10 悪魔だった
CANNONSのミッシェルは襲撃者2人を知っている。同じ転生病棟で手術を受け、改造人間となった。だが、その後の運命はほぼ正反対と言って良いだろう。
彼らと対峙するミッシェルは値踏みするように2人を見た。
「何だ? オレらをじろじろ見て。純正のCANNONSが羨ましいってか?」
そう言ったのはギル。
彼の口調はどこかミッシェルをばかにしているかのようだった。
ギルに続いてオフェリアも言う。
「やめてやんなよ、ギル。そこまで言うとミッシェルが可哀想だ。もうそいつはCANNONSじゃなくてただのROSEなんだからさァ。にしても、残念。暴君と言われたミッシェルがこうなっちまうって」
「あ? 知るか、暴君なんざ。てめぇら、そんな顔できるのも今のうちだぜ。何対何だと思ってんだ?」
あざ笑うギルとオフェリアにミッシェルは言い返す。
だが、ミッシェルはまだ気づいていなかった。この場でギルとオフェリアを相手にできる者はミッシェルひとりしかいないことに。
それがわかっていたギルは邪悪な笑みを浮かべて言った。
「おいおい、状況が見えてねえだろ。こっちは2人。お前はひとり。そんでオレらは純正のCANNONS。どう考えてもオレらが有利なんだよなあ?」
「何とでも言えよ。あたしにはてめぇらに見えねえ世界が見えている」
と言うと、ミッシェルは狂気じみた――かつての彼女を思わせる笑みを浮かべ。手始めにギルに突っ込んだ。足に『ROSE』のエネルギーを流し込む。だからスピードに優れたギルの反応をも上回る。
「くそ――」
ギルが焦りを見せた瞬間。ミッシェルの蹴りはわずかではあったがギルをとらえた。
次はオフェリア。オフェリアにも同じスピードで突撃し、蹴りを放つ。が、オフェリアは真正面から攻撃を受け止めた。
そのときのオフェリアはくくくと笑っていた。
「弱くなったねェ。悪魔みたいに強かったミッシェルは腑抜けた。ま、アンタの行いが悪いせいだけど」
と言って、オフェリアは軽くミッシェルを蹴飛ばした。
ミッシェルはそれだけで吹っ飛ばされ、背中から壁にぶつかった。
オフェリアとミッシェル。力の差は明白だった。
「はは、違いねえぜ。避けられなかったが、そいつはもう『ルシファー』じゃねえ。ただの燃料用だ」
わずかに傷を負ったギルも言う。
彼の言葉はミッシェルに届いていた。
背中の痛みを堪えつつ立ち上がるミッシェルの脳内で『ROSE』という言葉が反響する。本当はすぐにでも否定したい。が、ミッシェルは『ROSE』と呼ばれる存在を知ってしまった。彼女とともに転生病棟から脱出した。仲間意識も持ってしまった。
否定するということは、ロゼを否定すること――
「まだやるか?」
ギルは少し間を置いた後、こう言った。
「無理だよねェ。だってもう、ソイツは強かったアレじゃないんだもんねェ」
オフェリアも言う。
対するミッシェルはゆっくりと2人に近づく。
これまでの戦いで勝ってきたときのように、『ROSE』由来のエネルギーを体内に巡らせる。
が、当然2人はミッシェルの好きにさせるわけがなかった。
ギルはミッシェルとの距離を詰め。ミッシェルの腹に拳を放つ。その一撃はさほど重くなく、ミッシェルはよろめくにとどまった。だが――本命はギルではなかった。
ギルの後ろから飛び出すオフェリア。
オフェリアから感じられるとんでもないエネルギー。
次の瞬間。オフェリアはミッシェルに拳をたたき込む。その一撃は大砲のような威力。ミッシェルは再び吹っ飛ばされ。
手術を受け、弱体化する前はこんなことはなかった。
おぼろげな記憶でも、アイン・ソフ・オウルのとある人物を殺す一歩手前までいった。本当ならばCANNONSごときに負けるはずがない。
歯がゆい。
「最強だったアンタを見せてよ? 無理だと思うけど」
オフェリアは挑発する。
壁とベッドの間で、ミッシェルはオフェリアの言葉を聞いていた。
ミッシェルはぐっと拳を握りしめる。その表情には怒りを通り越した何かがにじみ出ていた。まるでかつての彼女が戻ってきたかのように。
不思議と痛みも引いてきたようだ。
ミッシェルは立ち上がる。
「はは……言われなくともやってやるよ、バーカ」
ミッシェルは言った。
再びミッシェルは全身のエネルギーの流れを意識する。からの、突撃。蹴り、からの拳。オフェリアは受け止めるが、ミッシェルの攻撃はブラフ。本命は次だ――
「おらあ! 望み通り見せてやるよ!」
ミッシェル、渾身の一撃。
だが、オフェリアはそれをいとも簡単に弾き飛ばす。ミッシェルのパワーにオフェリアのパワーを上乗せして。
再びミッシェルは吹っ飛ばされる。
それを見逃さなかったのはギルだ。ギルはミッシェルが吹っ飛ばされた先を見抜いていたかのようにその位置に移動し、隠し持っていた鉤爪でミッシェルの腹部を突き刺した。
「……!?」
鉤爪はミッシェルの腹部を貫通している。
もう勝負はついたようなものだ。そうでなくともミッシェルには打開策が浮かばない。たとえ虚勢を張ろうとも。
このとき、はじめてミッシェルの脳裏に死がちらついた。




