斃れる支配者
かつかつ、とビルの廊下に足音が響く。
高いヒールを履いた女はとあるドアの前に立ち。ドアをノックする。
「入りなさい」
ドアの向こう側にいる女は答えた。
「失礼いたします」
歩いてきた女――ブルームーングループ子会社の社長はドアを開けて部屋の中に入る。
部屋で待ち受けていたのは、金髪でドレスを着た女。彼女がブルームーングループのCEO、エリザベスだった。
「このきな臭い情勢の中、よくも護衛なしでここまで来られたじゃない。あんたほどの度胸があれば確かにムーンジャジメントの業績は上げられるって事なのね。命を危険にさらすことには同意できないけれど」
エリザベスは言った。
彼女が経営するブルームーングループは、レムリア大陸を支配する9つの企業――九頭竜の一角。様々な分野で事業を進め、今や大陸政府の人間さえも黙らせることができる。大陸の真の支配者のひとり、それがエリザベス・ブルームーンだ。
「いいじゃないですか。それが面白みというやつです。たかが子会社の社長、グループ全体の生殺与奪を握っているわけではありません! ……今この瞬間を除いて」
子会社の社長がそう言った瞬間。
エリザベスの頭は爆弾のように爆発。脳漿、頭蓋、血液、眼球その他首から上を構成するものすべてが飛び散った。
その直後だ。エリザベスの全身が爆弾のように爆発したのは。
「ふふふふふ! 酔い爆発。とても不謹慎で面白い花火です! エリザベス社長はダイナマイトボディですが、その肉体が本当に爆発するとは思ってもみなかったでしょう!」
爆発の様子を見て子会社の社長――否、ラオディケは言った。
「ちなみに子会社の社長も爆殺しておきました。お花摘みの途中で! 私、抜かりないので」
と言いながら、遺体を適当に観葉植物へと作り替え。証拠を隠滅する。有機体から有機体を作ることなどラオディケ程度の実力をもってすればたやすいことだ。
「さて。ブルームーンの子会社社長何人かとCEO、その他役員を殺しました。特にロビー活動が鬱陶しい連中。ヴァンサンたちはうまくやってますかねえ?」
そう言って、ラオディケは高層ビルの窓から飛び降りた。
事件は総会のときに起きた。
株主のひとりが狂ったように暴れ始め、その正体を現してその場にいた者たちを殺し始めたのだ。
「誰か! 警備員を呼べ!」
「駄目だ、ここから出られ――」
声を上げた者から殺される。
正体を現した株主――ヴァンサンは近くにいた者、声を上げた者を手当たり次第殺す。
「さっきから聞いてみれば経費削減のために給金を削るとか、馬鹿みたいだよねえ」
そう言うと、ヴァンサンは専務に手を付ける。首を落とす。
「くそ! なんで武器の持ち込みを禁止したんだよ!」
「待て……俺は素手でも……」
今度は株主ひとりと子会社社長が死んだ。
阿鼻叫喚だった。少しでも動きがあるたびに株主や役員たちの首が飛ぶ。肉体が真っ二つに切り裂かれる。床が血に染まる。
「僕はね、利益のために人から搾取する連中なんて大嫌いなんだよ」
そう言う間にも何人か殺している。
床にできた血だまりもヴァンサンの武器となる。それらは剣となり、鎌となり、銃となり、砲となり。
残されたのはヴァンサンと子会社の役員1人だけになった。
「ひっ……どうか……」
役員はヴァンサンを見ておびえるような口調で言った。
「ひとしきりやったからねえ。いいよ。君だけは見逃してあげる」
ヴァンサンはそう言い、ドアを開けた。
役員は逃げるように出て行くのだが、彼はまだ知らなかった。1人だけ殺されなかったことで今回の惨劇の主犯に仕立て上げられることに。
ヴァンサンもやることをやってその場を去った。
人気の無い路地裏で携帯端末を取り出し、電話をかける。
「ムゥかい? 僕の担当は終わったよ。そうかい。安心した。さすがムゥだよ」




