17 ロゼとROSE
パーシヴァル・スチュワートとキイラ。この2人を前にしてタケルたちは身構えた。特にパーシヴァルとは一度戦っており、マリウスの機転がなければ間違いなく負けていた相手。
「その反応、まあやっていることからして不自然ではないよね。マンカインドΩも再教育施設のお二人を殺したことからしてね?」
キイラは髪をかき上げながらそう言った。
間違いなく美人と言えるキイラだが、タケルたちから見れば恐ろしくしか映らない。
すると、マリウスが言う。
「やっぱり見ていたらしいな。パーシヴァルも俺と敵対することを選んだってわけか」
「それは……」
動揺するパーシヴァル。
そんな姿と、マリウスとの関係性を見てキイラはニヤニヤしていた。
「これは俺の責任だ。転生病棟幹部アイン・ソフ・オウルとして、やるべきことを放棄するわけにはいかない。お前が病棟を裏切っても、だ」
パーシヴァルは迷いを振り払い、そう言った。
だが、パーシヴァルは再び困惑することとなる。彼の前に、彼が知っている人物が現れたのだ。
「危ないだろう、ロゼ。あまりここから出るのは――」
「ロゼ……!? いや、さっきも思ったがロゼなのか!?」
グリフィンがロゼに声をかけた瞬間、パーシヴァルは言った。
どうやらパーシヴァルとロゼなる人物の間には因縁があるようだ。が、地下牢のロゼはパーシヴァルを見てもきょとんとしている。彼女を一瞬だけ見て、グリフィンは言う。
「彼女はロゼだけど、それがどうかしたかい?」
「そうか。お前たちはロゼを連れ出そうとしていたのか。俺はいずれロゼに会えると言われていたが……」
と言って、パーシヴァルはグリフィンに近づき、ナノースを発動。彼の指先から放電した。狙ったのはグリフィン。
グリフィンは電撃を避けて攻撃に入ろうとするが、すぐに理解した。マンカインドΩも面倒な相手ではあったが、パーシヴァルは錬金術師としての強さと厄介さがある。
「ロゼを外に出すな!」
と言って、パーシヴァルは再び放電。電撃はグリフィンに誘導されたかのように命中。グリフィンは一瞬で気を失った。
その様子を見ていたキイラも歩き出す。かつん、かつんと靴音を響かせてミッシェルに近づいてくる。邪悪な微笑みを崩すことなく。
「さーて、私もこっちのROSEと戦わないとね。知らないと思うけどROSEは1人を示す固有の名前じゃなくて、とあるカテゴリの実験体の総称。燃料用の実験体とホムンクルスがそれに該当するんだよね」
キイラは歩きながらそう言った。すると、ミッシェルも笑い、悪態をつく。
「はっ、それがどうした。あたしがろぜだかなんだか知らねえが、てめえがあたしをどうにかするってんならぶっ殺すまで。ミュラーのクソ野郎みてえにトラウマを植え付けてやろうか」
と言ってミッシェルはマンカインドΩを倒したのと同じように、キイラに突進。彼女の目の前で跳びあがり、回し蹴りを繰り出す。が、キイラはその一撃を片手で受け止めた。
「戦いは本業じゃないけど、やるべき事だから戦ってあげるよ」
キイラはミッシェルにそう言った。
キイラという女には底知れない強さがある。ミッシェルも感じ取っていたが、それはミッシェルが諦める理由にはならない。
「あの世で後悔すんなよ」
ミッシェルは体勢を立て直しながら言った。
グリフィンが気絶し、パーシヴァルの視線はタケルとマリウスに向いた。一度戦ったことのある相手でも、状況が違えば戦いの結果も変わる。だからマリウスは言う。
「一度勝った相手だからって油断するな。俺のあれはほとんどはったりだ」
すると、タケルは頷いた。
「わかった。前回の戦い方が通用しないのは、多分パーシヴァルも同じだ」
2人が声を掛け合った後、パーシヴァルは床に対して放電した。
「まずい! 下からだ!」
細工された地下牢のタイル。電気を通すように作られたタイルを伝って電気が流れ、タケルとマリウスの足元に到達する。タケルとマリウスはその一瞬前に跳びあがり、回避。マリウスはそのタイミングで怪獣の姿となった。からの、着地。電流を感じながらも、マリウスにとって電撃はさほど痛手とはならなかった。
タケルは電気の通っていないであろうタイルの上に着地した。そうして、タケルはナノースを発動してパーシヴァルの懐へ。
「ナノースか」
パーシヴァルは呟く。
直後、彼とタケルの間に白い粉が生成され、電流が流れ――大爆発を起こした。粉塵爆発だ。タケルとマリウスは爆風に吹っ飛ばされた。
「モニターで見たときから考えていた。ロゼに会って確かめなければならなかったのに、あの子供は何だ。俺の知っているロゼじゃない」
爆風にさらされながら、パーシヴァルは呟いた。
彼の視線の先には、赤髪の少女がいた。彼女がロゼ。その顔にはパーシヴァルの知るロゼの面影があった。無邪気で世界を知らなそうな、無垢な少女が。
だからパーシヴァルは彼女に言った。
「ロゼ。俺はロゼにはめられてこうなった。だというのに、転生病棟のロゼはお前で、お前は俺の知っているロゼに似ている。お前は何なんだ……!」
ロゼはパーシヴァルの方を見てほんの少し黙り、言った。
「わかんない」
子供らしい声に、まさに子供というべき知識、口調。再びパーシヴァルは困惑する。
「わからないもなにも、お前がロゼだ。キイラやグリフィンも言っていたというのに、なぜお前はお前のことがわからない? そうだ、俺のことを知っているか?」
困惑を隠せない口調でまくし立てるように話すパーシヴァル。彼自身もどこか混乱してきているようだった。
聞かれた方のロゼもロゼだ。ただの子供である彼女にとって、パーシヴァルの問いは難しい。
「何もわかんないよ……それにおまえのこと、ロゼも知らない」
ロゼは答えた。
「そうか……悪かった。お前は多分、違う」
と言って、パーシヴァルはタケルたちの方へと向き直った。




