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6 暗黒の未来でⅢ

 ――会長。あなたがシオン元会長のようにしなかったからこうなった。


 眼前に広がるのは荒廃した町。これでも数ヶ月前までは大陸の七大都市ともいわれる規模だった。

 ここはテンプルズの町。錬金術の研究で栄え、鮮血の夜明団の支部だって置かれていた。摩天楼の建ち並ぶ姿は、特に大陸南部の住民たちの憧れの地。そのはずだった。


 すべては鮮血の夜明団の解散が引き金となった。いや、それ以前のことかもしれない。

 今のこの町、この大陸に支配者あるいは秩序を保つ者はいない。ゆえに人々は奪い、殺し、破壊し。理性など消え失せ、欲望と暴力、怨嗟のままに生きていた。


 そんな時代にニッテは生きていた。とある有力な錬金術師の助手として。


「うわあ、今日もひどいね。南東のシェルターが爆破されたって」


 その錬金術師リルトは雨の降り続く山奥の拠点で呟いた。

 ある遺伝子を取り込まされていたリルトは、年齢以上に若々しい外見をしている。


「もう慣れたよ。結局どうなっても争う運命は変わらないんだから」


 と、ニッテは言う。


 今の彼女はどこかやさぐれた印象を与えていた。

 それも無理はないだろう。ここ数十年、大陸の支配者は何度も変わったし、そのたびに多くの血が流れた。ニッテもその様子を見てきた。


 かつて存在した大陸政府はロナルドの手によって帝国と姿を変えた。だが、その帝国はわずか125日で崩壊し、(Thousand)時間(Hours)帝国(Empire)とも呼ばれることとなる。

 帝国を崩壊させたのは不死の錬金術師アノニマスの主導するΩ計画。彼らは大陸全土に蔦のように勢力を伸ばし、その技術力を以てして支配体制を築こうとした。それも長くは続かない。

 次に台頭したのはレムリア大陸の外――南東の島パシフィスの独立勢力だった。彼らはΩ計画に宣戦布告し、未知の技術で大陸全土を戦火に巻き込んだ。そうして一時期はΩ計画に取って代わろうとした。

 それでも独立勢力は大陸全土を掌握できなかった。Ω計画の残党は大陸を支配する企業集団――九頭竜をたきつけて潰し合わせた。大きな影響力を持った2勢力は思惑通り潰し合うこととなり、ほぼ同時に崩壊した。彼らの――とりわけ独立勢力の残党は攻撃的で、ゲリラ的に活動する武装集団と成り果てた。

 そうして残されたのは鮮血の夜明団とΩ計画。争いの仲裁を試みた鮮血の夜明団も恨みを買ったことで解散を余儀なくされ、Ω計画は被検体の反乱で完全崩壊した。そのとき、とある青年が意味深長なことを言っていたことは、一部の人の記憶に深く刻まれている。

 残されたのはそれぞれの勢力の残党と支配されていた者たちが繰り広げる終わりなき争い。


 ニッテはどこか諦めたような表情を見せる。

 どうせこの世界に希望など残されていないのだと。


 だが、リルトはそう考えているわけではないようだった。


「どうかな。Ω計画の2代目ボスから回収した因子がね、かなり特殊だったんだ。どうやら2代目は時間を操ることができたらしい」


 リルトはそう言って、厳重に封鎖された棚に近づき。棚の扉を開けた。


【カノン Time-時間-】


 小瓶のラベルにはそう書かれていた。

 リルトは小瓶を手に取り、ニッテに見せた。


 それはやや黄色く変色した透明な液体だった。


「何、それ。こんな液体がどうなるわけ?」


「これはナノースって言われていた因子。人に移植する代物なんだけどさ、移植方法がわからない。移植できそうな人ももういない。だからね、この因子を使ったものを作ってみた。過去に飛んで、この最悪な時代を起きないようにする代物をね」


 と言って、リルトはいたずらっぽく微笑んだ。


「それってタイムマシンに使うってこと? 理論も存在しなかったはずなのに」


 ニッテは聞き返す。


「そういうこと。面白いでしょ? タイムマシンの理論はΩ計画の拠点から取って来れたし」


「よくわからないけどさ。過去に戻れる、ね。確かに面白そう」


 ニッテはそう言って久々に笑顔を見せた。


「ところでニッテは何年生まれだっけ?」


 と、リルト。


「N2027年……だけど何か関係ある?」


「約束の日には存在していないことになるね。それならニッテを安心して過去に送り出せる」


 ニッテが答えるとリルトは言った。

 リルトの言葉が何を意味しているか、ニッテはよく理解できていなかった。


 そうしてリルトがニッテを過去に送り出す準備を進める中。とある大災害が起きることとなった。


 長雨が40日ほど続いた後だろうか。大洪水が起きた。

 それはまるで世界の罪をすべて洗い流すかのよう。拠点からは、かつてΩ計画の本部だった城が水に沈んでゆく様が見えた。


「……世界の終わりだ」


 リルトは流される城を見てそう言った。

 薄々感じていたのだろう。40日も続く長雨はどう考えても普通ではないと。


「情報をあまり取り入れないでいたけど、やっぱり世界中で混乱が起きているんだ。最初は砂漠でも恵みの雨だとされていた長雨でも続けば災害。しかも世界規模……」


 リルトは続けた。


「どうすんだよ……オレたち、助かるよね?」


 ニッテが尋ねても、リルトは答えない。答えられない。

 この止む気配もない長雨の中で、リルトはいつ雨が止むとも予想を立てられなかった。


「答えてくれよ、リルト! オレ、リルトがいないと」

「早いけど、ニッテ。あなたを過去に送る。過去に行けば、少なくとも大洪水に巻き込まれて死ぬことはないんだ」


 リルトは言葉を絞り出す。

 それが意味するのは、リルトの拠点も安全ではないということ。


 リルトはニッテとともに実験室へと向かい。

 2人はタイムマシン・リバース25の前に立った。


 リバース25は、何かの装置につながれた培養槽だった。その先には金色のガスを放つ謎の塊があり、培養槽の中は空。だが、その横には液体を入れているであろうタンクが設置されていた。

 一目見ただけで異様だった。


「大丈夫。未来が変わればなんとかなる」


 ニッテはリバース25の培養槽部分に入り。リルトは迷うことなくリバース25の起動ボタンを押した。

 装置は音を立てて動き出し、タンクから培養槽へと液体が流れ込む。液体が顔の高さを上回った辺りでニッテは意識を手放した。


 そうして――次に目を覚ましたとき。

 ニッテはN2011年のディレインの町にいた。


「身よりのない子供を助けるのはぼくたちの仕事だからね」


 ニッテに手を差し伸べたのは金髪を長く伸ばした、中性的な細身の男だった。

〔この未来での勢力について〕

大陸政府

大総統/皇帝:ロナルド・グローリーハンマー

正当な大陸政府を名乗る。法や軍事的な力で他勢力を押さえ込み、九頭竜とは癒着していた。


Ω計画

総帥/理事長:アノニマス→カノン

楽園を作るために活動する錬金術師を中心とした組織。高い技術力を持つ。水面下で大陸全土に浸透するも内部からの反乱を経験している。


独立勢力/パシフィス自由国

議長:アリッサ・ハルフォード

大陸からの独立を目指すレムリア大陸南東の島の勢力。異質な技術を持ち、元から大陸政府と敵対していた。


九頭竜

大陸を経済的に支配する9つの企業の連合。大陸政府と癒着している。


鮮血の夜明団

会長:平沼桐彦

異常性とそれにより引き起こされる事件に対処する組織。前会長シオンの死後、平沼が新しく会長になった。しかし、シオンとは違って弱腰な姿勢だったという。

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