表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
克法ロジックパラドックス -世界を変える簡単な方法-  作者: 墨崎游弥
反逆者、倉庫にて【施設破壊編】Side:パーシヴァル
126/137

16 わたしのなまえは

「結果的に第2倉庫も破壊できた。次は……」


 パーシヴァルは呟いた。


 一行が飛行艇で倉庫から飛び立って1時間ほど。

 ペドロは東海岸のどこかを目指していたはずだが――


「北だよな。その前にあの子をどこかに預けたい。できれば大陸の東側。とはいえ南東まで行くのはきついな」


 ペドロは言った。


「だとすればマルクト支部がいいだろう。あそこの支部長とは知り合いだ。なによりよく分からない人も受入れてくれるだろう。変わった人だが信頼はできる」


 そう言ったのは零。

 マルクト支部など、無関係だったパーシヴァルやペドロは聞いたこともなかった。


「凄いな、あんたの人脈」


 と、パーシヴァル。


「いや、それほどでもない」


 飛行艇は進路を南へと変えた。

 窓から見えるのは東海岸の景色と青い海。遠くに見える海の果てには黒い雲が壁のように立ちこめている。あれがいわゆる世界の果てというやつだ。あの外には何があるのだろう――?


 数時間後、飛行艇はマルクト支部付近の上空にまでやってきた。


 零は操縦席の隣に行き、通信機を取る。相手は当然マルクト支部の人間。零は通信機を起動して発信する。


 つながった。

 零は通信機越しに話す。


「マルクト支部か? 俺だ、鮮血の夜明団本部所属の織部零だ」


『ああ、こちらマルクト支部。支部長の神条ジダン。例の少女のことか。飛行艇の着陸許可は出ている。発着場に降りてもらって構わない。詳しいことは到着してから話そうか』


 応答したのはジダン。

 飛行中にもやりとりをしたが、彼がすべての権限を持っていたからかすべて順調に進んだ。一行はこのままマルクト支部に降り立つことになっていた。


「感謝する。相当訳ありなようで、言葉もよくわからないらしい。託せるのはお前だけだ」


 と、零は言う。


『はっはっは、大げさだな。俺は俺にできることをしているにすぎん! 待っているぜ!』


 そうして、一行とマルクト支部をつないでいた通信が切れる。


「マルクト支部の発着場に着陸していいそうだ。大丈夫、支部長は見た目いかつくても話のわかる人だ」


 零はペドロに言う。


「そうか。マニュアル通りに降りるが、かなり荒っぽくなるだろう。捕まってろよ」


 ペドロはそう答え、操縦桿を動かし。

 飛行艇は高度を下げる。


 ペドロが荒っぽいながらもうまくやったからか、無事に飛行艇は着陸した。とはいえ、乗っていた面々が無傷というわけではない。パーシヴァルと零は飛行艇の揺れで酔い、顔色が悪い。ロゼは揺れで頭をぶつけていた。


 一行が飛行艇を降りると、そこではジダンとその仲間が待ち受けていた。


「ちゃんと来てくれたようで何よりだ! 危なっかしいところもあったが、無事そう……無事そう……」


 ジダンはパーシヴァルたちの様子を見て言葉を切った。

 乗り物酔いをした一行に無事と言うべきか迷っているのだろう。加えて操縦していたはずのペドロも顔色が悪い――これは失血が原因だが。


「ああ。なんとか。ところで彼女のことだが……」


 と言って、零はロゼではない赤髪の少女とともにジダンの前に出る。


 ジダンは彼女が件の少女だと察し、彼女と目線を合わせて口を開く。


「お嬢ちゃん、名前は何かな?」


 聞かれた少女は言葉を理解できているのか理解できていないのか。ただ首をかしげ。


「おじょ……うちゃん?」


 と聞き返すだけ。


「な ま え、だ。俺は、ジダン」


「じだん」


 とだけ、ジダンを指して言う少女。


「なるほどな……言葉の理解も十分じゃない、自分が何なのかもわかってねえ。そんな子を危険なところには連れて行けないよなあ」


 ジダンは立ち上がりながらそう言った。

 その傍ら、少女は嬉しそうな顔で覚えたての言葉を繰り返す。


「じだん! じだん!」


 どうやら彼女はジダンにたいそう懐いているようだ。


「この子については俺に任せてくれ。この様子だ、マルクト支部にいた方が良い!」


 と、ジダンは言った。


「頼む。ロゼもそうかもしれないが、彼女にこれからの旅は過酷すぎる」


 零は言う。


 だが、その後ろでロゼはふくれていた。


「……ロゼもできるもん。れんきんじゅつ、つかえるようになったもん。ね、にいに!」


「そうだな」


 ロゼが言っても、パーシヴァルは否定しなかった。ここにも2人の信頼があった。


「任されたぞ! 出自についてはあえて深掘りしないでおくぞ」


 ジダンはそうやって赤髪の少女を引き受ける。


 パーシヴァルたちも1日ほどマルクト支部に滞在し、翌日にマルクト支部を発った。


 彼らを見送るジダンと赤髪の名も無き少女。


「そういえば君には名前がなかったな……」


 ジダンは視線を飛行艇から赤髪の少女に移すと言った。


「なまえ?」


「君が何者かを表すもの。そうだな、君は……小春」


「こはる?」


 赤髪の少女は聞き返す。


「そう、小春。そう名乗るといい」


 少女――小春が理解しているかどうかはわからない。だが、ジダンは理解してもらうためならば全力を尽くす。そういう男なのだ。


 神条小春。その名前は、ジダンの親友にして義兄弟である人物からとったものだった。

【登場人物紹介】

神条ジダン

レムリア7th『ダンピールは血の味の記憶を持つか』に登場。

マルクト支部の支部長。大胆で暑苦しいが、頭が良いし周りをよく見ている。小春の育ての父親となる。


神条小春

倉庫で助けられた赤髪の少女。言葉もよく理解できていないが……?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ