく見てみる。病棟の職員の征服の替えのようで、ズボンだけはマリウスにも入りそうだった。上着は入らないようなので、白衣を羽織って誤魔化すことにした。

 エステルも近くにあった遮光スーツという、全身を覆う黒い服を着ることにした。


 タケルたちは近くのエレベーターの前にたどり着き、マリウスがカードキーをかざす。が、反応しない。そもそもカードリーダーが起動していないのだ。


「困ったね。見取り図によると近くに階段もあるみたいだけど」


 グリフィンは言った。

 少し見回して探してみれば、確かにそこに階段はあった。問題はその階段が途中で閉ざされていること。階段を塞ぐ扉を見たグリフィンは、すぐに扉に触れた。


「能力はばれていても、組織としては対策できていなかったみたいだね」


 扉だったものが流れていく様子を見てグリフィンは言う。

 一行を阻むものがなくなった今、タケルたちは上へと進む。

 地下3階から地下2階へ。そこに何があるのか、誰もわからない。それでもエレベーターが使えない以上、進むしかないのだ。


 階段を上った先、タケルたちは想像もしなかった光景を目にすることとなった。

 それは、地下3階よりも広いフロアに広がる円柱の培養槽。培養槽の中には、暗くてよく見えないがロゼに似た少女がいる。それも1つの培養槽に1人といった具合で。


「ロゼがいる」


 ロゼは呟いた。


「噂は本当だったか。パーシヴァルに聞いたんだが、この病棟では赤髪の少女を水槽に入れている場所があるらしい。話半分で聞いていたんだがな」


 ロゼに続いてマリウスも言う。

 そうして、一番近くの培養槽に近づいて中にいる少女を見た。

 少女はやせ細り、幼くして年老いたかのようにしわだらけになっている。しわだらけの少女が閉じ込められた培養槽の液体は霧のように濁っていた。


「そいつ、生きてんのかよ」


 マリウスに担がれたミッシェルは声を出すこともできるようになっており、しわだらけの少女を見て言った。

 すると、ミッシェルの問いかけには予想外の人物が答えた。


「その『ROSE』はもう死んでいる。培養液が白濁したのがその証拠だ」


 タケル、マリウス、ミッシェルにとっては聞きなじみのない声。タケルはその声の方を見た。

 そこにいたのは白衣を着た緑髪の男だった。


「それにしてもなぜ『ROSE』のナンバーゼロがここにいる。地下3階から出ることは許されていないはずだが?」


「少なくともこの病棟のルールではそうだな。だが話が違うぜ。お前はここで何をしている?」


 マリウスは尋ねた。


「はは……ここの職員や患者ならわかるはずだ。何のおかげでこの病棟が成り立っていると思ってるんだ。この『ローズ・プラント』があるおかげだ! この病棟のエネルギーはすべてここで賄われている!」


 勘のいいタケルとマリウス、エステルは何をしているのかを察した。

 培養槽の中で不自然に衰弱して死亡した少女。少女たちはいずれも全身に拘束具とコードをつけられている。さらに、緑髪の男――管理者ブレインの言葉。


「腐れ外道が」


 タケルはそう吐き捨てる。


「そうだね、生かしておけないね」


 グリフィンはつかつかとブレインに近づき、地下3階から持ち出したスレッジハンマーで殴打した。確かな手ごたえとともに、ブレインは即死する。

 グリフィンはすぐにブレインの白衣を漁り、探していたものを見つけた。それはメモ帳とカードキー。特にカードキーは地下から出るために必要なもの。グリフィンはタケルに手渡した。

 カードキーを受け取ると、タケルは言った。


「ここにいるロゼたちは助けられるかな」


「できるなら助けたいところだな。セキュリティを解除してみるか」


 マリウスは言った。

 言うだけならば簡単だが、問題はやってみること。まず、この広い『ローズ・プラント』のどこにセキュリティを司る部分があるのか、タケルたちにはわからなかった。培養槽の下には何もない。触れたところで動かない。


 タケルたちは隅々まで見て回る。

 まず、わかったことは『ローズ・プラント』には職員詰所があるということ。ここには『ローズ・プラント』の管理にまつわるものが集められている。セキュリティもここにあった。


 タケルはセキュリティを司る端末にカードキーを読み込ませる。が、それは意味をなさない。そもそも端末が起動していないのだ。どうやっても起動することはできず、タケルは頭を抱えていた。


「助け出す方法、あるぞ。グリフィンのハンマーで私があの水槽を叩き割る」


 エステルは言った。


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