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16 怪物を倒しただけでは終わらない

 困惑したのは地下牢の6人だけではなかった。

 モニターを通じて戦いの様子を見ていたキイラも驚きを見せていた。


「言葉を……確かムゥさんは改造される過程で人語を話すことができなくなるって」


 キイラは言った。


「つまりイレギュラーなのか?」


「そう。どうしよう、科学者としては興味深いことだし、私がこれから死ぬ可能性を考えると今すぐにでもムゥさんに報告したい」


 パーシヴァルが尋ねるとキイラは言った。

 その後、彼女は何かを思い出したかのように端末を開いて録画データをモニターから落とす。モニターから取り込んだ動画を、キイラはなれた手つきでムゥに送信した。


「それにしても、どうするんだ。あいつらはマンカインドΩに有効打があるようだが」


 パーシヴァルは尋ねる。


「みたいだね。私たちが突入するのは確定として、この状況はどうしようもないし1人欠けて人手不足なんだよね。増援を呼びたくはあるんだけど」


 と、キイラ。

 彼女の中で死ぬ覚悟は決まっているようだった。

 そんな彼女が、パーシヴァルの目には恐ろしく映る。パーシヴァルの次にアイン・ソフ・オウルとしての経験が浅いキイラでも、その精神はしっかりと染まっていたのだった。


 マンカインドΩが言葉を発したことで、特にタケルの精神が揺らいだ。

 素体となった人間は恐らく無辜の一般人。どんな経緯があるのかはわからないが、自身と同じように人生を奪われた立場。タケルより境遇は酷いだろう。


「大丈夫か、タケル」


 マリウスはタケルに尋ねた。


「わからない。あれは、もともと人間だったんだよね。それが転生病棟で……」


「割り切れ、あれはもう人には戻れない。魂も来世もわからねえが、死なせてやるのがやつのためになる」


 迷いが生じたタケルに対し、マリウスはきっぱりと言った。


 マンカインドΩは人語を発した後、少し間をおいてミッシェルへと突進する。かぎづめを大きく振りかぶり、振り下ろす。ワンパターンな攻撃をかわし、ミッシェルは次の攻撃へとつなげる。蹴りは厳しい。ならば拳。


「ふっ!」


 拳を叩き込む。が、当然蹴りより威力は出ないし、以前からの衰えを感じさせられる。が、以前からの変化はそれだけではなかった。

 ミッシェルの中には、以前は持っていなかったような熱、あるいはエネルギーが込められているようなのだ。ミッシェルは戦闘の中で感じ取っていた。それだけでなく、考えていた。手術がきっかけで体内に生じたエネルギーを利用できないか、と。


 マンカインドΩは再びミッシェルを攻撃しようとしているようにみえた。かと思えば、今度はミッシェルではなくロゼを向いた。

 ロゼはただの少女。戦闘力など持ち合わせていない。ならば襲われてマンカインドΩの餌になるほかはない――


「この……てめえの相手はあたしだ! こっちを向け! おい!」


 と言いながらミッシェルはマンカインドΩを追撃するも、そいつは吸い寄せられるかのようにロゼの方へと向かう。

 ロゼに近づいたときにはそのかぎづめの一撃を繰り出し――地面を鮮血が濡らす。


「ロゼ!!!」


 地下牢の内外で声が響く。

 だが、マンカインドΩによって切り裂かれたのはロゼではない。ロゼとマンカインドΩの間にはタケルが割って入っていた。


「タケル……! 気持ちはわかるがどうして!」


 グリフィンは声を上げる。すると、タケルは言った。


「錬金術で再生されるから大丈夫だ。グリフィンはロゼを頼む」


 タケルは無策でロゼを守ったのではなく、考えがあるようだ。

 グリフィンもそれを察したようで。



「わかったよ。僕じゃ力不足みたいだ」


 そう言うと、グリフィンはロゼの手を引いてその場から離れ、独房に避難する。一方のタケルはすぐにマンカインドΩに触れ、タケルが殺さないと判断した範囲でナノースを発動した。


 が、何も起こらない。生体兵器ということでタケルはマンカインドΩに術式の残滓が残っているものだと踏んでいた。だが、それは間違いだった。一切残っていないのだ、錬金術を使った形跡が。


 戸惑うタケルをよそに、ミッシェルは彼とマンカインドΩの間に割って入る。割って入り、軽くエネルギーをほとばしらせて注意を引く。

 マンカインドΩはミッシェルの方を向く。


「いいか? てめえの相手はあたしだ。あたしだけを見ろ」


 と言って、ミッシェルはマンカインドΩの懐に飛び込み、首を掴み、施錠されたドアに投げつける。

 するとマンカインドΩは声にならないような声を上げた。


「ァ……ア……」


 生体兵器の体がぴくぴくと動く。人間であれば背骨をやられていてもおかしくないだろう。が、ミッシェルはこれで終わりだとは思わなかった。まだこの生体兵器は隠し玉を持っている――


 だが、ミッシェルはやられる前にやることを選んだ。

 体内に存在する謎のエネルギーを四肢に集中させる。結果として身体能力は向上し、一瞬にしてマンカインドΩに肉薄した

 直後、そいつの身体から肋骨のようなものが伸びた。


 ミッシェルはすぐさま躱し、肋骨のようなものから距離を取る。


 そんな彼女と入れ替わるように、マンカインドΩに突っ込んだのはエステル。自身の身体が傷つくのも恐れずに、マンカインドΩをしっかりと見て――


「エステル!?」


 動揺するミッシェルとタケルの声を聴きながらも、2人の方は見なかった。


「この手の相手なら私に任せろ。得意だからな」


 エステルはそれだけを言って、マンカインドΩの肉体に穴をあけた。エステル自身の拳で。


 そこには人間を超えた強さがあった。それでいて美しかった。




 錬金術で身体を修復するタケルは、エステルの戦う姿に見ほれていた。人間を超越した美しさと強さがそこにはあった。血にまみれながらも再生して戦う様子がどうにもタケルを惹きつける。


「おおおっ!」




 エステルがマンカインドΩを投げ飛ばす。

 その先にはミッシェルが。彼女は不敵に笑い、蒼い光を纏った蹴りを繰り出す。

 蹴られたマンカインドΩは青い光を放ち、爆ぜ。生命活動も停止する。


「へへ……やったぜ。この身体にされても戦う方法はある」


 と、ミッシェルは言った。


「そうだな。で……病棟の連中は私たちをそう簡単には出してくれないようだが」


 そう言ったのはエステル。


 彼女の言葉を受け、タケルとミッシェルが出口の方向を見れば――2人の男女の姿があった。

 2人は施錠されたドアを開け、地下牢へと入って来た。


「いやあ、マンカインドΩを倒す程度なら私たちが来て正解かな。ね、パーシヴァルくん」


 茶髪に青のインナーカラーを入れた白衣姿の女に、検査室で戦ったオレンジ髪の男。ただならぬ雰囲気でタケルは2人の正体を察する。


 2人はこの病棟の幹部アイン・ソフ・オウルだ。パーシヴァルだけでなく、白衣の女――キイラも。



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