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克法ロジックパラドックス -世界を変える簡単な方法-  作者: 墨崎游弥
反逆者、倉庫にて【施設破壊編】Side:パーシヴァル
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13 ナノース『Screw』

 ロゼの言葉を受け、パーシヴァルは振り返る。


 その先にいたのは白衣を着た長髪の男。髪色は黒で、毛先だけが青い。顔立ちは整ってこそいるが、どこか異様な雰囲気を醸し出す。

 パーシヴァルはその男を知っていた。


「これは僕のやり方が甘かったということでいいのかな?」


 その男は言った。


望月雫(もちづきしずく)……いや、いつか介入してくるとは思ったが……」


 と、パーシヴァルは言葉をこぼす。


「そうだよ。僕が望月雫ってやつだ。転生病棟アイン・ソフ・オウルのさらに上。カノンとかと同格で、倉庫やら教会やらを受け持っていた。けどねェ……そこのイデア使いを3ヶ月拘束できたからいけると思ったけど。さすがはアイン・ソフ・オウル。甘く見ていたし、やり方が甘かったか」


 その男、雫は言った。


「ご丁寧に、どーも。ここに現れたってことは、俺たちをどうにかしに来たんだろ?」


 今度はペドロが挑発的な口調で尋ねる。


「その通りといえばその通りだね。ま、全員まとめてかわいがってやろう。見た目子供な『ROSE』がいても、な」


 と、雫。

 すると、すかさずロゼが口を挟む。


「かわいがってくれるの? ロゼを?」


「君は勘違いしているだろうが、子供をかわいがる意味じゃない。全員同じ意味だ」


 そう言うと、雫は真っ先にロゼを狙って突っ込んできた。


「危ない!」


 ロゼと雫の間に割って入ったのは零。氷のナイフで雫の操る螺子を受け止める。

 からの、低温。氷を作るのではなく、空気を直接冷やす。大気から液体窒素へ――

 だが。


「温度変化など、僕にとっては基礎でしかない。たかが三態変化、そんなものを使ってどうする?」


 液体窒素も氷のナイフもかき消され。今度は空気に直接術式が投影される。かと思えば、何も無いところから大爆発を起こす。

 何が起きたのかわからないまま零はそのまま吹っ飛ばされる。


 零と入れ替わるようにペドロとパーシヴァルが前に出た。


「ロゼは下がってろ! こいつは俺たちでやる!」


 と、パーシヴァル。

 その間にペドロは地面から術式を操り、攻撃を仕掛ける。1枚のタイルが地面からせり上がる営利な刃と化して雫を下から貫いた。


「たたみかけるぞ!」


 と言って、パーシヴァルが電撃を放つ。未来のロゼを殺したときほどの電圧で雫を殺しにかかる。が、雫は自身の肉体の一部を引きちぎりつつ串刺し状態から脱出。たちどころに傷を治し、爆発を起こす。

 強い。アイン・ソフ・オウルであるパーシヴァルの格上であることには間違いない。


「キイラ並の再生力だな。勝てるのか俺たち……」


 爆風と衝撃波に耐えながらペドロは呟いた。


「勝てる勝てないじゃないだろ。勝たなきゃならない」


 と、パーシヴァル。


 そうしている間に、零は雫の背後に回り込んでいた。

 左手に装着した兵器は一部が青く光っている。パイルバンカーにエネルギーが込められ。零は雫の隙を突くようにして渾身の一撃を放つ。


「さて、僕のナノースを実演しよう」


 雫がそう言うと、零の左腕に装着されていた兵器がバラバラになった。

 破壊されたというよりは、解体されたという方が正しいだろう。兵器は部品ごとに――螺子(ねじ)の1本にまでバラバラになり、部品はすべてばらばらとフロアに落ちる。解体されたのは兵器にとどまらず、その術式までも。兵器から術式を発動することなど、もはやできない。


「錬金術か!?」


 零が言うと、すぐさま雫は否定する。


「違うよ。これが僕のナノース、『Screw(螺子)』だね。人間は様々な機械を開発してきたが、ほとんとの機械には螺子(ねじ)が使われているんじゃないかな」


「待て、ナノースに適合した人数が合わない。ペドロとタケルとロゼを含めて13人のはずだ。そう簡単に適合するものじゃないだろ、ナノースは」


 と、パーシヴァルは口を挟む。


「そうだね。いや、カノンの力を使えばスクリーニングさえパスすれば適合するまでやり直せる。もし君の知っている過去と今で何かがずれていたらどうする?」


 雫の言葉は未来世界からやってきたパーシヴァルに深く刺さった。

 どこまでが正しいか。


 そんなときだ。


「やつの言葉に耳を貸すな!」


 ペドロの声。

 雫の死角から接近し、蹴りを入れる。からの、離脱。


 雫はよろめくも、その間にも術式の演算を続け。


「はは、賢明だよ。もっと気を遣うべきものが始まるというのに」


 と、雫。

 余裕を崩さない彼は先ほどからナノースの術式の演算を続けていたらしい。

 彼の手には鉄の塊が握られ。それを核とするように様々なものが引き寄せられ。螺子(ねじ)でつなぎ合わせたように組み上げられる。それは兵器のようで。


「そうか。錬金術で考えれば当然のことか」


 パーシヴァルは呟いた。


 そう。

 雫はナノースで倉庫にあったものを部品として、零の持っていた兵器のようなものを作り上げる。

 いや、零の持っていた兵器とは明らかに違う。零の兵器に搭載されていたものはパイルバンカーだけ。今雫が持っているものにはパイルバンカーだけでなく銃器や小型の砲、盾までも搭載されている。さらに兵器は意思を持っているかのように動いている。まるで機械の臓器であるかのように。


 雫は組み上げた兵器をパーシヴァルに向けて言った。


「ああ。破壊と創造は表裏一体。そしてこんな使い方はラオディケの研究から着想を得た。いやあ、彼女はすごい研究者だ」


 雫は得意げに笑う。


「くそ……どうやって戦えばいい。バラしたところでまた作り直されてしまう……」


 パーシヴァルは呟いた。


【登場人物紹介】

望月雫

Ω計画全体の幹部で、カノンらと同格を名乗る。相当手練れの錬金術師で、ナノース『Screw』を使う。望月史郎の息子らしいが、どこかアノニマスにも似ている。

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