14 錬金術師の戦い方
ナノースで兵器を組み上げた雫。異様な雰囲気を放つ彼に圧倒されるパーシヴァルとペドロと零。その様子を見つつ赤髪の少女が飛び出さないように見張るロゼ。
錬金術師は敵に回すと厄介だ。
下手に傷を負わせれば回復するし、周囲にあるものすべてが武器となっているに等しい。雫のナノースならばなおさらだ。
警戒した雫や隙をうかがうパーシヴァルとは対照的に、ペドロは雫との距離を詰める。蠢く兵器の砲の射線から外れるように。ペドロが錬金術についての知識を持っているからだ。
「この能力を知って近づくとは!」
と言って、雫は発砲する。が、砲撃、銃撃はペドロをかすめるばかり。その傷もペドロはすぐに再生させる。かと思えば、空気に術式を作用させて砲撃や銃撃を弾く。そらす。ペドロも手練れの錬金術師だ。いや、それ以上。危ない橋を何度も渡ったかのよう。
射線を読んでいるかのようにしてペドロは雫に近づき、手を伸ばし。
「この手の複雑なモノに術式を載せるのは至難の業だ。動かすことはできても、コアはあるんだろ?」
と言って、兵器に触れて術式を発動させ。雫の持っていた物々しい兵器――倉庫にあった部品をナノースで組み上げて作った即席の兵器を破壊する。
そこまではよかったが、ペドロの予想は裏切られることとなる。
あると踏んでいた兵器のコアに相当するものなど存在しなかった。
ペドロは一瞬焦り。それはペドロの隙を作った。
「残念だったね。コアは僕自身だ」
雫はペドロにできた隙を見逃さず、一瞬で兵器の破片から新たに物体――先端のとがった鉄製の杭――を作り上げる。その物体はペドロの腹部を貫いた。
「ペドロ!」
仮眠室に響く零の声。
ペドロは血を流し、床に膝をついた。
「やっちまったぜ……いけると……」
「喋るな! 傷が……!」
ペドロが言うと、零は言葉を遮った。
それと同時に雫はその手に銃――一瞬にしてナノースで組み上げた代物――を持ち、ペドロに銃口を向け。
そんなときだ――
電流がほとばしる。それが銃に当たり、雫は思わず銃を取り落とす。
かと思えばパーシヴァルが雫の背後から突撃し、電撃を放った。そうして、ペドロと雫の間に割って入る。
「解体できないものはあんたの弱点だ。そうだろう?」
と言い、もう一度電撃を放つ。
電撃をもろに受けた雫はのけぞり、ここで隙ができる。
「……助かったぜ……零を……呼んでくれ……」
ペドロは息も絶え絶えになりながらそう言った。が、彼の口調とは裏腹に傷は少しずつ塞がっているよう。腹部を貫通していた物体もいつの間にか消えていた。
「わかった。どうにかする」
と、パーシヴァル。
そうしているうちに雫は体勢を立て直したのか、再び兵器を組み上げて攻撃に入る。先ほどの銃撃とは比べものにならない密度の弾幕で。
対するパーシヴァルは違和感に気づき、とっさの判断で電磁波のバリアを張った。
弾幕はすべてバリアに弾かれる。バリアの内側にいるパーシヴァルたちに攻撃が届くことはない。
だが、いつ弾幕が止むのかもわからない。このまま防ぎ続けてもじり貧だ。
パーシヴァルとペドロは雫の様子を見ながら突破口を探っていた。さすがにこの弾幕の射線すべてを見切ることはできない。
「早く出てくるといい。どうせそうしたところで何もできない。僕にやられた方が早いよ」
と、雫は言った。
すると、パーシヴァルは言う。
「出て行かなくとも、やりようはある!」
パーシヴァルはバリアを展開したまま、攻撃に移ろうとする。バリアの内側から、外側へ。同じナノースで放つ攻撃なのだから届くはずだ――
が、パーシヴァルの展開したバリアの一部が消える。バリアが消えた辺りから弾幕が入り込む。それと同時にパーシヴァルを頭が焼き切れるような頭痛が襲う。
「……っ!」
頭を押さえ、パーシヴァルは膝をつく。それと同時に消えるバリア。どうやら自身のキャパを超えて術式の演算を行ったことで脳と体に大きな負担がかかったようだ。
直後。バリアが消えたことでパーシヴァルたちに弾幕が降り注ぐ。
終わりだ。
絶望するパーシヴァル。
判断を誤ったせいで自分が死ぬだけでなく、仲間までも命の危険にさらすのだ。
だが、これで終わることもない。
凍り付いた空気が雫の弾幕を遮断した。
零がやった。
零の介入によってパーシヴァルたちは命拾いしたのだ。
絶対零度はすべてが固体となり動きを止める温度。それは弾幕だろうと例外ではなく。
「間に合った。どうすればいい? 低温だけでアイツに勝てるとは思えないが」
零は言った。
「俺が時間を稼ぐ。判断を間違えなければ雫も手を出して来れない。あんたは……ペドロのところに」
そう言って、パーシヴァルは立ち上がり、再びバリアを張った。その直後、零は絶対零度の障壁を取り払い、ペドロの方へ。
パーシヴァルは再びバリア越しに雫と相対する。
「やられた方が早いって言ったろ? そうとは限らない。あんたのナノースの演算にもきっと弱点はある」
パーシヴァルは言った。
「はは、それはどうだろう。僕を君のようなナノースを持っているだけの有象無象と一緒にしないでくれ」
と言って、兵器から大きな弾丸を1発放つ。
それだけか、とパーシヴァルは拍子抜けた。が、それでは終わらない。弾丸は分裂する。1つが2つに、2つが4つに。無限に分裂し、パーシヴァルたちに襲いかかる。弾いたところで何度も分裂する。
きりがない。
「……こうなるのもまずいな」
パーシヴァルは呟いた。




