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4 処遇

 投獄されたのはエステルだけではなかった。

 タケルもまた、鉄格子つきの窓のある独房に閉じ込められていた。


 こうなったのはボディチェックの後の尋問が理由。

 タケルはすでに、普通の人間ではない。ボディチェックに引っかかり、別室に連れて行かれた後に尋問を受けることとなったのだが。このとき、尋問を担当した男はエステルについて言及した。

 それに対する返答が悪かった。


「エステルは違う!」


 タケルの思わず放った言葉に男は眉根を寄せ。


「貴様、魔族を庇うのか! ならば貴様も同罪だ!」


 タケルの投獄も確定し、エステルとは別の独房に放り込まれた。


 独房には外からの隙間風が入り込み、タケルは感じたことのない寒さで震えていた。鮮血の夜明団の本部で感じた寒さとも別物だった。

 だが、囚人服を着せられているだけまだましだった。


 床に座り、膝を抱えてうつむく。やることは寝るか考え事をするか。間違っても錬金術で独房を破壊して脱獄などしてはならない。


「場所が悪かったかな……時代が変わってきたにしても、このパロという土地は……」


 タケルは呟いた。


 そうしているうちに、タケルの耳にかつかつという足音が入る。どうやらその足音は1人のものではないようだ。


「全く、連絡のあった来客を投獄するなんて何やってるんだか……」


 さらに耳に入る女の声。

 彼女は一体――


 鉄格子の扉から見える範囲に、2人の男女がやってきた。その様子から赤毛の女の方が立場が上に見える。


「うちの守衛たちがすまないね。オレの権限で君たちを出してあげられるから。あ、オレはニッテ・ユーティライネン。ここ、パロの支部長だ。君のことはマリウスから聞いている」


 ニッテはそう言うと、光り輝く鍵を取りだして独房の鍵を開ける。そうしてタケルを解放した。

 彼女の隣にいた男は彼女に反対する様子こそ見せなかったが、どうもタケルに対して不信感を抱いているようだ。


「ありがとう……ございます」


 タケルはそれだけを言った。

 本当はエステルの安否も気になるが、投獄された経緯が経緯なだけに口に出すこともできなかった。


 だが、ニッテの隣にいた男は言った。


「それで、支部長。あの異質な魔族はどうしますか? 解放してしまえば混乱を招くのでは?」


「いいよ。オレの権限で解放するんだし、もっと上からも大丈夫だとは聞いている。責任はオレと会長が取る。というか、一応、名目としてはあんたたちの実験体として解放ってことだろ?」


 ニッテは答えた。


「だそうだ。魔族……エステルも解放する。お前の心配は杞憂に終わりそうだぞ」


 と、ニッテの隣の男は言った。


「それはどうと、あんたも名乗りな?」


「失礼した。ラリ・スヴェンソンという。これでも錬金術師で研究者。魔族の肉体について研究している。が、名目上はさておき実際にエステルをどうこうするつもりはない」


 ラリは名乗った。

 屈強で強面な外見に似合わず彼はタケルの同業者らしい。


「人は見た目によらないだろう?」


 ニッテが口を挟む。


「いえ、そんなことはありません。鮮血の夜明団にはその手の人はよくいると聞きました」


 タケルは独房を出ながら言った。


「お、嬉しいねえ。ただ、エステルをどうこうするつもりはないと言ったがそれはあくまで侵襲のある手段での話。侵襲のない手段ではデータを取りたいと思ってな。後でエステル本人に聞くつもりだ」


 ラリは言った。


 タケル、ニッテ、ラリは牢の通路を進み、最奥部の独房の前にたどり着いた。


 そこはおおよそ人間が投獄されるような場所ではなかった。

 鉄格子から見える独房の内部には、壁から吊られた手枷がある。エステルは手枷と鎖で拘束されていた。


 見ればわかった。

 ここは生け捕りにした魔族を捕らえておく場所だ。


「エステル……ひどい……出してくれるとはいえ……」


 タケルは思わず言葉をこぼす。


「それについてはすまないと思ってるよ」


 と、ニッテは言った。

 彼女はタケルを解放したときとは異なる鍵を取り出し、解錠。扉を開ける。


「さて、タケルくん。一緒に来るといい」


 ニッテに呼ばれ、タケルは彼女とともに独房の中へ。


 間近で見てみれば思った以上にひどい状況だ。

 その再生力ゆえに肉体には傷はない。だが、拘束のされ方は人間扱いされていないに等しい。ここで何が行われたのだろう――?


「エステル! 僕だ! 一緒にここを出よう!」


 タケルはエステルに駆け寄り、言った。


「……ここを出る、か。私は魔族。移送される形で出るまで私はここにいた方がいいだろう。お前の気持ちは嬉しいが」


 意外にもエステルはタケルの誘いを拒んだ。

 彼女は何かを恐れているようだった。


 そんなエステルに声をかける者がもうひとり。


「あー……ここを出すというのはだな、解放の意味もあるが何より戦闘データの収集のためだ。ここはデータを提供するために頼まれてくれないか?」


 ラリだった。


「戦闘データだと? そんなものが何の役に立つのだ」


 と、エステル。


「解放する名も……魔族との戦いの役に立つはずだ。人間に敵意を示さない魔族ならどうかというデータも珍しいからな。なによりお前は希少価値が高い」


「そういうことか。お前たちの意図は読めんが……」


 ここでエステルとタケルの目が合った。


「行くよ、タケルと一緒に」


 何を思ったかエステルはそう言った。


「改めて、うちの戦闘員たちがああで申し訳ない」


 牢を出て応接室へ向かう道中、ニッテは言った。


「わかってる。何年も魔族と戦っているのなら、この対応も仕方が無い」


 と、エステルは言う。

【登場人物紹介】

ニッテ・ユーティライネン

鮮血の夜明団パロ支部の支部長。男装し、一人称はオレ。魔族が絡んでも柔軟な考えを持つ。


ラリ・スヴェンソン

鮮血の夜明団パロ支部所属の錬金術師。魔族について研究している。異質な魔族であるエステルに興味を持つ。

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