5 ニッテの話
ここはパロ支部の応接室。
無骨な外装でも、応接室の内装はそこそこにこぎれいだった。
応接室に集うのはエステルを含めたタケル一行とニッテ、それからラリ。いわゆる話のわかる2人だった。
「うちの馬鹿どもがやらかしてくれたことはこの場でも謝罪しておくよ。監督不行届ですまなかった。そんで、ようこそパロ支部へ。やっぱり他と比べて寒いだろう、うちは」
ニッテは言った。
「とても寒いですね。あまり寒さには慣れていなくて」
と、タケル。
「ま、そう長居するわけじゃないって聞いてる。本題に入ろう。最近の情勢を見ているとね、これからの世界の鍵を握る人が分かってきた」
「鍵を握る人?」
ニッテに聞き返したのはミッシェル。
「そ。この時代、この大陸ではいくつかの大きな勢力が動いてる。まずは大陸政府。大総統が暗殺されかけて、なんかやってる。それから九頭竜。経営陣が殺されたってニュースがあってた支配者たち」
ニッテは言った。
「あいつらか……」
口を挟んだのはマリウス。彼もそのニュース自体は聞いており、難しい表情を見せる。
そんなマリウスの様子を見つつもニッテは続けた。
「あとはオレたち鮮血の夜明団に、今君たちが注目してるΩ計画。それともうひとつ……レムリア大陸の南東、そこそこ大きな島の独立勢力。何をしようとしているかはわからないけど、暗部の情報によると大陸政府との関係は良くないみたいだ」
「そんなすげえ時代を俺たちは生きてるってわけか。不謹慎だが笑えるな」
と、マリウス。
「オレ的にはなかなかきっつい状況だけどさ。で、5つの勢力は現状ではほぼ敵対してる。今の状況だと最悪、全勢力が潰れる。どうなると思う?」
「そうなるにしたって別の勢力が出てくんだろ」
ニッテの問いに即答したのはミッシェル。他のメンバーもそれにある程度は賛同しているようだったが。
「半分は正解だ。ただし、その勢力はまともじゃない。ならず者だとかがのさばって、法も秩序も倫理もクソもない世界になる。オレはそう結論づけた」
ニッテは答えた。
すると、応接室内がざわついた。
特に様子が変わったのはタケルとミッシェル。2人とも未来を知っており、その未来を変えようとしているのだから無理もないのかもしれない。
その様子を見てニッテはさらに言う。
「君たちが未来から来た人間の言葉を信じたって事実を踏まえて話すよ。ラリはちょっと黙っててくれ。……オレは未来から来た。まあ想像もつくだろうが、さっき挙げた5つの勢力が全部倒れて秩序のなくなった世界だ」
この場にいた誰もが一瞬黙るが。
「おいおい……まるで未来人のバーゲンセールじゃねえか」
その沈黙を破ったのはマリウスだった。
カノンの能力により何度もやり直し、その記憶を持っているタケル。
タケルとは別の未来から来たらしいグリフィン。
大陸政府が帝国を作り上げた未来、その30年後からやってきたパーシヴァル。
大洪水が起きた未来からその運命をねじ曲げるべくやってきたミッシェル。
時間遡行の能力を持ち、他ならぬ元凶となったカノン。
そして自らの素性を明かしたニッテ。
未来人たちはそれぞれ異なる未来からやってきた。彼らが経験したのは可能性だ。誰を討つか、どの勢力を潰すかで分岐する不確定な未来。
「そうだね、マリウス。僕が言うことじゃないけど未来人は多いと思ったよ」
と、タケル。
「支部長の知っている未来について詳しく聞かせてくれないだろうか」
そう尋ねたのはスティーグ。
「オレの知っている未来? さっき言った通りだけど、オレが来る前に大洪水が起きた。オレはその最中に過去に戻ったからわからないけど、規模が違うってことはわかった。あとは……最後まで残ったのは鮮血の夜明団。それでも、外部の人間……後ろめたいことがある人間からかなり反発されてね。当時の会長が殺されて結局解散することになった」
ニッテは語る。
「とんでもない未来だな……どう行動すれば絶望的な未来は回避できるんだ」
スティーグは言った。
「鮮血の夜明団が解散しないこと。Ω計画が完遂されないこと。大陸政府の力をそいでおくこと。それから……タケル。君が生き残ること」
と言って、ニッテはタケルを見た。
そのタケルはまさか自分が鍵を握っているとは思わず、戸惑いを見せる。が、ニッテには確固たる自信があるようだった。
「僕?」
タケルは聞き返した。
「そう。君は特異点だと思う。まだ確証は持てないけれど。
さて、情報共有もいいけれど君たちが来た目的はそれだけじゃないはずだ。この土地になぜかある研究所。それも目当てなんだろう?」
話が長くなりそうだと判断したのか、ニッテは話題を変える。
「話が伝わっていたようで何よりだ。あの施設もΩ計画のものらしいからな」
そう言ったのはマリウス。
「転生病棟が崩壊した後、連中はおそらく北に目を付けた。叩くなら今だ」




