15 魔の倉庫を爆破せよ
ペドロから見てみれば、パーシヴァルはうまくやっている。無限の弾丸もそのバリアで受け止め、ペドロや零、ロゼたちに被害が及ぶことはない。
「ペドロ! 来たぞ、遅くなってすまない」
呼ばれていた零はペドロに駆け寄った。
ペドロは先ほどよりも回復している。痛みと傷と失血に耐えながら肉体を再生させていたのだ。失血のせいで顔色は悪いが。
「来たか。今から術式を渡す。パーシヴァルと合流する前に記録しておいた術式だ」
ペドロは言った。
「術式? 俺に一体何をするんだ」
「だから、術式を渡してあんたを一時的に錬金術師にする。説明する暇はないが、俺のナノースだからできることだ」
零が尋ねるとペドロは答えた。
「わかった」
零は答える。
理解できないことであっても、ペドロの提案に乗ることは現状を打開することに必要だ。
「制限時間は写真が色あせるまで。もしくは写真が燃やされる、破られるまで。表面的なことしかわからないが、錬金術を扱うことに問題はないはずだ。俺やパーシヴァルがやっていたようにすれば多分なんとかなるはずだ」
と言いながら、ペドロはナノースで小さな紙切れらしきものを作りだし。零の首筋に貼り付けた。
瞬間、零の脳内にとんでもない情報量の何かが流れ込んできた。
「くっ……!? なんだ……これは……!? 経験したこともねえくらい……」
零はつぶやき、頭を抱えた。
これは自身の記憶ではない。視点はとある男。錬金術アカデミーに通っていた記憶。何者かからスカウトされ、Ω計画の関係者となった記憶。Ω計画でスクリーニングを受けてその段階で不適応とされた記憶。天文台、教会、工場、倉庫と所属を転々とした記憶。
その記憶を見るたびに、体のどこかが錬金術と術式を記憶する。理解したのではなく、学生が試験のために試験範囲を記憶するのと同じ。
「……なるほど。よくわからんが、貼り付けた術式を使えばいいわけか」
零は呟いた。
地面を伝って術式を発動させることも、なんとなくわかる。
零は地面を手で触れた。からの、術式発動。
1秒後、雫の足下が爆発した。
そうなったことで雫の手元が狂う。銃弾と弾幕のターゲットはパーシヴァルや零たちから外れた。
今度は冷気を放つ。仕組みはわからなくとも、冷気に術式をのせる。冷気が雫に届いたそのとき。温度を下げ、それと同時に爆発を起こす。室内なのに大気が乱れる。
吹っ飛ばされる雫。
「脱出するぞ! 今ここでは有利にに戦えない!」
と、ペドロ。
パーシヴァルもそのつもりだったのか、すぐにバリアを消し。
一行は気を失った雫を一瞥もせず、階段を駆け上がり屋上へ。
少し遅れて赤髪の少女もそれに続く。
屋上から見えるのは、近くの防風林と海。春の朝の海は、何かを送り出すかのよう。
そして、屋上には件の飛行艇もあった。メモにあった通りのもので、鎖で繋がれている。
「俺が起爆装置を作る。ペドロは鎖をどうにかしてくれ」
と、パーシヴァル。
「わかったぜ。操縦も任せな。似たようなことはやったことがある」
ペドロは答えた。
失血で顔色の悪い彼だが、それでも頼もしく見えた。
「ロゼは?」
ロゼが尋ねる。彼女の隣では、赤髪の少女が指示を求めるような表情で見ている。
「零と先に飛行艇に乗っていてくれ。もうやることは飛行艇で飛び立つことと、倉庫を破壊することだけだ」
パーシヴァルはそう答えた。
「わかった」
と言って、ロゼと赤髪の少女は零とペドロについていく。
一方のパーシヴァルは屋上のフロアに手をつき。術式を発動させて起爆装置を作る。飛行艇の起動にどれだけかかるかはわからない。だから、パーシヴァルの電撃に反応するように細工し。起爆装置は完成した。
そのときには、すでに鎖は切られていた。
パーシヴァルは急いで飛行艇に乗り込んだ。
飛行艇には全員が揃っている。
操縦席ではペドロがセキュリティを解除している途中だった。
「そっちはどうだ?」
パーシヴァルは尋ねた。
「よし! できたぞ! 動力源も大丈夫だ! 今すぐ飛び立てるぞ!」
と、ペドロは答える。
「頼む。飛び立ったら起爆装置を作動させる」
パーシヴァルは言った。
やがて、飛行艇の独特なエンジン音が響き始め。飛行艇は浮かび上がる。少しずつ高度は上がってゆく。倉庫は少しずつ離れてゆく。
「やっと脱出か」
と、零。
そんなときだ。
飛行艇が飛び立った後の屋上に雫が現れたのは。
雫は近くに飛び立っていた鎖や倉庫内の部品をかき集め、飛行艇を打ち落とす兵器を作り上げていた。
まだ高度はそれほど高くない。
パーシヴァルはとっさに戦闘用の窓を開け、そこから手を伸ばして電撃を放つ。
1発。狙ったのは雫。兵器を使わせないように。
もう1発。狙ったのは、起爆装置。
電撃が命中した瞬間。パーシヴァルが作った起爆装置は倉庫を巻き込んで爆発を起こす。さらに倉庫の設備が連鎖的に爆発し。
雫は爆発の中に飲み込まれていった。
「……やった。俺たちの勝ちだ」
パーシヴァルは呟く。
だが、その直後に飛行艇は大きく揺れる。
爆発にこそ巻き込まれなかったが、爆風が直撃する形となったのだ。
「つかまれ! なんとかする! 墜落しないようには……!」
と言って、ペドロは操縦桿を強く握る。
やがて、飛行艇の揺れは収まり。崩壊する倉庫を後にするのだった。
パーシヴァルボンバーVS望月キャノン




