8 最悪な再会
鉄扉、階段、コンテナを抜けて倉庫の地上部分へと戻ってきた3人。
まず、パーシヴァルは周囲の様子を確認する。
敵がいないか。罠が仕掛けられていないか。待ち伏せされていないか――
空気が違う。
先ほどまでとの違いに、パーシヴァルはいち早く気づいた。
「待ち伏せか。誰――」
「早まるなよ。俺だ、ペドロだ。味方だ」
またも聞き覚えのある声。
だが、先ほどとは異なり、そこにあるのは敵意ではなく。
直後、コンテナから1人の男が飛び降りてきた。
ペドロだった。
「パーシヴァルもロゼも無事みたいだな。で、彼は?」
と言って、ペドロは零を見る。
当然ながらペドロにとって零は初対面。少しばかり警戒する面もある。
「織部零だ。ここに潜入したが、訳あってパーシヴァルと行動している」
零は答えた。
すると、ペドロは目を丸くし。
「潜入した、なあ? マリウスみたいだな。別組織からΩ計画の施設に潜入して、計画の一部に大打撃を与えた。結果、転生病棟はほぼ落ちたっていうね」
パーシヴァルと零ともに口にしようとしなかった名を口にした。
すると。
「あいつは無事なのか!? Ω計画の組織に潜入すると言って連絡を絶ったと聞いていたぞ!?」
零は顔色を変えて言った。
「安心しな、零。マリウスは無事だ。あいつはうまく立ち回った。職員としてボロを出した時もなかったからな。反乱のときまでだいぶ信頼されていたぜ。なんなら俺も気づかなかった」
と、ペドロは答えた。
マリウスと零。
Ω計画の施設に潜入した、同じ組織に所属する人間。だが、その後は対照的だった。
不確定要素をうまく味方につけ、反逆者として病棟から脱走できたマリウス。
孤軍奮闘したあげく、3ヶ月も監禁されていた零。
「言葉にもできん。俺は本来、そういう役目のはずだったんだが……」
零は言った。
「まあまあ。マリウスも言っていたぞ。運が良かっただけだってな。それより情報交換をしよう。俺は謎のノートを拾った。全部は読めていないが、何かの写しなのは確か。死者蘇生がどうこうとか、な」
と、ペドロ。
「死者蘇生だと!?」
真っ先に反応したのは、零ではなくパーシヴァル。
「お前、元アイン・ソフ・オウルだろ? 何か知ってるのか?」
ペドロは聞き返す。
「俺がナノースに適合した頃、ハリスから直接聞いた。あいつの研究テーマだ。なんでも、人間の可能性をより広げる素晴らしい研究だそうだ」
パーシヴァルは冷静さを取り戻して言った。
彼の言葉を聞きながら零は眉間にしわを寄せる。
「死者蘇生なんてやるもんじゃない。生き返った人間は果たしてそいつ本人か。確かめる必要がある時点でな」
と、零は言う。
そんなときだ。異様な気配が近づいてきたのは。
生きている人間のようでそうではない。魂が揺らいでいるような――
「……は?」
ペドロは声を漏らす。
そこにいたのはパーシヴァルやペドロにも見覚えのある人物。
しかし、本来ならここに彼はいるはずがない。いてはならない。だって彼はすでに死んだ人間なのだから。
「蘭丸……? 転生病棟で死んだはずだろ?」
蘇芳蘭丸。
転生病棟でタケルに殺された病棟幹部――アイン・ソフ・オウルのひとり。
だというのに、彼は生きているかのようにここにいる。幽霊や幻覚などではなく、この場に存在している。
それだけでもおかしいのに、パーシヴァルは謎の違和感を覚えた。蘭丸とは別の、自身のよく知る何かがここにいる。それは一体――
蘭丸は何も語らず、ただナノースを使い。光を放つ。
光の焦点には術式が投影され、その場で術式が発動する。
爆発。動く壁。崩れたがれきは棘に姿を変え、パーシヴァルたちを襲う。
すると、零が氷の防壁を貼って攻撃を防ぐ。
かと思えば蘭丸は光線を放つ。
今度はパーシヴァルが電気のバリアで防ぎ。
「ハリスがいないから楽にやれるな。いや、それを差し引いても弱い。あんた、本当に蘭丸なのか?」
パーシヴァルは言った。
蘭丸は答えない。
ただ術式を発動してパーシヴァルたちを攻撃するだけ。そして。
「パーシヴァル……アタシ……私は……」
パーシヴァルは違和感の正体を確信した。
逆になぜ気づかなかったのだろう。
未来ではずっと一緒にいたではないか。彼女に会うために病棟幹部として心を殺し続けてきたではないか。
「ロゼ……ロゼだよな……?」
パーシヴァルは優しい声で言う。
蘭丸の姿をした何者かは何も話さない。どころか、無言で光線をパーシヴァルに放つ。
「もう、近寄らないで。私は、あんたを売ったのに。どうしてそんな優しい顔をするの」
蘭丸――未来のロゼは言った。
その目ににじむのは涙。悪いのは未来のロゼではない。2人の仲を引き裂いた運命にほかならない。
パーシヴァルは未来のロゼを前に、半ば混乱していた。
そんなパーシヴァルに向け、ペドロは言う。
「パーシヴァル、大丈夫か?」
「頼む。手を出さないでくれ。もし、手を出したら……俺はあんたを一生恨む」
パーシヴァルはペドロに向き直ることなくそう言った。そうして、蘭丸の姿をした未来のロゼだけを見てこう言った。
「何があった?」




