18 多分ロリコン疑惑で済ませたらダメ
ロゼに「違う」と言ったパーシヴァルはタケルたちに向き直る。
「いくぞ。こういう運命らしい」
とだけ言って、パーシヴァルは再び放電する。といっても、指先からではない。彼は足から放電し、電流の結界を形作り――タケルとマリウスを閉じ込めた。それはまるで鳥籠のよう。
「なんだこれは!?」
「多分、動いたらやられる!」
戸惑うマリウスにタケルは言った。タケルも足元から術式を解析する。錬金術学生だった頃から人体や物体に存在する術式の解析を得意としていた。一度死んで生き返った今も、タケルは術式の解析が得意なことに変わりはない。
だが。
「その通りだ。だからといって動かなければやられないと決まっているわけではない」
パーシヴァルは極力感情を抑えた声でそう言った。直後。パーシヴァルは右手人差し指を前に突き出して放電。電撃はマリウスを直撃し、マリウスは硬直する。
それと同時に、タケルもナノースを発動した。病棟2階で使ったやり方ではなく、パーシヴァルの使ったナノースに対して。タケルが電撃の檻に触れたと思えば、激しい閃光が発生して電撃の檻は消える。パーシヴァルの放電も一瞬だが消える。タケルはそれを見逃さなかった。
タケルはパーシヴァルに突っ込み、フィトにやったようにパーシヴァルの体内の術式から攻撃しようと試みる。タケルがパーシヴァルに触れようとしたときだ。タケルは激しい電流を受けた。
「ぐあっ!?」
「そう簡単に俺に触れられると思ったら大間違いだ」
電撃を受け、熱と痛みにのけぞるタケルを、パーシヴァルは蹴り飛ばした。
タケルは床に転がされる。が、床のタイルの仕掛けを知った今、すぐに立ち上がり、移動する。
それと同時にマリウスもパーシヴァルの方へと向き直った。どうやら硬直は解けたらしい。
「なんだ、マリウス」
パーシヴァルは言った。すると、マリウスは怪獣の姿を半分ほど残した状態で言う。
「お前、よほどロゼに執着してるみてえだな。どういう関係だったんだよ、そのロゼと」
パーシヴァルはそう聞かれ、「うっ」と声を漏らす。
彼に対してロゼとの関係を尋ねた者はこれまでに誰一人としていなかったのだ。少なくともこの病棟には。
パーシヴァルにとってロゼとの関係は話したいことであり、地雷でもあった。それをよりにもよってマリウスに聞かれるとは――
「黙れ」
パーシヴァルは震える声でそう言った。すると、マリウスは別のことを尋ねる。
「錬金術のことはよく知らんが、色々な可能性があるんだろう?」
「黙れ」
マリウスの問いに対し、パーシヴァルは拒絶する素振りを見せた。だが、マリウスは続ける。
「お前が見たロゼはお前の知っているロゼのクローンだとか、な」
「黙れ!!! ロゼのことをこれ以上深堀りするな!!! この裏切者が!!!」
地下牢にパーシヴァルの声が響いた。
マリウスは神妙な顔つきになり、近くでミッシェルたちと戦っていたキイラもどこか心配そうな表情を見せた。
「くそ……お前は軽々しくそう尋ねたな。人生を奪われたことといい、ロゼのことといい……全部どうにもならねえことばかりなんだよ。だから殺す」
と言って、パーシヴァルは再び放電する。今度は電流の鳥籠やタイルを利用した攻撃とは違う。雷のように天井から降り注ぐ電撃。タケルとマリウスはその前兆を見て雷撃を躱す。
「パーシヴァルはこんなに強いのか……」
雷撃を躱しながらタケルは呟いた。
「強いぜ。アイン・ソフ・オウルだからな。不意をつけなきゃ、こうして苦戦することになるぞ」
と、マリウスも言う。
そうして言葉を交わす中、電流はパーシヴァルの体内の術式の形をとった。
名もなきフラクタル図形の形をとった電流から異様なエネルギーが流れ出す。パーシヴァルの本命はこれか――
「そうだな。無知であれば俺たちアイン・ソフ・オウルに対して無力。たとえどんな力を持っていてもな」
パーシヴァルはそう言った。
が、彼には誤算があった。確かにタケルはパーシヴァルのナノースの詳細を知らなかったが、ナノースの解析はできている。ナノースは錬金術師の術式を拡張したもの。ならば、タケルのナノースだって通じるのだ。
タケルはあえて術式の形をとった電流に突っ込んだ。自身のナノースの演算を続けながら。そうして、電流の中でナノースを発動させた。
打ち消される電流。消える術式。
パーシヴァルは今、無防備だ。
「よくやったぞ、タケル!」
マリウスは言った。
体外の術式が消え、丸腰となったパーシヴァル。マリウスは彼に突っ込んで回り込み、羽交い絞めにした。
「くっ……クロル……お前」
「話ならいくらでも聞くぜ。下っ端で裏切者の俺が言うのは違うだろうが、一応同じ検査技師だろ?」
パーシヴァルの耳元でマリウスは囁いた。
「残念だったな。お前に話すことなど何もない。せっかく親しくなれたが、それとこれとは別だ」
パーシヴァルはきっぱりと言った。が、その顔には迷いがあった。恐らく考える時間が必要だろうが、マリウスは無視することにした。
この状況でも、まだ戦いは終わりではない。マリウスが腕をほどけばパーシヴァルは再び2人に牙を剥くだろう。
だからタケルも動いていた。
「ここで和解はできないらしい。やってくれ、タケル」
と、マリウス。
タケルは頷き、パーシヴァルの前へ。
そこでタケルはナノースを発動し、パーシヴァルに触れ。パーシヴァルの体内の術式に対して、アンチとなるものを撃ち込んだ。
するとパーシヴァルは意識を失い、首も手もだらりと垂れ下がった。マリウスは意識を失ったパーシヴァルを床に下ろし。
「パーシヴァルにも考える時間が必要なんだろう。しばらくは放っておくぞ」
いつになく真剣そうな顔でそう言った。
「わかったよ。それで、ミッシェルたちは……」
タケルはそう言って、もう1人の敵の方を見た。
もう1人の敵、キイラは得体のしれない能力を使っていた。それが何なのか、少し見ただけではわからなかった。
「あなたたち、被験者としての価値はあんまりだけど、面白いね」




