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幕間1 敗北者

 指定された場所に来たパーシヴァルを、院長と茶髪の女――キイラが迎えに来た。キイラはいつもの通りポーカーフェイスだが、その奥ではろくでもないことを考えている。これも様々な要因で彼女の精神が汚染されたからに他ならない。


 院長カノンはパーシヴァルの顔をじっと見て言った。


「ここでは込み入った話をしない。院長室へ行くぞ」


「……はい」


 院長室に行くことは重要な話がある他に、詰められる可能性があるということ。それを知るパーシヴァルの足取りは重い。それ以降、パーシヴァルもカノンもキイラも言葉を発しなかった。病棟には3人の足音だけが響く。


 やがて、院長室にたどり着く3人。カノンがドア横のカードリーダーに黒のカードキーをかざすと、解錠される。カノンはドアを開けてパーシヴァルを通すと言った。


「キイラはそこで待っているんだ。私が声をかけたら入れ」


「はい、院長」


 そうして院長室にはカノンとパーシヴァルの2人が入る。

 院長室はここまでの病棟の内装とは違って、木を基調とした高級感ある内装だった。だが、机や椅子、その他の設備はどれも装飾過多というよりは機能性に優れたようなもの。ここからも院長カノンの趣味が見て取れる。


 カノンは椅子に座ると、すぐにカノンを見て言う。


「実験体25-666-11に負けたらしいな。そうして貴重なデータと重要な情報の一部、セキュリティを解除するカードキーを奪われたと。大問題だぞ」


 口調こそ淡々としているが、彼の中には行き場のない怒りがあった。


「はい」


 と、パーシヴァル。


 再びカノンはパーシヴァルと目を合わせた。彼の目はもともと白目から黒く、化物を思わせる。


「前代未聞の事態だということは自覚している。それでもだ。下っ端ならまだいい、大した権限がないからな。だが、お前は幹部。アイン・ソフ・オウルだ」


 カノンは感情を抑えつつ言う。


「申し訳ございません。すべて見誤っておりました」


「誠意を見せればそれ以上はいらん。とはいえ、お前を単独で行動させる気が失せたのでね。これからはキイラとともに行動するように。入れ」


 カノンは言う。

 すると、重厚なドアが開かれてキイラが入ってきた。


「はい、院長。この話はパーシヴァルくんを迎えに行く前に聞きましたし、把握してますよ。私はあのことを受けて地下牢に見張りに行くんですっけ」


 そう言うキイラの紫色の瞳が妖しく輝いた。


「その通り。先程ヴァンサンから連絡を受けたのだが、ナロンチャイ・ジャイデッド……25-666-11らを制圧し、地下の独房に投獄した。イレギュラーである以上、見張りが2人は必要だと判断したのだよ。そこでお前たちに頼みたい」


 まさかの重要な任務に、パーシヴァルは目を白黒させた。彼自身はカードキーや情報を奪われるなどの失態を犯した立場である。

 そんな傍らでキイラは言った。


「つまり、パーシヴァルくんの監視ですね。地下の監視なら普通は私一人で任せて下さいましたよね」


「その通り。フィトが討たれた今、正直フリーにする戦力が惜しい。信用がないというだけでお前を切り捨てる状況ではないのだよ、パーシヴァル」


 と言って、カノンは刺すようなまなざしをパーシヴァルに向けた。キイラもパーシヴァルを見るのだからパーシヴァルにとって今の院長室は居心地が悪い。


「……返す言葉もありません」


 パーシヴァルは言った。


「私はそのようなことを聞きたくない。いいか? 求めるのは言葉ではなく行動。それを忘れるな。やるべきことを理解すれば、すぐに行動に移せ。以上だ」


 そうしてカノンは締めくくり、説教は終わる。

 パーシヴァルとキイラは頭を下げた後、院長室を出て地下牢へと通じるエレベーターへと向かうのだが。


 キイラは歩きながらパーシヴァルに尋ねた。


「素朴な疑問なんだけど、なぜ交わらなかったの?」


 パーシヴァルよりも小柄なキイラは彼を見上げる。可愛らしいはずの上目遣いでも、キイラのその言葉を伴えば謎の威圧感があった。


「それは……」


「あの時にいたのってクロルでしょ。あなたとは仲良かったみたいだし、そのまま交わってしまえばよかったのに」


 パーシヴァルが弁明しようとするのを遮るキイラ。パーシヴァルの顔色は悪くなる。


「あんたは……同僚をどんな目で見ているんだ……」


 パーシヴァルは声を絞り出した。


「純粋な目だよ。仲の良い2人を微笑ましく見守る、ね?」


 にこりと笑うキイラ。一見無害そうな笑顔でも、彼女の素性を知るパーシヴァルは恐怖を感じずにはいられなかった。


「俺とマリウスは同じ職員で、友人。それだけの関係だ」


 パーシヴァルはそうして否定するが、キイラは真剣に受け止める気もないようだった。アイン・ソフ・オウルとしては新参で、まだ馴染めているとはいいがたいうえに最年少。さらに癖の強い面々の中でもパーシヴァルは浮いていた。


「ふうん、そうなんだ。期待外れだとかは思っていないよ。とはいえ、あなたが会ったこともないのにロゼ、ロゼって言っているのもなんというか。どう思っているかは言及しないでおくよ」


 と、キイラは言った。

 2人は地下牢へと向かうエレベーターを起動した。



☆登場人物

キイラ

アイン・ソフ・オウルの一員。『Antibiotics(抗生物質)』のナノースを持つ。医者で研究者。人体の再生産にまつわる研究をしている。

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